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技術者のための問題解決能力修得講座

目次
はじめに ― 製造業における「問題解決能力」の重要性
製造業の現場では、日々起こる小さなトラブルから、会社の存続を左右するような重大な事故まで、さまざまな課題が連続して発生します。
私自身、20年以上現場で調達購買から生産管理、品質管理、さらに工場長という管理職まで経験してきましたが、仕事で最も求められる力は、「問題解決能力」であると確信しています。
しかし昭和の時代から続くアナログな慣習や、同じやり方に固執する体質が根強い現場では、「なぜこうなったのか」「どうしたら抜本的に改善できるか」を突き詰めて考える訓練が十分とは言えません。
この記事では、現場目線に立ち戻りつつ、現代のバイヤーやサプライヤーの立ち位置・考え方も交えて、製造業全体で求められる問題解決能力の本質と養い方について深掘りしていきます。
問題解決能力とは何か?― 表面的な対処と根本的な解決の違い
現象対応から真因究明へのシフト
「クレームが発生した」「納期が遅れた」「在庫が膨らみすぎている」など、製造業の現場では常に問題が発生します。
多くの現場では、とりあえず応急処置をして、その場しのぎの対策で済ませがちです。
しかし、本当に付加価値を生む「問題解決能力」とは、現象だけにとらわれず「なぜそれが起こったのか?」の真因を探り、再発防止まで落とし込んで初めて身につくものです。
例えば、表面処理の不良が多発した場合、「外注先に注意喚起した」「QC検査を強化した」だけでは再発のリスクを消せません。
一方で、「設計変更時の情報伝達ルートに抜けがあった」「工程変更の稟議が現場まで徹底されていなかった」など、システム根本の課題まで掘り下げて新たな仕組みを導入することが、真の問題解決です。
「ラテラルシンキング」で枠を超えて考える
製造業では、どうしても「この設備では無理」「前例がない」「コストがかかる」といった思考停止に陥りがちです。
が、世界的に成功している現場では「ラテラルシンキング」 ― つまり枠にとらわれない横断的な発想力が、問題解決の突破口になっています。
例えば、部品納期の短縮に悩んでいた企業が、調達部門が生産計画に参画し、需要予測型から需要連携型調達への転換を果たすことで、大幅にリードタイムを削減できた事例があります。
このように、枠を超えて多部門横断、過去のルールを一旦ゼロベースで再検討する力が大きなイノベーションをもたらします。
現場×バイヤー×サプライヤー ― 立場ごとに求められる問題解決アプローチ
現場技術者に必要なスキル ― 経験則からの脱却
実際にモノづくり現場に立つと、先輩から「まずやってみろ」と教え込まれ、経験がものをいう世界になりがちです。
しかし現代は、経験だけでなくデータ分析やプロセス設計などの論理的スキルも同時に必要です。
現場技術者は、次のような問題解決サイクルを意識してください。
– 異常の早期察知(現象把握)
– データ収集・現場の事実確認
– 原因の仮説立てと検証
– 関連部門との連携・ヒアリング
– 恒久的対策(設備・工程・規程の見直しなど)
– 再発防止の仕組み化・教育
この新しいサイクルは、人の勘や経験だけでなく、論理的なPDCA(Plan→Do→Check→Action)を確実にまわす力として鍛えていきましょう。
バイヤーを目指す方へ ― 本質的交渉力とリスク管理
バイヤーに必要な問題解決力とは、単なるコストダウンや調達先変更ではありません。
今や求められるのは、本質的な価値創出につながる「調達戦略」です。
たとえば、サプライチェーン途絶リスクへの備え、需要変動リスクのシミュレーション、多様なサプライヤーとのパートナーシップ強化などが求められます。
仕入先の課題(QCDS: 品質・コスト・納期・サービス)の本当のボトルネックを分析し、「なぜ値上げ要請が止まらない?」「なぜ納期遵守率が下がっている?」の真因に向き合うことが大切です。
その上で、
– 複数地域・複数サプライヤーの分散化
– IT活用による発注管理の見える化
– サプライヤー現場との共同改善(現地・現物・現実で判断)
こうした多面的ソリューションを提案して、安定調達とコスト競争力の両立を図る力こそ、次世代バイヤーの本領です。
サプライヤー側からの視点 ― バイヤーが考える「真の価値」とは?
