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自動車における超ハイテン材の加工技術とその応用

目次
はじめに:自動車産業と超ハイテン材の関係性
現代の自動車産業において、「超ハイテン材(超高張力鋼板)」は極めて重要な存在となっています。
自動車メーカー各社が燃費の向上、衝突安全性の強化、そして環境対応を同時に実現するために避けては通れない技術的課題が、車体の軽量化と高剛性化です。
これらの課題解決の切り札として登場したのが、超ハイテン材なのです。
しかし「超ハイテン材」とは、単に強度が高い鋼板というだけではありません。
自動車生産現場に立ってきた私たち現場サイドから見ると、この素材の扱いは従来素材と比べて格段に難易度が高く、調達から加工、生産管理、そして品質保証まで、ものづくりの在り方そのものを変えつつある存在と言えるでしょう。
本記事では、超ハイテン材の基礎知識から加工技術の課題、サプライヤー・バイヤー視点での応用事例や今後の展望まで、現場主義ならではの目線で徹底的に解説します。
超ハイテン材とは何か
定義と特性
超ハイテン材(超高張力鋼板)は、引張強度が780メガパスカル(MPa)以上を指しますが、最近では980MPa、1470MPa、さらには2000MPa級の開発・実用化も進んでいます。
その最大の特長は、通常の鋼板よりも「薄く・軽く」仕上げながらも、「高い強度と衝撃吸収性能」を持たせられる点です。
このため、車体骨格や衝突時のエネルギーを効率的に吸収するクラッシャブルゾーン、サイドシル、ピラー、バンパービームなどで集中的に採用が進んでいます。
適用範囲の拡大と業界トレンド
長年、1300MPa級以上の超ハイテン材は加工の難しさから敬遠されてきました。
しかし、近年ではプレスメーカーの設備革新、金型技術の進化、接合・溶接技術の進歩によって、A・B・Cピラーなど主要な構造部分にも採用が広がっています。
さらに新型EVやSUVの普及、バッテリー収納部位の強化など、新たな車体設計思想とも密接にリンクして進化し続けています。
超ハイテン材の加工技術:昭和的アナログ発想からの脱却
プレス加工の壁‐スプリングバック対策
従来の鋼板であればプレス成形における「スプリングバック(戻り)」への対応は定石パターンで済みました。
ところが超ハイテン材は、硬度が高く弾性変形の割合が大きいため、成形後に部品が大きく「戻る」傾向があり、寸法精度確保が極めて困難です。
アナログ世代の「現物あわせ」「叩きだし技術」では対応しきれません。
実際にはCAEシミュレーションや三次元測定システムを用いて、プレス金型の設計段階から「どう戻るか」を予測して型形状を作り込みます。
また、深絞りやマルチステージ成形による加工割り増し、潤滑油選定の最適化も不可欠です。
ライン速度調整や型合わせの現物微調整も、データ蓄積とPDCAサイクルによる継続的改善が不可欠です。
割れ・加工硬化対策
超ハイテン材はヤング率が高いため、通常のプレス条件では割れやすいという弱点があります。
現行設備を流用した際に発生する「端部割れ」や「マイクロクラック」、「スクライブ割れ」などが、現場を最も悩ませるポイントです。
これには、プレス金型のエッジ部のC面取りやロールの最適化、潤滑油の見直しによる摩擦熱低減、予備熱処理の活用――さらには、加工前の材料品質管理(ミルシートでのロット管理や受入検査強化)などが現実解となります。
現場としては、現象とデータの見極め、トライ&エラーを積み重ねる“地道な対応力”が求められます。
溶接・接合の難しさ‐強度バランスの最適化
高強度化が進むほど、溶接・接合部の強度低下、変形・歪み・熱影響による劣化が問題になります。
抵抗スポット溶接やレーザー溶接の加熱条件、重ね合わせ部位の設計などは、理論値だけでなく“現場勘”に裏付けられた微妙な調整が不可欠です。
また、ヘミングや接着剤併用による複合接合も急速に普及してきました。
品質保証の観点からは、溶接強度の抜き取り検査、非破壊検査(超音波・磁粉・X線)の徹底、さらにはIoTによる設備状態の常時モニタリングなど、Automationとアナログ・五感の融合が“今どきの現場力”として求められています。
調達購買・バイヤー視点から見た超ハイテン材の選定と調達戦略
サプライヤー選定のポイント
