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OEM製造でコストが下がらないときの“工程診断”

目次
OEM製造でコストが下がらない現場の本質とは
OEM(相手先ブランドによる生産)は、コストの最適化や専門領域の活用などの観点から、多くの製造業で浸透しています。
しかし、現場の実感として「OEMに切り替えたのに、思ったほどコストが下がらない」「むしろコストが上昇してしまった」という声は少なくありません。
この壁にぶつかっているのは、決して一部の下請けメーカーだけではなく、発注側のバイヤーや生産管理、調達部門も同様です。
昭和のアナログ体質が根強く残る日本の製造業だからこそ、OEM化による効果を出しきれない“見えない障壁”が各所に潜んでいます。
OEM化によるコストダウンを阻む要因の多くは、実は「工程の見える化」と「現実に即した診断」が不足していることにあります。
今回は、プロの現場目線で、OEM製造でコストが下がらない理由と、その打開策となる“工程診断”について掘り下げていきます。
OEM製造のコストが下がらない主な原因
1. コスト構造の誤解
OEM先任せの価格交渉やコスト算定は、危険な落とし穴となります。
OEMメーカーは自社の生産都合と利益を優先するため、見積もりの詳細項目までは開示しないケースも多いです。
発注側が“コストの中身”を正しく理解しなければ、外形的な金額比較に終始し、根本的なムダや改善ポイントを見逃してしまいます。
2. 工程間ロス・無駄の温存
OEM化により工程の一部を外部委託しても、その前後で発生している社内のムダや工程間の段取りロスが温存されたままだと、全体最適ができません。
特に検査や梱包、物流、情報伝達(帳票や書類)の部分は見過ごされがちです。
3. サプライヤーとの“片手間”なコミュニケーション
OEM先を単なる外注として扱い、情報共有や工程改善のPDCAを回していない企業も少なくありません。
現場訪問や工場監査が年に1、2回だけで終わっていれば、仕組みや現場のボトルネックを把握することは困難です。
4. 図面や仕様のアナログ遺産
昭和の時代に確立された“暗黙知”や“手作業重視”のこだわりが、今も図面や工程仕様に残っている場合、OEMメーカーの自動化生産・効率化が阻害されます。
また、「なんとなく毎回やっている品質検査」「引き継いだだけの工程設定」など、要否検討の余地が大きいポイントが眠っています。
工程診断の本当の狙いとは
OEM製造でのコスト改善の突破口は“工程診断”にあります。
これは単なる現場の見学や5S講評ではありません。
工程診断は次のような本質的な取り組みです。
1. バリューチェーン視点で全体最適を探る
発注側とOEM先、場合によっては2次・3次請けの関連工場も含め、資材の投入から製品出荷までの一連の流れ(バリューチェーン)を洗い出します。
どこが本当の“ブレーキポイント”(ボトルネック)になっているかを特定するため、各工程にかかる作業時間、リードタイム、検査の回数、余剰在庫、歩留り(不良率)といったデータを集めて、見える化します。
ここで重要になるのは、「現地現物」主義と「小さな積み重ね」です。
口頭のヒアリングや帳簿だけで終わらず、現場で目視確認し、数字を自分の目で追いかけることによって、日頃見逃されていたムダや異常値が明らかになります。
2. “何となくの仕様”を洗い出し真因追及
OEM化する際、設計図面や工程仕様をそのまま渡している場合は要注意です。
過剰な検査や不要な工程、重複した品質保証活動(例えば「元のメーカーでもOEM先でも100%検査」)はないでしょうか。
ここはサプライヤーとの対話が非常に重要です。
「この工程は何のためにあるのか」「万一省略した場合、品質リスクはどうなるのか」「最終顧客が本当に求めている要件は?」と踏み込んで議論しましょう。
多くの場合、3〜5年単位で見直されていない仕様や“慣習”が、多大なコストアップ要因になっています。
3. 設備稼働・人員配置・IT活用の最適化
