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調達課長が感じるサプライチェーン分断の危機感

目次
はじめに―サプライチェーン分断の現在地
日本の製造業は高品質・高信頼を武器に、世界市場で長らく存在感を示してきました。
しかし、近年の地政学リスクやパンデミック、さらには自然災害の増加などによって、これまで安定していたサプライチェーンが脆弱化し、その分断リスクが現実味を帯びています。
現場の調達課長として、私自身が肌で感じている危機感、そして現場だからこそ見えてくる課題やアクションについて、具体例を交えて解説します。
現場目線でサプライチェーン分断の“リアル”をお伝えすることで、購買・調達担当者はもちろん、サプライヤー、ものづくりに関わるすべての方へ、明日からの実践につながるヒントを共有します。
サプライチェーン分断の主な要因と現場インパクト
地政学リスクの顕在化
ロシア・ウクライナ情勢や米中対立など、世界各地で政治的な不安定要素が生まれています。
実際に、主要部材が特定の国から輸入できなくなる、または高関税により調達コストが急騰するケースが増加しました。
現場はこうした変化を「今日仕入れていたものが、明日突然買えなくなる」という形で実感しています。
コロナ禍に端を発した物流混乱
コロナ禍で各国のロックダウンや港湾業務が停止したことで、半導体や樹脂原料などサプライチェーンの川上で大混乱が発生しました。
運送業界でも人材不足が深刻化しており、納期遅延や運賃高騰という形で調達現場に直撃しています。
早朝に来るはずの材料が昼になっても届かず、生産計画が白紙に戻る…そんな経験をした製造現場は少なくありません。
集中購買・単一サプライヤー依存のリスク
コスト競争の中で、調達先を絞り交渉力を高める「集中購買」が根付いてきました。
しかしこれは「特定サプライヤーへの依存」に直結し、ひとたびトラブルが起きると工場や生産ライン全体が止まるというリスクを抱えることにもなります。
結局、コスト削減の追及とリスク分散は背反する部分があり、調達課長の悩みは深まっています。
現場が直面する具体的な課題
需給変動・情報伝達の遅れ
サプライチェーンが寸断された瞬間、現場では調達品目の在庫量や需給バランスが極端に変化します。
またアナログな伝達手段、紙・FAX文化が根強い業界では、情報が伝わるまでのタイムラグが大きな致命傷となっています。
「本当にいつ、いくつ届くか分からない」という不安が現場で日常化しているのが実情です。
調達・購買担当者の高齢化と人材不足
熟練のバイヤーが退職していく一方、経験の浅い若手や中途採用が即戦力化されず、サプライチェーン断裂時にはノウハウの伝承が追いつきません。
こうした“現場力の空洞化”も、危機感につながっています。
なぜサプライチェーン分断が危険なのか
製品の安定供給が損なわれる
BtoBでもBtoCでも、「納期=信頼」です。
一度でも納期遅延が発生すれば、得意先との信頼は容易に失われます。
それは売上減少だけでなく、企業ブランドそのものがダメージを受けるリスクへ直結します。
コスト増大・経営効率の悪化
緊急調達や代替購買で“スポット購入”が必要になると、かなりの価格高騰を受け入れざるを得ません。
また、品質面でのリスクも増え、不良やラインストップに発展することもあります。
「調達コスト=材料費」と見なされがちですが、実際には隠れたコストや労務コストも膨らみます。
人材リソースのひっ迫
分断が発生した場合、現場は「火消し対応」に追われ、購買計画やサプライヤーとの協業といった本来の業務が後回しになります。
一部のベテランやエース社員に負担が集中し、モチベーションや人材流出にもつながる悪循環が生まれます。
調達課長としての“アナログ現場”からの提言
危機感共有の徹底
トップダウンで「サプライチェーン改革」を叫ぶだけでは、現場は動きません。
大切なのは現場と管理職が「自分ごと」として危機感を共有できることです。
現場ミーティングで実際に起きたトラブル事例や、納期遅延・コスト増加の数字を『見える化』することが重要です。
複数サプライヤーとの関係構築
コストだけでなく、「リスクに備える」観点での調達ポートフォリオが必要です。
単なる“仕入先分散”ではなく、サブサプライヤーも含め現場で顔を合わせ、互いの製造キャパや品質責任者とのホットラインを築いておくことが実践的です。
震災やパンデミック時も、「まず一本電話を入れて助けを求められるか」が、最終的なサバイバルの分水嶺になります。
現地化・ローカライゼーションの推進
中国など海外依存から、国内・近隣国も含めたローカル調達網の再構築が大きなテーマです。
海外調達の場合も、「現地法人や販売代理店を使った在庫ストック」「輸送経路の複線化」「部材の最小限現地調達化」など、多層防御の視点が欠かせません。
デジタル化は“泥臭い”現場業務から
今あらためて大事なのは、アナログな現場こそデジタル化の恩恵を受けやすい、という視点です。
例として、受発注の自動化や納期管理システムの導入、サプライヤーポータルの利用、市販の表計算ツールを使った入荷・納品の見える化、社内チャット活用など、小さな変更から始めるのがポイントです。
システム導入=業務効率化ではなく、改善サイクルを回すために「何を、どこまで、どんな手順でデジタル化するか」を現場で議論すること。
昭和的慣習の中でも、部品検品や生産進捗など目に見える部分の可視化から着手するのがコツです。
サプライチェーンの未来を考える
サプライヤーとバイヤーの真のパートナーシップへ
競争一辺倒、単価交渉のみの従来型購買から脱却し、「リスクも利益も共に負う真のパートナー」としてサプライヤーと向き合う必要があります。
そのためには定期的な情報交換会や、共同でのサプライチェーンリスク訓練など、持続的な信頼醸成の場をつくることが求められます。
業界横断型の協力体制
特に中小企業やサブサプライヤーでは、一社単独でリスク回避策を講じることは限界があります。
業界団体やバーチャルクラスター、自治体などとの協業によって、在庫や物流、情報の共有がこれまで以上に重要になります。
共通ID・EDI・IoT連携など、デジタルを活用した情報共有基盤の構築が今後の競争力のカギとなるでしょう。
“人”を中心にした仕組み強化
全てITや機械に頼るのではなく、「人が判断する、経験が生きる」現場の力を最大化する工夫が必要です。
その意味では、購買・調達人材の育成や交渉スキル研修、マルチスキル化によるリスク分散など、ヒト軸の変革も欠かせません。
まとめ―“危機感”が新たな強みに変わるとき
サプライチェーンの分断リスクは、決して他人事ではなく、明日わが身に降りかかる現実的な課題です。
調達課長として、この危機感をいかに現場全体で共有し、“自分ごと”としてアクションプランへ落とし込んでいけるか。
効率化やコスト削減だけでなく、多様なサプライヤーとの関係構築、現場に即した泥臭いデジタル化、パートナーシップ醸成など、アナログな業界だからこそできる実践が今こそ求められています。
サプライチェーン分断という危機感を、変革と進化のきっかけに。
ものづくりに関わる皆さんの現場力と行動力が、日本の製造業に新たな地平線を切り拓くと信じています。
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