投稿日:2025年7月8日

発想力を鍛える問題発見と因果分析で課題解決力を強化する手法

はじめに:製造現場で問われる「課題解決力」とは

近年、製造業を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。
グローバル競争の激化、需給変動の加速、サプライチェーンの複雑化、そして人手不足への対応——。
こうした中で今、現場の第一線で求められているのは「課題解決力」だと言えるでしょう。

しかしながら、製造現場の課題は複雑です。
その多くは一見、目の前に見えている「現象」だけが問題に見えるものですが、実際にはその背後に潜む複数の要因や複雑な因果関係が存在します。
こうした課題の「本質部分」を見極め、適切な打ち手を創出できるかどうかが、これからの現場リーダーやバイヤー、サプライヤーに不可欠な能力なのです。

なぜ今、発想力と因果分析が求められるのか

かつての日本の製造業の現場では、標準化や改善活動が徹底され、体系的な仕組み作りを通じて「現場力」を磨くという文化が根づいていました。
いわゆるトヨタ方式(カイゼンや5S)などもその典型です。

しかし、現代は状況が違います。
デジタル化や自動化が進む一方で、製造現場には長年続いてきた「昭和型アナログ文化」もなお色濃く残っています。

もっと言えば、「誰かが決めたやり方を守る」「トラブルがあればその場しのぎで復旧させる」「あたり前を疑わない」——。
そんな保守的な風土に新しい課題が登場し、「このやり方で本当に良いのか?」と問い直す力、すなわち「発想力」や「問題発見力」、そしてその原因を論理的につなぐ「因果分析力」が強く求められるようになったのです。

変化が価値を生む時代へ

内外の環境変化が促す多品種少量生産、カスタマイズ要求の多様化、急速な技術革新……。
もはや、過去の「経験や慣習」だけでは立ち行かず、未知の課題に対応できる柔軟な発想力と、根本原因を突き止め改善を回し続ける力が最大の競争力になっています。

問題発見の技術:表層に惑わされず本質を捉える

課題解決の第一歩は「問題発見」にほかなりません。
ですが、多くの製造業現場では、目の前に起こっている異常やトラブルを、そのまま「問題」として捉えてしまいがちです。

たとえば「機械がよく止まる」「納期遅れが頻発している」「品質のバラツキが収まらない」といった現象は、確かに放置できない現場の悩みです。
ですが、それが「なぜ起こっているのか」「そもそも何が本当の課題か」までを深掘りしなければ、対策は一時しのぎに終わってしまいます。

なぜなぜ分析で真の課題をあぶり出す

現場で最も多く使われる問題発見の手法として有名なのが「なぜなぜ分析(5Why)」です。

「なぜ、その現象が起きたのか?」を、最低5回繰り返し問い直すことで、表面的な問題(現象)から本質的な原因や真因にたどり着くアプローチです。

たとえば「出荷前検査で不良品が発覚、出荷遅延が多発」という案件があったとします。
これに対し、次のように掘り下げます。

1. なぜ出荷前検査で不良が発覚したのか?
→ 製造工程で寸法ズレが発生した。
2. なぜ寸法ズレが起きたのか?
→ 加工機の定盤が摩耗していた。
3. なぜ定盤の摩耗が見逃されたのか?
→ 点検・保全の頻度が下がっていた。
4. なぜ点検保全の頻度が減ったのか?
→ 担当者が人手不足で他作業を優先せざるを得なかった。
5. なぜ人手不足なのか?
→ 部署横断の業務量調整がされていない。

このように掘り下げることで、「単なる製造不良」という現象を越えて、本質的な課題=組織横断での業務フローの見直しが不可欠だという本当の課題(課題設定)が見えてきます。

「あたり前」に埋もれた非効率に目を向ける

昭和から続くアナログ現場にありがちな「ルールを疑わない」「昔からの習慣を続ける」ことこそ、最大の盲点です。
たとえば毎朝の定例会議や、紙での手順書運用、定型報告書のフォーマットなど、「あって当たり前」と思われているものこそ、なぜそれが必要か? どんな目的を果たすべきか? 一度立ち止まり問い直すことが大切です。

これが「本質を見抜く」問題発見力に繋がります。

因果分析でクリティカルな打ち手を導き出す

問題を深く掘り下げる「なぜなぜ分析」などで原因の特定を進めたら、さらに一歩進めて「因果分析」の力が求められます。

要因系統図(フィッシュボーン・ダイアグラム)の活用

よく使われるのが、要因系統図(フィッシュボーン、いわゆる「特性要因図」)です。
品質トラブルなら「人」「機械」「材料」「方法」「環境」といった観点で徹底的に洗い出し、複数の要因を関係性ごとに整理します。
これにより複数要因が「どう繋がっているのか」「どの部分がクリティカルパスか」、つまり「ここが変われば大きく状況が変わる」要(かなめ)部分を明らかにできます。

