投稿日:2025年8月29日

調達プロセスに属人的判断が多く透明性が低い問題

調達プロセスの属人的判断と透明性の低さがもたらす課題

調達購買の現場では、いまだに“経験と勘”に頼った属人的な判断が色濃く残っています。
特に日本の製造業では、長年にわたり現場主義・人間関係重視の文化が根付いてきました。

その結果、調達プロセスにおいて公平性や合理性が十分に担保されず、ブラックボックス化や不透明な意思決定という問題が表面化しています。
この記事では、属人的な調達判断の実態と、それに起因する業界固有の課題、また透明化へ向けた現実的な取り組みについて、私自身の20年以上の現場経験も交えながら深掘りします。

なぜ調達は属人的な判断が多いのか?

昭和的アナログ文化の根強さ

製造業の調達部門には、長年培われた担当者個人の経験や人脈が脈々と受け継がれています。
ベテランバイヤーの仕入れ先選定や価格交渉は、しばしば「この材料は○○さんに頼めば安心」というような形で行われがちです。

実際、大手メーカーであっても、過去の付き合いや個別の信頼関係に頼った調達判断が少なくありません。
「紙の見積書」や「電話一本の発注」が今なお当たり前に存在する現場は、決して珍しくないのです。

定量評価の難しさと現場要因

部品や原材料の仕様書はあっても、QCD(品質・コスト・納期)すべてを客観的に点数化することは困難です。
とくに中小サプライヤーでは、工場見学や日頃のコミュニケーションを通じた「雰囲気」や「安心感」が選定基準となりがちです。

こうした属人的な評価軸は、裏を返せば「何となく発注先が決まる」「なぜこのサプライヤーなのか説明できない」という状況を生みます。
これは経営層やコンプライアンス部門から見れば、リスクの温床でもあります。

透明性の低さがもたらす深刻なリスク

不正や癒着の温床に

調達先決定の背景が口頭や暗黙の了解だけで説明されると、しだいに不正や癒着の温床となります。
現場レベルでの接待やリベート、発注の偏りなどが横行しやすくなります。

「○○部長の一声でサプライヤーが決まった」
「見積もりは複数取っていることにしているが、実質は出来レース」
こういった事例、意外と業界内では“よくある話”として流されがちですが、不正リスクが企業ブランドに大きな打撃を与える可能性は年々高まっています。

サプライチェーン全体の最適化が妨げられる

属人的な判断が横行すると、サプライヤー選定も“顔の見える範囲”で収束しがちです。
そうなると、新規仕入先開拓やコストダウン活動の余地も限定され、サプライチェーン全体の競争力を弱めてしまいます。

特にグローバル調達体制を構築する際、調達基準やプロセスが不透明なままでは、海外拠点や本社間での一貫性も保てません。
これは「コスト優位性を狙えない」「品質基準が揃わない」「納期トラブルが多発する」など、現場の苦労として重くのしかかってきます。

属人的調達から脱却する業界の新しい動向

デジタル化・標準化の波

最近では、大手メーカーをはじめ、調達活動の“見える化”に本腰を入れる企業が増えています。
代表的なのが調達支援システムやERP(統合基幹業務システム)の導入です。

見積依頼から発注、納品・検収・支払いまで、調達ワークフローをすべて電子化し、担当者の属人判断をシステム上で“見える化”していく流れが加速しています。

それにより、いつ・誰が・どのような基準でサプライヤーを選定したのか、実際の発注状況やコスト推移がデータとして可視化できるようになりました。
これにより、調達部門の意思決定が透明化し、いわゆる“なあなあ文化”の打破につながっています。

AIやRPAの活用

最近では、見積査定やサプライヤー評価にAIを活用し、担当者の経験値だけに頼らない客観的な判断を補強する動きも見られます。
また、見積比較や取引実績の記録など、ルーチン業務をRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が担うことで、業務フローの標準化も進んでいます。

これにより新任バイヤーや若手スタッフでもベテランと同等水準の業務遂行が可能となり、人の入れ替わりによる属人リスクも減少します。

業界に根強く残る「昭和的調達」へのラディカルなアプローチ

現場力そのものの価値再定義

もちろん、単に属人的なやり方をシステムに置き換えるだけでは本質の改革になりません。
昭和から続く現場主義にも確かに価値は存在します。

例えば、どのサプライヤーが短納期対応に強いか、増産要請にどこまで応えてもらえるか、といった“肌感覚”は、カタログやデータだけでは判断できません。
現場バイヤーのネットワークが、緊急対応時の救世主となることも実際多いのです。

しかし、調達購買の本質は「調達力=企業力」を最大化することに尽きます。
個人技に頼った過去のやり方を現代風にアップデートするには、現場の知恵や“暗黙知”を、どれだけ組織的に形式知化しデータ化するかがカギです。

現場ノウハウのデータベース化

熟練バイヤーの持つ調達ノウハウやサプライヤー情報(地元企業の強み・弱み、独自のコスト構造、過去のトラブル対応の履歴など)を、現場でしっかりと言語化し、専用データベースとして共有する仕組みが今、特に重要視されています。

これにより「○○さんがいないと困る」という状況を回避しつつ、属人的判断の“良い面”だけを組織として継承しやすくなります。
IT化のポイントは、「現場の知恵を現場で生かす」工夫にあります。

今後求められるバイヤー像と現場・取引先ができること

バイヤーは“交渉のプロ”から“価値創造のプロ”へ

従来、日本のバイヤーには「安く仕入れる交渉力」が強烈に求められてきました。
しかし今、業界の枠を超えたサプライチェーン競争のなかでは、「データに基づき、新しい仕入先や合理的な調達戦略を提案できる」人材が不可欠です。

取引相手の強み・弱み、品質・納期・コストパフォーマンスを数字で定量的に捉え、説明責任を果たせる調達担当者こそが、これからの現場に求められます。
また、無理なコストカットよりも「共創型パートナリング」にシフトし、サプライヤーとの信頼構築による付加価値向上を目指す姿勢もますます重視されるでしょう。

サプライヤー側が重視すべきポイント

サプライヤーの皆さんにとっても、“人間関係頼み”の営業スタイルから脱却し、「どんな点が御社の価値なのか」をデータや実績で伝えることが重要になっています。
品質・納期・コスト以外にも、新技術や新工法、製造現場での改善事例など、客観的にアピールできる材料をそろえましょう。

調達部門の担当者も、属人的判断だけでなく「業界ベンチマーク」や「客観データのエビデンス」を求めています。
現場訪問や定例会議で、自社の強みや成果を“数字+ストーリー”で伝えると、大手メーカーからの信頼度は確実に上がります。

最後に:透明性こそ未来の競争力

製造業における調達部門の属人的判断と、その透明性の低さは、もはや個社の問題にとどまりません。
今は「サプライチェーンの信頼性」が企業価値と直結する時代です。

バイヤー・サプライヤー双方が現場主義の良さを活かしつつも、公正で透明な調達業務の実現に“本気”で動くことが求められています。
デジタル化・標準化・現場ナレッジの共有。
どれも一朝一夕には進みませんが、「全社で継続的に取り組む価値」は、必ず将来の競争力に直結します。

これまで昭和流の調達を「これしか方法がない」と諦めてきた現場リーダーの皆さんこそ、新たな地平線を開拓できる存在です。
小さな改善でも構いません。
今日からぜひ、調達現場の透明化・公正化に向けた一歩を踏み出してみてください。

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