超ハイテン材は、材料メーカーによる仕様差や成分分布、ロット毎の物性バラツキが顕著なため、単純な価格比較だけでサプライヤーを決めるのは危険です。
現場管理職として私が重視してきたのは、
・JIS規格+自社仕様(強度、延性、加工性、耐食性など)の安定供給実績
・納入ロットのトレーサビリティ
・試験片データや材料証明の信頼性
・加工現場との技術的対話力(緊急時の対応力)
・長期的な品質改善活動への参画意欲
といった、“現場第一”の視点です。
また、超ハイテン材の流通にはグローバルサプライヤーとの交渉や、脱中国リスク分散、サプライチェーンのBCP(事業継続計画)対応も必須となっています。
顧客要望に応じて材料手配・納期調整ができる柔軟性、サプライヤー自身の工程管理体制(ISO/TS16949認証など)も重要です。
コストダウン活動の現実
昨今は材料単価の高騰に加え、ロシア・ウクライナ情勢や為替変動など外部要因で、従来の“叩き合い型コストダウン”が通用しなくなっています。
超ハイテン材を含む新材料は、最初から高コストな反面、車両全体での軽量化・部品点数削減・溶接工程数の省略によるトータルコスト低減の“全体最適”で評価すべきです。
こうした「部分最適」から「全体最適」へのパラダイムシフトは、調達部門のみでなく設計・生技・現場オペレーターまで巻き込んだクロスファンクション活動が不可欠です。
品質管理の最前線:デジタル変革と昭和の知恵の融合
これまでの自動車ボデー部品は、量産初期に大量の形状不良・溶接不良が発生、現品サンプルの現地確認や不具合解析で対応してきました。
しかし、超ハイテン材では「発生する不良が根本的に異なる・兆候が見えにくい」ため、従来手法プラス“予兆管理”が強く求められます。
・デジタル三次元測定器によるライン常時監視
・IQR(In-Quality-Rate:工程内合格率)可視化、異常検知AI活用
・加工工程ごとの異種データ連携、原因分析システム導入
こうした新たな取り組みが、特に脱アナログ化に苦しむ現場には必要不可欠です。
とはいえ、現場感度の高い “昭和の目利き” が検出する「異音・異臭・手触り」も、最新機器が見逃すヒューマンノウハウとしてなお有効です。
品質保証は、「デジタル×アナログ」「システム×現物」の掛け合わせが成功の条件なのです。
超ハイテン材の応用事例と今後の展望
実践例:EV車体・バッテリーケース
超ハイテン材の最先端応用として、EV(電気自動車)のバッテリー収納部材での採用が飛躍しています。
高強度薄板化による軽量化・剛性確保に加え、万一の衝突時にバッテリーパックを守るためのエネルギー吸収構造も、成形・溶接一体技術で実現されています。
また、バンパービームやドアインパクトバーなど、衝撃時の“生死を分ける”部材に超ハイテン材は不可欠です。
サイドシルやルーフレール、ホイールハウス等でも、複数の異種ハイテン材を上手く組み合わせて“最適配置”を模索する動きが主流となりつつあります。
今後の課題と未来像
超ハイテン材はその可能性が大きい一方、現場負荷や始動コスト、人的スキル依存の高さが大きな課題です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIアシストの現場適用、サプライチェーンの垂直連携、自働化・省人化の本格化により、「アナログからの脱却」と「現場力・経営力の高度融合」が、これからの製造業の生き残り条件となるでしょう。
また、自動車のみならず、鉄道、航空、建機など他業種への展開も間違いなく進むでしょう。
グリーン成長戦略や循環型社会との親和性も高く、“日本のものづくり”全体を牽引する基盤技術となっていくはずです。
まとめ:ものづくりの現場から伝えたいこと
超ハイテン材の加工技術は、単なる技術知識ではなく、「現場を知り」「現象を掴み」「バイヤーとサプライヤーが本音で向き合い」ながら、不断のPDCAを繰り返すものです。
「昭和のアナログ思考」から「令和のデジタル融合」への転換期にこそ、現場の知恵、対話力、誠実な品質へのこだわりがより一層問われています。
製造業に携わる皆さん、またバイヤーやサプライヤーを目指す方には、ぜひとも“超ハイテン材”を切り口に、最新技術と現場現実の“地平線”を一緒に切り拓いていただきたいと思います。
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