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樹脂グレードの過剰性能を外して成形条件を緩める選定手順

目次
はじめに:なぜ樹脂グレードの過剰性能が起きるのか
ものづくりの現場で長年実感してきたことの一つに、「樹脂材料の選定における過剰性能」があります。
設計や調達の段階で余裕を見すぎたスペックの樹脂グレードが選ばれ、その結果、成形現場が余計な苦労を背負ったり、無駄なコスト負担が発生してしまったケースを数多く目にしてきました。
昭和時代から続く日本の製造業では、過去事例に倣った選定や、部品ごとに「この部位はこのグレード」と決まりきった選定基準が根強く残ります。
その結果、性能を“念のため”高めに見積もる傾向が強まり、ほんとうに必要な要件以上のグレードを使う「スペックオーバー」が蔓延しています。
しかし、グレードの過剰性能を外し、成形条件そのものを緩和することで、コスト削減・歩留まり向上・調達リスク低減など多くのメリットが得られます。
本記事では、バイヤー・サプライヤー・現場エンジニアとあらゆる立場の方が納得し、実際に現場レベルで判断できる「過剰グレードの見極めと最適な選定手順」を、ラテラルシンキングを交えて徹底解説します。
樹脂グレードの“過剰性能”が与えるインパクト
コスト面での影響
樹脂の高性能グレードは、それだけ原材料価格も高額になります。
加えて、特注色や耐候・難燃といった特殊グレードは、入荷リードタイムが長く、調達管理面でのリスクも増大します。
現場での成形条件がタイトになり、歩留まりが悪化しがちです。
つまり、一つの過剰グレードが「材料費+在庫管理費+成形コスト」の三重苦を招くのです。
調達・在庫リスクの増大
特殊グレードは、一過性の需要増の際やサプライチェーンの混乱時に調達が非常に困難となります。
特に2020年代に入り、世界的な樹脂不足・物流乱れも顕在化したことから、「共通化とグレードダウンによるリスク分散」の重要性が増しています。
成形現場の不必要な負荷
高性能グレードの樹脂は制御温度などの管理幅が狭く、歩留まりや品質安定性が犠牲になることも多々あります。
「この材料は難しい」と現場サイドに不安と無駄なコストが重なっていないかを、管理職やバイヤー・サプライヤーは常に見直す視点が必要です。
なぜ過剰性能の樹脂グレード選定が多発するのか
過去の完全模倣主義から
日本のものづくりは、徹底した過去事例への追従という長い伝統を持ちます。
たとえば、
「◯◯社の案件ではこのグレードを10年間使い続けたから安心」
「クレームリスク回避でワンランク上の材料を指定」
こういった習慣が半ば無意識に続いています。
設計要求の“マージン信仰”
設計段階で実際の使用条件より極端に広い安全率を見込むことも珍しくありません。
とくに外力や温度変化、耐久性といった項目で、
「念には念を」で上方向に大きなマージンを積み増してしまう文化があります。
成形品質トラブルの“材料要因”への責任転嫁
実際の成形では、温度や圧力といった条件設定こそが品質に直結します。
しかし、不良対策として「とりあえず高性能グレードにすれば安心」といった安直な選択が繰り返されてきた実情があります。
過剰性能を外して最適グレード・成形条件を導くための思考プロセス
1. 製品用途ニーズの再定義
まず「その製品、パーツが本当にどんな使用環境・力学的ストレス・耐久性を要求するのか」、設計と現場チームで徹底的に議論します。
実際の使用期間、ヒトの手で加わる力や、保存環境に照らし合わせたとき、設定した数値がオーバースペックでないかを再確認します。
2. グレードスペックと余剰マージンの“見える化”
強度、耐熱、難燃性など物性値をリスト化し、実現値と必要値を比較します。
この際、標準仕様書に頼りきるのではなく、実際の現場ヒアリングや、現役ユーザーの困りごとを反映させることが肝要です。
3. バイヤー&サプライヤー連携でコスト要因を共有
価格・納期・在庫安定性といった各社で異なる調達要件も、材料選定時には必ずテーブルに乗せます。
