投稿日:2025年12月11日

標準化が進まず小ロット多品種で調達コストが下がらない矛盾

はじめに:製造業の現場で感じる調達コストの矛盾

製造業において調達コストの削減は、利益率に直結する重要なテーマです。

しかし、現場では「標準化が進まないことによる小ロット多品種生産」という構造的矛盾に悩まされる場面が非常に多く存在します。

なぜ標準化が進まず、多品種小ロットの呪縛から抜け出せないのか。

そしてこの状況でいかにして調達コストを下げるべきか。

この記事では、現場で何度もこの壁に直面し、改善に挑戦してきた立場から、昭和的な製造現場の実情や業界の動向も踏まえつつ、実践的な知見や新たな視点をお届けします。

標準化できない現場のリアル

なぜ標準化が進まないのか

標準化が最適化・コストダウンの王道だと多くの人が知っていながら、実際の現場ではなぜ進まないのでしょうか。

その理由はいくつかの要素に分かれます。

例えば、ベテラン技術者の「前例踏襲」や「お客様ごとに細やかな対応をしないと競争に勝てない」という意識。

また、長年続くアナログ文化が土台となり、「過去の図面や仕様との整合性が最優先」といった硬直性が強く、日本の特有の慣習も無関係ではありません。

加えて、営業や設計との連携不足、現場と会議室の情報ギャップ、顧客が個別仕様・少量生産を求めやすい市場環境など、複合的な要因があります。

多品種小ロットの現実

顧客ごと、用途ごとに微妙に異なる部材・部品・工程――これが積み重なり、小ロット多品種になってしまう。

この構造では「同じモノをまとめて買う」ことが難しくなり、調達ボリュームのメリットが得られません。

結果的にサプライヤーからの見積もりも割高、納期も長引き、スケールメリットを出せないため、調達購買部門はジレンマとストレスがたまるばかりです。

業界動向:なぜ変わらない?昭和的アナログ志向の根深さ

属人化と「暗黙知」への依存

高度成長期から続く「現場力」「職人技」「手取り足取り指示」といった経営観、これは短期納期やサプライチェーン変動に臨機応変に対応できるという強みの裏返しでした。

しかしそれはマニュアル化や標準化の阻害にもなり、結局は「Aさんしか分からない工程」や「B社向けだけ特殊な指示」など、社内外にしか通用しないルールが増えていきます。

このような暗黙知頼りの構造が、小ロット多品種を助長するのです。

変革の遅さと失われる競争力

一方で、グローバル化・デジタル化の波は着実に迫り、中華圏の競合などは標準化の力でコスト・納期ともに短縮を実現しています。

昭和モデルを引きずる体質のままでは、いつまでも属人的な調達が続き、サプライヤーマネジメントやコスト競争でますます劣勢になりかねません。

顧客からのカスタマイズ要求が標準化を阻むジレンマ

市場視点でみると、日本国内の多くの取引先は「同業他社より一歩先の機能」や「うちだけの特殊形状」を求めがちです。

これが競争力と言える一方、現場側からすれば、これこそが標準化の大敵です。

この構造的問題は、取引文化やビジネス慣習自体を見直さなければ本質的な解決は難しいといえるでしょう。

調達現場の実践的な工夫とアプローチ

「似て非なるもの」はまとめて管理せよ

すぐに完全標準化が難しくても、共通化・集約化のヒントは多々あります。

例えば、部品点数・工程数の多い製品であっても「90%は共通」「10%だけ違いがある」と割り切るマトリクス管理。

「Aタイプ」「Bタイプ」「Cタイプ」と、類似品をカテゴリー化し、調達先・ロット集約を図る方法が有効です。

この手法は「似て非なるもの」を、工程やサプライヤー選定において“まとめ買い”できる母集団に変えていきます。

仕様見直しと設計・調達の連携強化

調達購買部門から設計部門へ「この部品、過去の在庫品やカタログ品で代用できませんか」といった提案を積極的に行うことも大切です。

設計と調達の壁を取り払い、早い段階でコストダウン・標準化志向を共有することで、将来的な調達力が格段に高まります。

これは単なるコストダウンにとどまらず、リードタイム短縮・サプライリスク回避にも直結します。

デジタルツールによる一元管理の推進

昭和的なアナログ管理から脱却するには、IT・IoTをフル活用することが不可欠です。

調達履歴や共通部品の利用状況を見える化するだけでも、大量の「無駄発注」や「属人化調達」を低減できます。

システム連携やマスタデータ統括は決して大企業だけの話ではなく、中小規模でも活用余地は十分です。

サプライヤーとの協働と信頼構築

価格交渉だけでなく、サプライヤーと一体となって「標準部材の比率拡大」や「供給ロット統一」を企画・提案する姿勢が求められます。

“ウチは特注品しかできません”と諦めるのではなく、サプライヤーの加工技術や素材知見を借りつつ、一緒に汎用化への道筋を考えることが、次の調達競争力を生むのです。

外部パートナー・商社の巻き込み

自社単独での標準化推進が難しい場合も、部品商社などのサポートを上手く活用することは十分に可能です。

商社は多様なメーカーや商品ラインナップに精通しているため、社内では見つけにくい「標準化のヒント」や各社のベストプラクティスを吸い上げやすい。

時には開発購買の段階から、外部パートナーを巻き込むことが競争力アップの近道になることもあります。

バイヤー・サプライヤーなら考えたい「コストダウンの新地平」

日本企業のコスト構造をラテラルに考える

単純な“ロットまとめ”や“仕入数量UP”だけでは、もはや抜本的コスト競争力は生まれません。

他業界・他の国では常識化している「設計変更によるコモディティ化」「取引条件・QC工程の共同設計」といった手法も、もっと柔軟に活かすべきです。

例えば、「この部品は数量が増えた瞬間だけ供給コストが下がる『しきい値』があるはず」と仮定し、調達量を調整したり、「この仕様のリスクはサプライヤー側も感じているはずだ」と仮説を立て、リスク分散方法を議論したりする。

こういったラテラルシンキング的な発想を徹底することで、従来の常識の延長線上にはなかった新しいコストダウン策が見えてきます。

サプライヤー視点でバイヤーの本音を読む

逆に、サプライヤーの立ち位置から考えると、自社の設備・工程キャパをうまく調整し、多少の標準仕様対応を整備しておくだけで、取引条件や見積提案の幅が大きく広がります。

バイヤーは「このサプライヤーはウチ以外の案件にも共通部材化できる体制を持っている」と見れば、長期契約や追加発注につなげやすい。

ここに、価格以外の“選ばれる理由”が生まれます。

まとめ:アナログ業界こそ「新たな地平線」を切り開こう

現場では「標準化しきれない」「小ロットばかりで割高」というジレンマは確かに根深く存在しています。

しかし、その中にも必ず解決のヒントや新しいアプローチがあります。

昭和的な現場文化を否定しすぎるのでもなく、今ある強みと業界動向をうまく融合させる工夫が重要です。

デジタル化、工程集約、サプライヤーとの協働、設計段階での巻き込み。

こうした地道な工夫と“道具としてのラテラルシンキング”を掛け合わせ、これまで埋もれていたコストダウンの可能性を掘り起こしましょう。

調達バイヤーを目指す方にも、現場担当にヒントを与えたい方にも、そしてサプライヤーとして取引先と新天地を切り拓きたい方にも。

製造業の矛盾を乗り越え、次世代の価値創出に共に挑戦してみませんか。

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