「数字だけ見る上司」を陰で馬鹿にする調達部門の声

「数字だけ見る上司」を陰で馬鹿にする調達部門の声

はじめに：「数字だけ」の経営はなぜ現場で嫌われるのか

製造業の調達部門に20年以上身を置く中で、「数字しか見ない上司」への不満は業界全体に根強く存在していると感じます。

会議になるとエクセルの表を睨み、自分の席では電卓を叩きながらコスト削減の号令を出す。

しかし、その数字の裏にある現場の知恵やサプライヤーの努力、いわゆる“温度感”には興味を示しません。

こうした上司の姿勢は、調達・生産管理・品質管理いずれの現場にも溝を生み、ときに現場の士気低下・コミュニケーションミスの原因となっています。

私自身もかつて数字至上主義の上司に苦しみ、時に陰で「表面的な数字に踊らされている」と嘆いたことが何度もありました。

本記事では、その裏側にある現場目線のリアルな声、そして数字と現場感の両立のために必要な視点を深掘りします。

数字重視の管理手法が根付く理由

なぜ製造業では数字だけを見る上司が生まれるのでしょうか。

理由の根源を掘り下げてみます。

バブル崩壊後のコスト競争

昭和から続く日本の製造業は、バブル崩壊を境に激しいコスト競争にさらされました。

その結果、効率化・合理化・コストダウンが企業の重要課題となり、「数字による評価」が至上命題になりました。

調達部門においても「前年対比で▲10％のコスト削減を必達せよ」といった目標が掲げられ、成果は単純な数字で評価されます。

グローバル化と利益至上主義

また、グローバル化も要因です。

海外本社や親会社の意向も絡み、日本の調達現場では「グローバルスタンダードのKPI」が導入され、感覚的な価値よりも“数字で見える成果”が重視される流れが加速しました。

昭和的アナログ管理からの脱皮失敗

一方で、現場では「人の目」「勘と経験」が重んじられる昭和的文化がいまだ根強く残っています。

数字ばかり追い求める管理者と、現場の“肌感覚”を重んじる作業者・サプライヤー間に、深いギャップが生じているのが実態です。

数字だけ見る上司の限界 ～調達部門の実感～

現場で調達業務に従事するスタッフの多くは、単なるコスト削減の数字競争では解決できない課題を日々痛感しています。

本当に理解している？ 調達業務の現実

調達担当者は、数字の裏側で起こる「取引先との粘り強い交渉」「小さいサプライヤーの支援・指導」「突発トラブルへの迅速な対応」など、机上の数字だけでは評価されない泥臭い努力を続けています。