この場を設け、極力「多くの用途で共通運用できるグレード」=“カバー率の高い材料”へと一本化・標準化を図ります。
4. 現場成形チームの“本音”ヒアリング
過去に歩留まりが悪かった理由、成形条件で苦労している点、ベテラン技術者ならではの経験則――。
こうした一次情報を吸い上げて、机上だけでのグレード選定から脱却しましょう。
実際、「この特性は不要。もう少し条件がラクな材料を使いたい」という現場の事情は、工場現場の生の声を聴いてこそ初めて見えてきます。
5. バリデーション(評価試験)の再設計
ここまでで「本当に必要なスペック」と「使いやすい成形条件」が見極められたら、グレードダウン版で評価試作を実施します。
寿命テストから力学試験まで、新グレード・条件で十分に運用可能かを再検証しましょう。
このV字ループが、設計・調達・現場それぞれの納得感を生みます。
【具体事例】樹脂グレード見直しの実践ステップ
ケース1:OA機器用カバー部品(ABS樹脂の耐衝撃グレードから一般グレードへ)
– 従来は落下時の万一破損を懸念し、耐衝撃ABSを指定。
– しかしカバー自体に衝撃が加わる現場は極めて限定的であることが判明。
– 一般グレードABSへ見直した結果、材料単価は15%ダウン、成形不良率も低減。
– サプライヤー在庫も共通化でき、調達リスク低減。
ケース2:自動車内装部品(耐熱ポリカーボネートから標準グレードへ)
– 従来は100℃以上の耐熱性能が求められ特注グレード使用。
– 実際の温度計測で最大80℃を超える環境がないことが判明。
– 標準グレードPCへダウングレードし、コスト・調達リードタイムが著しく改善。
ケース3:家電部品(難燃グレードから非難燃グレードへ)
– 難燃規格品を過去慣習で指定していたが、部品自体は筐体内で露出しないこと、発火リスクが極小であることを再評価。
– 非難燃グレードへの見直しで、大幅なコスト低減を実現。
グレード選定のラテラルシンキング:多面的メリット思考
過剰性能を外すことによるメリットは、材料費削減だけにとどまりません。
たとえば次のような副次効果があります。
– 標準グレード運用でサプライヤー数が増える=調達力が改善
– 在庫スペース削減・棚卸資産効率アップ
– 成形条件が緩和され、人的作業負荷・教育コスト削減
– 生産中止や材料供給停止リスクの最小化
こうした観点は、設計・調達・現場の全員で積極的に意見交換しながら「最適な緩和点」を探る“全社最適化”の起点となります。
サプライヤー/バイヤー/現場、それぞれの立場が知っておくべき本質
サプライヤー側の視点
どんなスペック要望でも、「なぜその性能が欲しいのか?」背景を必ず確認しましょう。
実使用環境や設計側の意図、現場トラブルの再発防止といった根本要件のヒアリングが、提案型営業・スペックダウン提案につながります。
バイヤー側の視点
単純な値下げ交渉に陥らず、材料スペック自体を抜本的に見直す発想を持つこと。
そのためにはサプライヤーや現場との三位一体コミュニケーションが欠かせません。
現場(生産技術・成形管理)の視点
遠慮せず「この材料はやりにくい」「歩留まりが下がっている」と実状をフィードバックしましょう。
実際のモノを扱う現場こそが、グレード選定の最適解を知っていることが多々あります。
まとめ:過剰グレードの常識を疑い、業界慣習をアップデートする
樹脂グレードの過剰性能を外し、本当に必要なスペックまで選定基準を落とすことは、一見“リスク”を感じるかもしれません。
しかし、それは「現状維持」という日本の製造業界の古い固定観念に囚われているだけです。
ラテラルシンキングで、
「ほんとうにこの性能は必要か?」
「現場目線でムダはないか?」
「それぞれの工程・立場で本当に納得できる選定手順となっているか?」
という疑問を常に持続しましょう。
製造業の現場が一丸となり、設計・調達・現場を越えたフラットな意見交換を重ね、最適な材料選定を行うこと。
それこそが、生産性・コスト競争力・調達リスクといった競争優位性を高める、最大の近道となるのです。
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