投稿日:2025年9月16日

購買部門が主導する海外調達リスク分散とコスト低減の工夫

はじめに:世界が求めるグローバル調達とその課題

現代の製造業では、グローバル化が急速に進む中、購買部門が担う役割がますます重要になっています。

一方で、2020年代に入りサプライチェーンの混乱や地政学的リスク、地球規模のパンデミックなど、海外調達のリスクも顕在化しています。

この記事では、20年以上にわたり現場で培った「現場目線の実践知」と、昭和から続くアナログ業界の「不変の習慣」、「新たな時代の調達購買」のヒントをお伝えします。

バイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤー思考を知りたい方に向け、「リスク分散」と「コスト低減」の両立を可能にする考え方と実践ノウハウを解説します。

なぜ今、海外調達リスク分散が求められるのか

2020年以降、海外調達を取り巻くリスクは劇的に増大しました。

グローバルサプライチェーンの寸断、原材料価格の高騰、為替変動、輸送遅延、政治的リスク…こうしたリスクは、単一ソース依存や特定国集中に対して強烈な警鐘となりました。

製造現場で見た「Too much China」のリスク

私自身、中国からの部品調達に大きく依存する現場を多数経験しました。

確かに低コストで大量調達は魅力的でしたが、政情変化やロックダウン、物流会社のストップなど、ひとたびトラブルが起きれば、工場は全く動かなくなりました。

これが「サプライチェーンリスクの現実」です。

調達先多様化や、複数国からのソーシングを急速に進める企業が増加したのは、苦い現場経験の裏返しと言えるでしょう。

昭和的「安心調達」の限界

かつて日本のものづくりは、長年取引を重ねた「馴染みのサプライヤー」との信頼関係を大切にしてきました。

ですが、時代が変わり、コストダウンや多様なリスクへの耐性が求められる今、このやり方だけでは立ち行かなくなる局面が増えています。

重要なのは、「現地現物」思考と「データ」に基づくドライなリスク判断のバランスです。

コスト低減だけに頼らない調達戦略の必須要素

海外調達というと、単純な「コスト最優先」と考えがちですが、近年では「総合的な価値(TCO:総所有コスト)」で考えるアプローチに変わっています。

調達コストの分解思考と見落とされやすいポイント

調達部門では、一物一価の部品価格比較に偏りがちです。

しかし、現場の立場で考えれば、以下のコストも無視できません。

– 輸送費(海運/航空/陸送)、緊急時の追加運賃
– 在庫回転率低下による在庫維持コスト
– 不良発生時の現地対応費用、リードタイム延長
– 為替ヘッジコスト
– 情報伝達や誤解解消のためのコミュニケーション経費

たとえば、中国から欧米に調達拠点を移す場合、一時的な価格ダウンがあっても、輸送費や品質管理対応コスト増で、結局「全体コスト増」になるケースを数多く見てきました。

サプライヤーとの適切な信頼関係もコスト

サプライヤー管理のコストは目に見えにくいですが、実は無視できません。

雑談も含め「こまめなコミュニケーション」が、トラブル発生時の迅速対応や瑕疵隠し予防に効果を発揮します。

定期面談や現場視察で「良し悪し」の空気を肌で感じることも、昭和的ではありますが依然重要です。

実践的・現場目線での海外調達リスク分散策

では、現場で「絵に描いた餅」になりがちなリスク分散を、具体的にどう進めていくのが現実的でしょうか。

マルチソーシングと段階的移行のすすめ

一気にサプライヤーを変えるのではなく、「部分分散」から始め、「常に選択肢を持った調達」を実現します。

例えば全量の2割〜3割をベトナムやタイなど他国へシフトし、残りは現行サプライヤーと継続。

いきなり100%切替は不良・納期遅延などリスクも大きいため、部分移行と並行して新サプライヤーの品質・レスポンスを見極めていくのです。

BCP(事業継続計画)観点からの調達網構築

各調達先から「最悪どこまで供給可能か」「停止時のバックアップ体制はどうか」を必ずヒアリングし、下記を実践しましょう。

– サプライヤーの複数化(国内/海外、都市分散含む)
– 親サプライヤーだけでなく、下請け(Tier2)の稼働状況把握
– ネットワーキング物流など、緊急時バイパス便の構築
– 内製やグループ会社との連携による一時的な生産補完