現場リーダーやバイヤーの場合、「この問題は本当に現場だけのものか」「設計や調達、物流部門との連携のどこでボトルネックか」「システム導入の余地があるか」まで俯瞰する視点が不可欠です。

「見える化」で共通認識を創出する

分析結果は、「見える化」こそが強力な武器です。

例えば異常発生の時系列グラフや、部門間の情報連携マップ、工程ごとのリードタイム推移図など、目に見える形で問題と因果構造を共有することで、関係者全員の共通理解・合意形成を促せます。
昭和アナログ的な「言った言わない」「根拠は肌感覚」といった水掛け論から脱却し、客観視点で全体最適な議論を進められます。

現場目線の実践とバイヤー・サプライヤーの視点

ここからは、実際の製造現場の視点、バイヤー・サプライヤーそれぞれの立場で「課題解決」をいかに実践するか考えてみます。

現場リーダーの場合

例えば生産管理担当者なら、「納期遅れ」という現象の裏に「材料納入遅れの頻発」「設備ダウンタイムの長期化」などが隠れているかもしれません。
そこに「納期遅れ=人が頑張るしかない」という思考停止ではなく、「なぜ材料納入が遅れるのか」「発注タイミングの見直し余地はどこか」「IT化で可視化できないか」といった、多角的な仮説をラテラルシンキング(水平思考)で磨く姿勢が大切です。

バイヤー(調達担当)の場合

バイヤーはいわば「供給体制の最適化」が使命です。
発注部材のリスク、供給先の安定性や品質、価格交渉力など、複合的な要因で課題の全体像を捉える必要があります。
「このサプライヤーにこだわり過ぎていないか」「いざという時の代替ルートは確保できているか」「QCD(品質・コスト・納期)のバランス点は本当に妥当か」。
仮説検証⇒因果分析⇒現場との連携を回す——これを習慣化することが課題解決力の源泉です。

サプライヤーの場合:取引先バイヤーの考えを読む

サプライヤーにとって大切なのは、「なぜ発注条件がこのようになっているのか」「量産移管時に何を重要視されているか」等、バイヤー側の課題意識を因果構造として理解すること。
たとえば「納入不良でペナルティが多い場合」は、「検査工程の見直しが急務」「情報共有不足」「工程変更に未対応」といった、実はサプライヤー⇔バイヤー間で起きている「見えにくい課題」を読み解くヒントが隠れています。
ここを因果分析し、自社の現場改善に反映することで、取引先からの信頼度向上にも直結します。

現場の「壁」を突破するラテラルシンキング

問題発見・因果分析というと「理詰め」「定石どおり」といったイメージがありますが、実は発想の枠を飛び越える「ラテラルシンキング」こそが現場力の本質です。

思考の型に囚われない

よくある失敗例が、「去年もこのアプローチでうまくいった」「同業他社はこうしている」といった“過去の成功体験”や“常識”に囚われること。
一方で、全く違う業界から手法を学ぶ、不可能に見えるやり方をまず発案してみる、問題の枠組みそのものを作り替える——。
こうした柔軟な発想力が現場発のイノベーションをもたらします。

例えば、単純作業の自動化についても、「人の動きを真似た自動機械を作る」だけでなく、「そもそもこの工程はいるのか」「パーツの形状を見直して工程ごと無くせないか」「アウトソーシングやBPO化は可能か」など、多次元的に発想を拡げると根本的な生産性向上に繋がります。

IT活用とアナログ現場の競争力強化

昭和アナログ的な現場文化でも、今やIoT・AI・デジタルツールの活用が加速しています。
ですが「すべてデジタル化」だけが正解ではなく、現場でどうアナログな知見や職人技と融合させるか=人の力と道具(ツール)の最適組み合わせこそ競争力の本質です。

「AIに任せる部分」「現場経験者が直感で判断するポイント」を適切に因果分析し、バイヤーやサプライヤーとも共有できる土壌を作ることが、今後の現場に求められます。

まとめ:発想力×因果分析で現場から未来を打ち拓く

現場で問われる「課題解決力」とは、単なる定石や経験則の延長ではありません。
問題発見の精度を上げる力、因果分析で本質に切り込む力、そして既存の発想に捉われず新しい地平を切り拓くラテラルシンキング。

これらを意識的に鍛え、日々の実践の中でPDCAを回すことが、解決力の源泉です。
古き良き昭和型の現場魂と、ITやデジタル力を融合させ、バイヤー・サプライヤー・現場の全員が課題を共有しながら価値創造に取り組む。
その歩みが、今後の日本の製造業の「現場力アップ」そしてグローバル競争での生き残りのための最高の武器になると確信しています。

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