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テレマティクスサービスが形骸化するまでのプロセス

目次
はじめに:テレマティクスサービスの現在地
製造業や物流をはじめ多くの分野で活用が広がっているテレマティクスサービスは、車両や機器、現場の状態をリアルタイムで把握し、運用の効率化や安全性の向上に欠かせない存在となっています。
しかし現実の現場を見ていると、いつの間にか「導入しただけ」「活用されていない」「ただの監視ツール」といった“形骸化”した状態になっているケースにいくつも出会います。
この記事では、なぜ便利なはずのテレマティクスが本来の役割を果たせなくなっていくのか、そのプロセスを現場目線で紐解き、今後の活用のヒントにしていただけるよう構成しています。
テレマティクスサービスとは何か
テレマティクスの基本的な仕組み
テレマティクスとは、テレコミュニケーション(通信)とインフォマティクス(情報工学)を組み合わせた言葉です。
主に車両や設備、機械の動作状況や位置情報などをセンサーで取得し、通信を通じて管理者やクラウドにデータを提供します。
自動車分野では「コネクテッドカー」と呼ばれることもあり、運行管理や燃費・走行データの分析、安全運転支援、故障予兆の把握など、多岐にわたるサービスが生み出されています。
産業界での導入背景
なぜ製造業や物流の現場でテレマティクスが求められるようになったのでしょうか。
大きな理由としては
・人手不足、熟練運転手の高齢化
・生産性や安全性向上への期待
・SDGsを背景とした効率経営、CO2削減圧力
・トレーサビリティやBCP対応
などがあります。
ざっくり言えば、「現場の見える化」と「無駄取り」「自動化」のために、テレマティクスが不可欠となってきたわけです。
導入時は期待感が高いテレマティクスサービス
経営層・現場の抱く理想
テレマティクスサービス導入時、多くの職場では「これで業務が大きく改善する」「ムダやロスがなくなる」と大きな期待が膨らみます。
経営層や管理部門はダッシュボード上のグラフを見て、現場の状況が手に取るように分かると盛り上がります。
現場も「適切な運行管理で安全性が上がる」「手書きや口頭伝達のミスが減る」と歓迎モードです。
導入直後によく起きる「お祭り騒ぎ」
メーカーやベンダーが主導するキックオフイベント、「現場での導入教育」「お披露目会」など、サービス開始と同時に大きなエネルギーが費やされます。
一時的にKPI(納期遵守率や燃費、稼働率など)が向上し、好調なスタートを切ります。
ここまでは、どの現場でも順調に見えます。
形骸化への道:徐々に訪れる“慣れ”と“無関心”
“昭和的アナログ文化”の根強さ
実態として多くの製造業や物流事業所では、「現場で身体で覚えてこそ」という昔ながらのマインドが残っています。
紙の運行記録、手書きの帳票、内線での指示、経験値に頼る設備保守…。
この昭和的手法が、ITツールの活用をさりげなく妨げ続けます。
「データ活用は大事だと分かるが、やっぱり紙も残して…」「ベテランの勘と併用…」と、ITのメリットを中途半端にしか享受できず、徐々に使われなくなります。
KPIの“飽き”と“点数稼ぎ化”
最初は全社目標に掲げられたKPIも、半年、一年も経てば「今回はやや未達」と揉み消されたり、「現場の事情で…」と例外処理が横行したりします。
「数字は取ってるけど、実際の現場感覚とは違うんだよな」「無理に達成すると逆に現場が回らない」といった空気が、KPIの本質的意味を形骸化させます。
“データの墓場”になるシステム
これが最もよくあるパターンです。
テレマティクスで収集したデータが膨大にクラウドに保存されているものの、具体的な現場改善や意思決定には使われていません。
「あとで見返すかも」「上から求められるからとりあえず保存」。
実際は誰も見ません。
やがて“データの墓場”となります。
形骸化プロセスの具体例:現場エピソードから学ぶ
例1:「運行管理」は形だけに…
導入当初は、各ドライバーがタブレットで運転日報を入力し、配送ルートもシステムで自動最適化。
しかし半年も経つと、「タブレット入力が面倒」「回線不具合で遅延」「結局、紙でも管理が必要」となり、デジタルもアナログも両方対応する二重管理状態に。