単なる調達価格の高低だけでなく、「ダウンタイム最小化」の視点を常に持ちましょう。

グローバル標準の情報管理とデジタル活用

昭和の手書き台帳やFAXだけで運用していると、現地対応や障害時の情報共有が遅れます。

クラウドシステムやサプライヤーポータルを導入し、「世界中どこでもリアルタイム情報把握」「進捗・課題の即時見える化」を徹底しましょう。

また、ERP(統合基幹業務システム)を活用すれば、購買・在庫・生産管理の統合的な意思決定が加速します。

現場主導でできる「コスト低減」のヒント

コスト低減=値下げ交渉に頼るのは限界があります。

ここでは現場発の「一歩違う」工夫を紹介します。

設計段階からのコスト低減(VE/VA)推進

調達現場の知見を設計部門にフィードバックし、「別の素材や構造で代替できないか」「標準化でロットアップできないか」といった視点を持ち込みましょう。

特に、海外調達の場合は規格品活用や、地元業者が得意とする加工法を見据えた設計を行うことで、価格・安定調達・不良リスク低減の三拍子が揃う場合があります。

物流の最適化でトータルコストを見直す

適正在庫の見直しや、コンテナ混載・海上ルートの工夫も、コスト削減に直結します。

たとえば急ぎで航空便を多用している場合、出荷スケジュールを再編成し、船便中心に切り替えるだけでもコストインパクトは大きいです。

また物流業者とのパートナーシップ強化により、混載便や現地物流センターの活用も得策です。

サプライヤー能力調査と育成支援

現状困っている品質問題や納期遅延の根本分析を行い、サプライヤーの工程改善や自動化投資を一緒に進めるケースも有効です。

「要求するだけでなく、一緒に成長する」という姿勢が、長期的には大きなコスト低減(QCD改善)につながります。

バイヤーの思考回路をサプライヤー視点で理解する

サプライヤーの立場で「なぜバイヤーはこんな要望を出してくるのか」と疑問に思うことも多いでしょう。

これはバイヤーが「自社の工場を止めてはいけない」「トラブルの芽を極力排除したい」という強い責任感から来ています。

サプライヤー側も、単なる価格競争ではなく、以下のポイントを踏まえた提案と対応が差別化につながります。

– 供給力・品質力・BCP対応実績のアピール
– 追加ソリューションや工程改善提案による付加価値提示
– 突発時の柔軟対応力や、質の高いコミュニケーション

このような総合力があるサプライヤーは「戦略的パートナー」として長期取引につながります。

昭和からDX時代への調達購買・現場運営のアップデート

長年の現場経験から感じるのは、「昭和の良いところ(人と人との信頼)」と「新時代のデジタル活用」、どちらも大事だということです。

例えば現地現物でしか分からない空気(潜在的な問題意識)を、リモート会議やチャットだけで把握するのは難しいです。

一方で、変化の激しい時代には「データ主導で素早く判断」「情報のリアルタイム共有」を避けて通れません。

この二つをミックスできる現場力こそ、製造業が今後も国際競争に勝てる原動力だと思います。

まとめ:現場と共に強くなる調達購買で、海外調達リスクを勝ち抜く

海外調達のリスク分散とコスト低減は、「一人のバイヤー」だけでなく、「現場・設計・物流・サプライヤー」すべてが連携してこそ実現します。

常に変化の中で、「現場感覚」と「データドリブン思考」、そして「信頼」を上手に組み合わせた調達購買を目指しましょう。

グローバル化が加速し、リスクが高まる今だからこそ、昭和から受け継ぐ現場主義をアップデートし、製造業全体で新たな地平線を切り拓く。

これこそが、製造業と日本の強さの源泉になると私は信じています。

You cannot copy content of this page