「自動化すればコストは下がる」と短絡的に考えるのは危険です。
現状の人員配置や工程のムリ・ムダ・ムラ(3M)、設備の稼働率、ペーパーレス化・IT化の進捗を診断し、どこが本当に機械化や自動化の対象となるかを見極めます。
また、中小のOEMメーカーでは「古い機械をだましだまし使っている」「稼働データを手書きで集計している」といった、昭和の習慣が未だに現役です。
人的ミスによる手戻りや、システム間の伝達ロス、少ロット多品種への切り替え遅延など、具体的な数字で“損している時間・コスト”を可視化します。
OEM製造における工程診断フロー
現場で実際に機能する工程診断の手順を、分かりやすく解説します。
1. 現場ヒアリング&データ収集
最初に必要なのは“現地現物”です。
OEM先の担当者だけでなく、工程オペレーターや検査員にも個別ヒアリングを行い、その日の作業日報や稼働実績、直近の手直し・不具合事例も集めてください。
「どこでどんな違和感・困りごとが生じているか」を引き出すことが重要です。
2. 工程フローの可視化&マップ化
工程表やフローチャートを作成し、各ステップごとに「作業者・設備」「何を・何分・どうやって」行っているかを書き込みます。
面倒に思える作業ですが、全体フローを書き出すことで、「この工程、重複していないか」「大きな手待ちや余剰在庫が発生していないか」というムダやズレが一目瞭然になります。
3. 数値で見るボトルネック分析
可視化された各プロセスごとに、サイクルタイム(リードタイム)、設備稼働率、生産数量、歩留まり率、不良発生件数などを管理表に記入します。
この段階で初めて、「どの工程が全体の足を引っ張っているか」「小さな改善で大きな効果が出る箇所はどこか」といった仮説が生まれます。
4. 改善策の協議とKPI設定
分析で見えたボトルネックについては、OEM先の技術者・現場リーダーと一緒にディスカッションを重ね、無理なく実現できる改善案(例えば「この検査項目の自動化」「パレット出荷から通い箱への切り替え」「検査間引き」など)をリストアップします。
これにKPI(重要業績評価指標)、つまり「この項目をXX%短縮・コストXX万円削減」のような数字目標を設定することで、取り組みの効果判定が可能となります。
現場目線の工程診断でOEM製造はここまで変わる
ここまでご説明したように、“工程診断”は単なる原価削減ツールにとどまりません。
1. 発注側バイヤーの「見る目」が養われる
現場の流れやムダを数字とフローで正しく把握することで、サプライヤーに対する丸投げ体質から脱却できます。
逆にサプライヤーの現場にリアルな提案ができるため、より戦略的な価格交渉や、共同改善要望を打ち出せる「一段上の交渉力」が手に入ります。
2. サプライヤーとの関係性が変化する
「安くしろ」だけの一方通行から、現場課題の共有や本質的な改善提案へとシフトできます。
サプライヤー側からも「無茶な要求」ではなく「意味ある改善」と捉えられるため、協業関係も強化されやすくなります。
3. アナログ文化の改革にも直結
古い図面や手作業、紙帳票中心の業務プロセスも、工程診断を通じて「なぜ今も必要なのか」「どこをDXに転換すべきか」という目線で見直せます。
人が変わっても受け継がれる“昭和の遺産”に、現場の論理でメスを入れる絶好の機会になるのです。
これからの製造業・バイヤー人材に求められる視点
激変する市場環境やグローバル競争が加速する現代、OEM製造のパートナー選定、コスト改善のセンスは「現場目線×工程診断」という泥臭いアプローチの中にこそ磨かれます。
サプライヤーとの信頼関係を根っこから築き、数字とフローで本質をつかむバイヤー・購買担当者こそ、今後の製造業をリードする存在となるでしょう。
一朝一夕で自社の文化や仕組みが刷新されることはありませんが、まずは「現場を見る・現場で考える」習慣から、OEM工程の診断と改善活動を一歩ずつ積み重ねてみてください。
製造業の明日は、あなたの“工程診断力”にかかっています。
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