投稿日:2025年10月12日

靴の底が変形しない冷却時間と金型圧の設定プロセス

はじめに:靴製造における冷却と金型圧の重要性

靴の製造現場では、完成品の品質を左右する重要な工程がいくつもあります。

その中でも特に、靴底(アウトソール)を成形する工程は、商品の外観と耐久性を大きく左右します。

近年ではスポーツシューズやワークブーツといった多様なニーズに対応するため、素材や製法も進化しています。

しかし、実際の現場では未だに昭和時代から続くアナログな慣習や「職人のカン」に頼る部分が根強く残っています。

本記事では、靴底が変形しないように冷却時間と金型圧をどのように決定し、どのような観点・プロセスで最適化するべきかを、現場目線のリアルな視点から掘り下げていきます。

バイヤーやサプライヤー、製造業に携わるすべての方にとって実践的な知識となることを目指します。

靴底に求められる機能と成形の流れ

靴底の主な役割と品質基準

靴底は靴の中で唯一、地面と直接接触するパーツです。

そのため、次のような要件が求められます。

・耐摩耗性
・グリップ力
・クッション性
・形状の安定性(変形しないこと)
・見た目の均一性

この中でも、変形しないことは非常に重要です。

なぜなら、微細な変形や反りがあるだけで、歩行時のフィット感や安全性、さらにはブランドイメージにまで大きな影響を与えるからです。

特に成形直後に冷却不十分、圧力不足による変形はクレームの発生確率を格段に上げてしまいます。

靴底成形の工程概要

現場では一般的に以下のような手順で靴底を成形します。

1. 原料(ラバー、EVA、PU樹脂など)の計量
2. 成形金型への注入・圧縮(射出成形・圧縮成形など)
3. 圧力の維持
4. 冷却
5. 金型からの取り出し

このうち、3~4の「圧力維持」と「冷却」が、靴底の変形防止においてキーポイントとなります。

なぜ変形が起きるのか?アナログ現場にありがちな落とし穴

冷却不十分による変形

樹脂成型において、金型から取り出すタイミングが早すぎると、まだ靴底内部の温度が高いままです。

この状態で金型から外すと、重力や応力に引っ張られて元の設計形状から外れてしまうことがよくあります。

特に作業ラインが忙しいと「つい早めに金型を開けてしまう」といったことがしばしばあります。

昭和時代の現場では「手で触って熱ければもう少し、冷たければOK」といった職人技に頼る節が未だに残っています。

これは良くも悪くも“経験値に依存した非定量的な管理”です。

金型圧の不適切設定による変形

金型に十分な圧をかけない場合、素材が金型の隅々までいきわたらなかったり、ムラや反りが発生します。

特に、製品サイズのバラつきや材料ロス、歩留まり低下の主因となります。

一方で、過度な加圧は金型負荷の増大や、逆に成形品に不要なストレス(バリや変形)の原因にもなります。

いまだ「従来通りの圧」で回し続けている工場も少なくありません。

この背景には「なぜその圧力なのか?」と言われても現場で納得できる根拠や記録がなく、改善意識が働きにくいという問題があります。

冷却時間と金型圧のベストプラクティスを見つけるプロセス

材料特性の正確な把握

まずは材料ごとに「何度で流動化し、どこまで冷やすと形状が安定するか」を明確に知ることが出発点です。

たとえば、

・EVA 樹脂は熱伝導率が低いため、表面の触感だけじゃ内部温度が下がっているとは限らない
・PU樹脂は硬化反応を伴うため、単なる冷却時間だけでなく化学反応時間も加味すべき

といった特性差があります。

ここで一番大切なのは、「仕上がりで測る」よりも「素材の物理・化学的特性から逆算する」というラテラルな視点を持つことです。

冷却時間と圧力条件の繰り返し検証

初期段階では、冷却時間と金型圧力について「設計値」を仮決めして、以下の順に現場検証を行います。

1. 設定値で連続して生産 → 変形や寸法ずれ、外観不良の発生率を記録
2. 変形が発生する場合、冷却時間と圧力を一方向ずつ変更・短縮/延長・増減
3. どちらの設定値を変えたときに不良が減るか実験
4. 最小限の冷却時間かつ最小限の圧力構成を見つける

この繰り返しが「最適な現場設定」の肝です。

重要なのは、検証結果を必ず「現場ノート」や「製造標準手順書」に記録し、誰がやっても同じ品質が出せる体制を作ることです。

生産性とのトレードオフ管理

理想を言えば「たっぷり冷やしてしっかり圧」を維持したいですが、それでは工程時間が延び生産効率が悪化します。

ここで大事なのは、品質リスクと生産性(コスト)のバランスを「数値」や「不良率」といった客観的データで判断する力です。

バイヤー目線から求められるのは、「なぜこの価格なのか?なぜこのリードタイムなのか?」という説明責任です。

その根拠として「変形防止のため最低〇分の冷却が必要である」と数値で示せることは、ビジネスの信用につながります。

靴製造DX時代に向けた現場改革へのヒント

温度・圧力センサーの導入

今後の製造現場では、「経験やカン」から「データと見える化」への転換が鍵となります。

たとえば、金型内に温度センサーや圧力センサーを設置し、冷却状態や圧力が最適条件に到達したことを自動判定するシステムは既に増え始めています。

これにより人的なばらつきや思い込みによるミスを未然防止することが可能となります。

トレーサビリティの構築

近年、顧客や海外のバイヤーは「どのような工程管理がされているか」という工程保証・トレーサビリティに対する要求が高まっています。

成形時の冷却条件と圧力値をロットごとに記録、紐づけ管理することで、後工程での問題追跡やロス低減がしやすくなります。

これはグローバルサプライヤーが競争力を持つ上で必須の仕組みです。

自動化と省人化の未来像

AIやIoTを活用した成形機は、金型温度・圧力・冷却時間が自動最適化される方向へ進化しています。

「人が判断していた部分」をAIが分析し、品質と生産性を両立できる時代です。

一方で現場では、「新しいテクノロジーを使いこなす力」と「これまでの経験値」とを融合できる人財が求められています。

データを活かしつつ、現場の勘所(突然のトラブル対応力や、異常感知能力)も磨くことが将来の強みとなります。

まとめ:変形防止は「数値化」と「対話」で実現

靴の底が変形しない冷却時間と金型圧の設定は、単なる作業手順の問題ではありません。

良品率やコスト、ブランド信頼性を左右する「現場力」の表れです。

今こそ、属人的なカンに任せる時代から、一歩進んだ数値管理と現場対話の場作りが求められます。

バイヤーはこの「工程保証力」を重視してサプライヤーを評価します。

サプライヤーとしては、一つひとつの工程を科学的に説明し、「なぜ、この設定で変形しないのか」を自信を持って語れることが付加価値になります。

昭和の現場力と令和のデジタル技術を掛け合わせて、“新しい製造業”の地平線を一緒に切り拓いていきましょう。

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