サプライヤーもまた「バイヤーは何を考えているか?」を深く理解しなければ生き残れません。
単なる価格競争では、やがて消耗戦に陥ります。
バイヤーが期待する問題解決能力とは、単純な要求事項を満たすだけでなく、
– 予期しないトラブル(品質・納期遅延など)を未然に防ぐ力
– クレーム発生時のスピーディな現状共有・初期対応力
– バイヤーと共同で進める改善活動の提案力
– トレーサビリティ・IATF16949など要求標準に対する迅速な準拠力
こういった点です。
「御社の設備の老朽化を現場視点で可視化しました。この箇所の改造プロジェクトをご提案します」など、データや実績に基づく積極的な情報提供と改善策こそ、バイヤーから信頼される「パートナー」への道です。
現場で活かせる問題解決フレームワークと思考法
なぜなぜ分析 ― 「なぜ」を5回繰り返す
現場で最も有効な手法が、「なぜなぜ分析」です。
問題発生時に、表面的な原因で止まることなく「なぜ」を5回繰り返して真因を掘り下げていきます。
例えば、部品不具合が発生したとき、
1. なぜその部品で不具合が出たのか?→規格外品を混入した
2. なぜ規格外品が混じったのか?→検査工程で誤って合格判定された
3. なぜ検査工程で誤判定したのか?→検査員が基準変更を知らなかった
4. なぜ基準変更が伝わっていなかったのか?→伝達ルートが文書のみだった
5. なぜ文書のみだったのか?→教育・OJTの仕組みがなかった
こうして「教育体制を見直す」ことが真因だとわかれば、「検査プロセスを仕組みごと改善する」という発想につながります。
MECE(モレなくダブリなく)で課題を整理する
多くの現場で起こりがちなのが、課題や対応が一部に偏った「抜け・ダブり」です。
MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)思考で、全体を網羅しつつ重複しない切り口で課題や対策をリストアップしましょう。
「調達プロセス」を例にすれば、
– 仕入先選定
– 発注契約
– 納期・在庫管理
– 品質管理
– コスト管理
– コミュニケーション
このように体系化することで、特定の領域のみに注力しすぎて「他でミスが発生」という再発を防げます。
ブレーンストーミング+シナリオ・プランニング
問題解決チームを編成し、従来の枠組みを外した自由なアイデア出し(ブレーンストーミング)を行いましょう。
とくに調達購買や生産管理では、外部環境や需給変動の激しい時代です。
「最悪なのはどんな状況か?」「その時の最善手は何か?」と複数シナリオに分けてリスク対応策をプランニングしておくと、いざという時の初動スピードが格段に高まります。
昭和型アナログ業界から脱却するための組織的チャレンジ
高度成長期から昭和の時代、現場力やカイゼンは日本製造業の誇りでした。
しかし現代は、グローバル化とIT化に遅れたまま、内向きの体質から抜け出せずにいる業界も少なくありません。
問題解決能力の最大の敵は「前例主義」と「失敗を許容しない文化」です。
現場技術者も、バイヤー・サプライヤーも、組織全体で「失敗=次の成功への情報」と捉える心理的安全性と、
– 提案と改善を評価するカルチャー
– 部門横断の問題共有と共創体制
– DX(デジタルトランスフォーメーション)による現象可視化と迅速な意思決定
こうした組織的な動きがあってこそ、一人ひとりの問題解決能力が最大限に生かされます。
これからの製造業をリードする「問題解決能力」習得ロードマップ
第一歩は「現状把握」と「失敗体験」の言語化
まずは日ごろの現場業務で遭遇したミスやトラブルを、“なぜ起きたか?”“どう改善すべきか?”を言語化し、書き出してください。
体験の棚卸しは、問題解決の出発点です。
異分野・異業種から学ぶ「ラテラルシンキング」
同じ業界だけでなく、例えばIT・流通・建築・自動車など他業種の事例から、「どう考え方を取り入れられるか?」を探ってみましょう。
意外な組み合わせが、イノベーションにつながることも少なくありません。
簡便な分析ツール(Excel、フリーのBIなど)を活用する
現代は、Excelや無料のBIツールでも大量データの集計や傾向分析が充分可能です。
現場・購買・サプライヤーそれぞれで、“思い込み”を「エビデンス」で検証する習慣を身につけてください。
上司や他部門への「相談・巻き込み」の訓練
自分一人で悩まず、上司や関連部門に「事実」と「仮説」に基づいて相談、そして協力を巻き込む訓練を積みましょう。
コミュニケーション力も問題解決の一部です。
まとめ ― 製造業の未来へ、「問題解決能力」が切り拓く新たな地平線
今、製造業は世界規模でかつてない変革期にあります。
調達購買、生産管理、品質管理、工場の自動化、すべての領域で「新しい視点」「枠を超えた協働」「根本から変える力」が求められています。
現場の一人ひとり、バイヤー志望者、サプライヤーも、本気で「問題解決能力」を鍛えることが、これからの10年、20年先の成長と競争力を左右します。
現場目線の提案とチャレンジ。
失敗を恐れず、真の原因に迫り、多様な仲間とともにソリューションを形にする。
それが、昭和の常識を超え、未来の製造業をリードするエンジニア・バイヤー・サプライヤーへの道です。
一歩踏み出す勇気と、ラテラルな考え方で、共に新しい地平線を切り拓きましょう。
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