現場は「どうせ紙で提出するならタブレットは後回し」となり、本来のリアルタイム性や効率化が失われます。
例2:「異常検知」は警報オフ
設備の異常予兆をAIやセンシングで知らせるサービス。
最初は異常アラートが鳴るたびにメンテチームが駆けつけていましたが、誤検知や取りこぼしも多く「結局、自分たちで巡回チェックしたほうが速い」となり、アラート通知は現場でOFF。
「うるさいから切っといて」という指示も多発し、システムはただ光るだけの飾りに。
例3:「燃費・CO2データ」は運転手の間で“無意味化”
運転ごとの燃費データやエコ運転診断のスコアが毎月発表されるものの、「個人差が大きい」「ルート条件でどうしようもない」「結局は上司の評価のための資料でしかない」と現場では冷めた目線。
やがてだれもデータを見なくなる一方、管理部門だけが数字合わせに奔走。
本質的な改善にはつながりません。
なぜ形骸化してしまうのか?背景にある3つの論点
1. “人とITの融合”ができていない
テレマティクスサービスの目玉は「データ活用による効率化」ですが、その担い手である現場スタッフが「自分ごと」としてデータを使えていないケースが大半です。
「仕組みが複雑」「研修が形だけ」「自分の作業負荷ばかり増える」といった理由で、日々の業務に溶け込まず“余計な仕事”扱いになります。
結果として、従来通りのやり方+形式的なテレマティクス利用という二重手間になり、やる気を失います。
2. 現場の知恵や文化と齟齬がある
導入側が想定する「理想の現場像」と、実際に泥臭く対応している現場の運用ノウハウとの間にギャップがあります。
たとえば「理想の運行ルート」をAIが示しても、実際は渋滞や現場事情で即座にルート変更が必要。
その柔軟性や現場判断もシステムに取り込まれないまま、最適化の幻想だけが残ります。
現場の“暗黙知”や“職人魂”を尊重しないシステムは、形だけはあっても本当に使われません。
3. “使ってどうするか”のビジョン不足
経営層や企画部門が「導入すること」自体を目的化してしまい、「どう現場の行動変容につなげるか」「どの指標で持続的な改善を促すか」のビジョン設計が不十分なケースが多いです。
取引先からも「テレマティクス対応してますよ」と宣伝材料にするだけで、現場の価値向上に直結しない。
やがて“導入ありき”が目的化し、制度そのものが骨抜きになっていきます。
形骸化を防ぐための打開策
現場との徹底対話:使う人目線を徹底
ITサービスの真価は、それを日々の作業で活用する「現場ユーザー」がどう感じるかにかかっています。
導入前・導入後も継続的に「どこが使いにくい?」「手間が増えていないか?」「本当に作業が楽になった点は?」をインタビューやワークショップで徹底してヒアリングしましょう。
たとえば、運転手同士で「一番役立った使い方」を共有し合う勉強会、カイゼン提案コンテストなども有効です。
現場力×データの“二刀流”で成果を出す
現場ベテランの知恵とデータを組み合わせて使う仕組みづくりが重要です。
「AIが最適ルートを出し、人間が状況判断で微調整」「システムが気づいた異常と、現場の気付きが合わさって初めて真価を発揮」という発想です。
アナログ・デジタルの“いいとこどり”を目指しましょう。
KPIの本質的再設計:何のために使うのか?
KPIも「数値だけ追う」から「数値をどう現場力に変換したか?」に、運用の軸足を移すべきです。
月例報告に「今回はシステムの気づきで●●を変えた」「紙の日報とどう違ったか」など現場の声を盛り込むことで、実績がリアルな納得感を持って見えてきます。
トップダウンだけではなく、ボトムアップ提案も評価する文化が肝心です。
まとめ:テレマティクスの未来は「人と現場」のなかにある
テレマティクスサービスは、単なる“監視ツール”ではなく、現場を変革する起爆剤となり得ます。
しかしサービス導入が目的化し、データが現場に根付かなければあっという間に形骸化してしまいます。
「現場で使い倒せるシステムにできているか?」
「導入後も絶えず進化させているか?」
「人とITの融合、現場知とデータ活用の両輪で改善を継続できているか?」
これらを問い続けることが、テレマティクスが“本当の価値”を発揮し続ける唯一の道となります。
製造業バイヤー、サプライヤー、現場で働く皆さんが、形だけでは終わらせない“次世代の現場作り”を切り開いてくださることを心から願います。