医療分野での放射線および手術ロボット関連製品調達方法

はじめに：医療分野における調達の変革

医療分野は最先端の技術が集約された業界であり、とりわけ放射線技術や手術ロボットといった製品は日進月歩で進化しています。

一方で、その調達方法に関しては、昭和の頃から続く“アナログ的な商習慣”が未だ根強く残っており、現場では効率化や最適化が急務です。

医療機器バイヤーやサプライヤー、そして現場エンジニアの視点を取り入れながら、医療製造業界における実践的な製品調達方法について解説します。

医療用放射線・手術ロボット製品の特徴

高度な安全性と極めて厳しい規制

医療用の放射線機器や手術ロボットは、法令・規格・認証などの厳格な条件を満たす必要があります。

放射線機器なら医薬品医療機器等法（医薬品医療機器等品質・有効性・安全性確保法、いわゆる薬機法）、手術ロボットならIEC 60601シリーズ等の国際規格への対応が必須です。

従って「ただ安ければ良い」では通用せず、調達の最重要ポイントは“安全・品質・トレーサビリティ”にあります。

高単価・長期間の運用が前提

これら製品は非常に高額なうえ、導入すれば10年以上の利用が一般的です。

バイヤーや調達担当は、“初期費用”だけでなく、“ランニングコスト”“保守サポート体制”“供給停止リスク”まで俯瞰した長期的視点が求められます。

昭和型商習慣が残る調達の現状

医療分野は命に直結するため、新しい調達手法やサプライヤー選定の刷新がなかなか進みません。

顔の見える関係重視、人的ネットワークによる紹介・推薦がモノを言う世界が、今なお色濃く残っています。

そのため、DX化やWeb調達への移行が他業界に比べて遅れがちです。

現場経験からすると、「トラブル時にすぐ駆けつけてくれる」など属人的な信頼ベースは無視できず、ここにアナログ体質の根本的な理由があります。

バイヤー目線で見る調達の重要ポイント

国内外メーカーの選別基準

製品の品質はもちろん、“アフターサポートの実力”が問われます。

医療現場では、機器の停止は治療現場そのもののストップに直結するため、トラブル時の緊急対応力や部品供給体制の充実度が極めて重要です。

また、業界では「認証取得実績」「納入実績」も重要な評価軸です。特に新規サプライヤーの場合、既存の医療機関への納入履歴が強力な信頼材料となります。

コンプライアンスとリスク管理

調達部門は、贈収賄防止や情報管理の観点から厳重なコンプライアンス体制の管理が求められます。

とくに海外からの調達では、現地規制や貿易管理、二重使用（デュアルユース）規制への対応が必須であり、これらを怠ると導入プロジェクトそのものが頓挫しかねません。

ライフサイクルコストを考慮した調達戦略

導入時には初期コストばかりに目が行きがちですが、数十年にわたる運用とメンテナンス費用も加味して“総所有コスト（TCO）”で比較評価するのが調達の鉄則です。

サブスクリプション型の保守契約やリース導入など、新しい調達スキームの活用も有効です。

実践的なサプライヤー選定プロセス

1. 要件定義とRFI/RFPの作成

まず、医療従事者や現場エンジニアと連携し、必要な性能要件・法的条件・求めるアフターサービス内容を明確に定義します。

次に、Request for Information（RFI）やRequest for Proposal（RFP）文書を作成し、広く国内外の有力サプライヤーに提示することで、フェアで網羅的な比較検討が可能になります。

2. トライアル導入と現場評価

医療機器はカタログスペックや承認書類だけでなく“現場適合性”が重要です。

一定期間現場でデモ導入し、看護師や技師の運用負担、保守性、トラブル発生時のサプライヤー対応をジャッジするプロセスが極めて有効です。

3. よりどころとなる専門ネットワークの活用

学会・研究会、医療機器専門の技術者ネットワーク、ベンチマーク企業との意見交換など、“リアルな経験知”の共有や情報交換が意思決定を強力にサポートします。

信頼できる先行導入ユーザーに直接ヒアリングするのも、アナログ的ですが実に実践的なノウハウです。

進化する調達手法とデジタル化の波

Webプラットフォームによる調達効率化

近年は医療機器のB2Bプラットフォームや、専門商社のオンラインシステムを介した調達が増加傾向にあります。

見積り・納期確認・契約書管理までが一元化でき、担当者の事務負担やミス発生リスクを低減可能です。

オンライン調達が拡大することで、地方病院や中小規模の医療機関でも世界水準の製品調達が可能になりつつあります。

AIによるサプライヤースクリーニングの可能性

AIによる調達リスク予測や、膨大なサプライヤーデータの分析による最適なパートナー選定が実用段階に入りつつあります。

特に、海外メーカーとの比較評価や、労働環境・サステナビリティなどESG要素まで多角的に考慮した調達が今後ますます重要になります。

昭和的“現場力”と最新技術の融合こそが競争力

アナログ的な商習慣の良さ、たとえば“緊急時に一声で駆けつけてもらえる関係性”や“現場目線での運用改善提案力”は、日本の製造業・調達現場の強みです。

これを活かしつつも、RPAやIoT、AI分析を活用した“デジタル調達化”との融合が、今後の競争力の鍵となるでしょう。

調達バイヤーもまた、技術動向や法律、現場の声といった複眼的な視野でものを考える“ラテラルシンキング”の実践が必要です。

サプライヤー側から見るバイヤーの本音

“信頼”と“信用”の違いを理解する

バイヤーが最も重視するのは、“約束した納期・品質・サポートを裏切らない信用力”です。

単なる人間関係（信頼）だけでなく、いかに文書記録・データ・仕組みで継続的に証明する“信用”を構築できるかが何より大切です。

柔軟な提案力と現場密着力

ただカタログ通りの製品を納品するだけでなく、ユーザー独自のニーズや直面する課題を理解したうえで「こんな付加価値を実現できます」「トラブル時はこのように対応します」と具体例を織り交ぜて提案することが信頼獲得の近道です。

結果として、短期的な価格競争力以上に“現場改善に貢献できるサプライヤー”が、リピート調達の筆頭候補となります。

まとめ：医療機器調達の次なる地平へ

医療分野の放射線機器、手術ロボットの調達は、安全性や品質の確保だけでなく、現場力と最新技術の両立が不可欠です。

昭和型とデジタル型のハイブリッドな調達を実践できるバイヤー、そしてユーザーの要望に現場目線で寄り添えるサプライヤーこそが、次代の医療現場を支えます。

調達担当者もサプライヤーも、固定観念から一歩踏み出し、ラテラルシンキングで新たな調達地平線を切り拓きましょう。

工場現場、医療現場、グローバル調達の真髄がここに集結しています。