たとえば、A社とB社の材料費が単純比較で1キロあたり100円違っても、A社の納期遵守率やクレーム率を踏まえれば単純なコスト比較では語れません。

「数字だけを見てA社に切り替えろ」と命じてくる上司の言葉が、現場の温度と乖離していると感じるのは当然です。

取引先との信頼の積み重ねが無視される

良いサプライヤーは、単に安いだけではありません。

生産ラインが深夜に停止しそうな時、取引先が人をかき集めて材料を届けてくれたことが何度もありました。

長年の信頼の蓄積こそが、本当に困った時の助け舟になるのですが、「数字しか見ない上司」はこうした“見えない資産”に無関心です。

これにより、現場と管理職との間に決定的な価値観の断絶が生まれてしまいます。

サプライヤーとの関係悪化も

発注金額や仕入先数、リードタイムの数字でだけ評価する上司が圧力をかけ続けると、取引先は「ただのコストダウン要員」としか扱われず、関係も悪化します。

これが原因で「協力的だったはずのサプライヤーが対応を渋るようになった」「情報提供が遅くなった」といった二次的なトラブルに発展しやすくなります。

バイヤーの本音：数字に追われる日々と葛藤

調達担当者、すなわちバイヤーも会社から与えられた目標数字を追いかけつつ、実際の現場では様々な矛盾や壁に直面します。

「紙上の理論」と「現場の真実」のギャップ

たとえば、月末に1円でも安い新サプライヤーを開拓して成果を出すよう求められることがあります。

しかし、既存サプライヤーの現場改善努力や製品の安定供給への貢献はなかなか数字には現れません。

このギャップにモヤモヤを感じながら、上司の会議用資料の数字を揃える毎日…。

「調達はただの買い物係じゃない」と自負するからこそ、そうした現状に悩み、陰で「数字だけで評価されたくない」とつぶやくバイヤーが多いのです。

属人化する現場力と組織のもどかしさ

また、現場とのコミュニケーション、既存サプライヤーの熟知、トラブル時の臨機応変さなど、数字で測れないスキルは属人化しがちです。

「なぜAさんはトラブル時にすぐ対応できたのか？」という現場力はKPIにはなりません。

それでも組織としては「数値改善」のインパクトのみが強調されがちで、評価も属人的な働きに低くなりがちです。

サプライヤー視点：バイヤーの本音をどう読み取るか

サプライヤーの方々にとっても、「数字だけ」のバイヤーを相手するのは難しいものがあります。

以下の点を押さえておくと、良い関係性構築の糸口になります。

本当に求められている価値とは

バイヤーは、経営層からは数字を厳しく詰められていますが、現場では「有事の際の安定供給」「納期調整」「品質対応」といった現場対応能力も求められています。

つまり、「数字の裏」で本音では“安心感”や“手堅さ”“真摯な協力”を強く評価しています。

「交渉ごとは腹八分目」～ギブ＆テイクの本質～

単純な値下げ交渉だけではなく、困った時の連携、新商品の共同開発、小ロット対応といった“攻めのコラボ”で存在感を示すとバイヤーの信頼は増します。

数字だけで考える人には「長期的な安定供給提案」や「業界動向を踏まえた価格政策」など、未来価値を見せる提案が効きます。

「目先の数字は最低限、でも本当にパートナーと成り得る会社なのか？」が実は重視されているのです。

数字重視を脱却、現場と共生する調達部門へ

数字だけを追いかける管理の弊害はすでにどの現場でも顕在化しています。

1990年代の“コストの神話”を引きずる経営層に対して、現場主導で進化する調達部門の“これから”を提案します。

“見えない価値”を見える化する努力を

納期遵守率・トラブル対応・新提案力などの“定量化しにくい価値”を評価基準として加えるべきです。

例えば月1回、現場と調達部門・サプライヤーを交えた事例共有会を開催し、「数字では測れない貢献」を見える化する仕組みを多くの工場で導入すべきだと考えます。

ダブルKPIでバイヤー・現場・経営が手を組む

従来のコスト等の数値KPIに加え、現場満足度・安定供給度・提案件数などの非数値KPIをバランス良く評価指標に入れる「ダブルKPI」が大きな効果を発揮します。

現場の声を積極的に経営陣へ発信することで、「現場重視（Gemba Driven）」の組織文化が生まれます。

昭和のアナログ現場こそデジタル共創の最前線へ

アナログな昭和的現場には、現代のデジタルツールを掛け合わせることで、現場感覚とデータドリブンを融合できるチャンスがあります。

例えばサプライヤーとの納期調整やトラブル履歴をシステムに蓄積し、「数字には表れない現場対応力」をリアルタイムで可視化すると優れたサプライヤーの“見えない価値”が評価されやすくなります。

まとめ：「数字だけ」から「共創型」へ組織カルチャーを変える

調達部門はこれからもコストや利益率で評価され続けるでしょう。

しかし、現場を知るバイヤーや工場長は「数字の背後」を正しく評価できる新しい経営者像を目指すことが、真の競争力となります。

サプライヤーも、安易な価格勝負だけではなく、“数字の行間を読む提案型企業”になれれば、バイヤーからの選ばれる理由となります。

昭和のアナログ文化に敬意を持ちつつ、数字だけでない現場主導の共創型カルチャーに進化することが、日本の製造業の新たな地平線を切り拓く鍵となるはずです。

現場の声を大切に、数字と現場感覚の両立を意識し、調達部門にしかできない真の「パートナーシップ」を築いていきましょう。