投稿日:2025年10月25日

製造業が海外の環境規制に対応するための製品設計と認証の考え方

はじめに:グローバル時代の製造業に求められる環境規制対応

2020年代に入り、製造業が直面する最大の課題の一つが「環境規制」です。

特に、欧州をはじめとした各国の厳格な法令や基準は、製造現場やサプライチェーン全体に大きな影響を及ぼしています。

日本国内で培った品質や技術力だけでは、グローバル市場では通用しません。

求められるのは、各国・各地域の環境規制に適合した製品設計と、スムーズな認証取得を可能にするプロセスの構築です。

特に昭和の時代から続くアナログな慣習が残る日本の製造現場では、より現実的かつ実践的な対応策が不可欠です。

本記事では、製造業の現場目線で、海外の環境規制に取り組むための製品設計と認証取得の考え方を深堀りし、ラテラルシンキング的な視点を交えて解説します。

海外の環境規制の現状と最新動向

主要な環境規制の種類と特徴

グローバル市場で対象となるおもな環境規制には、以下のようなものがあります。

– EU RoHS(有害物質制限指令)
– REACH規則(化学物質の登録・評価・認可・制限)
– WEEE指令(電気電子機器廃棄物指令)
– 中国RoHS
– 北米における各州・連邦ごとの環境規制(カリフォルニア州法など)
– エネルギー効率規制(ErP指令など)

それぞれ規制の対象物質・対象製品・適用範囲・要求される証明書類やマークが異なります。

現地の法改正も頻繁に起こり、「これまでのやり方のまま」では対応しきれません。

最近のトレンドと今後の厳格化への備え

近年は、従来の特定有害物質の禁止だけでなく、「フルマテリアルディスクロージャー」「サーキュラーエコノミー(循環経済)」といった新しい観点からの開示や設計が求められるケースが増えています。

また、サプライチェーン全体でのトレーサビリティ(追跡性)や、CO2排出量の算定義務化など、規制の範囲は広がる一方です。

日本国内の「昭和的なやり方」──たとえば、担当者ごとにExcelやファイルサーバー上での個別管理、口頭やFAXでの情報収集──では、効率的な対応は不可能です。

製品設計段階での環境規制適合のポイント

製品設計で「該非判断」を前倒しに行う

最も重要なのは、設計段階から「対応が必要な環境規制は何か」「どの材料・部品が対象となるのか」を技術部門と調達・品質部門が連携して、該非(適用/非適用)を明確に判断することです。

設計後や量産段階で規制非適合に気づくと、設計再変更だけでなく部品調達のやり直しや納期遅延のリスクも大きくなります。

部品選定の時点でサプライヤー協力を最大化する

環境規制に適合する製品設計では、以下のような視点が欠かせません。

– メーカー純正部品に頼らず、グローバル規制をクリアする供給元を複数確保
– 調達仕様書・部品表(BOM)を、グローバル規制に対応したフォーマットで管理
– サプライヤーに規制適合証明(CoC、グリーン調達確認書など)の提出を事前に依頼

そして、設計・調達・品質管理が一体となった「虎の巻」(対応マニュアル)を現場で共有し、ブラックボックス化しないことが大切です。

マテリアル情報の可視化と一元管理システムの活用

アナログ業界にありがちな「仕入先に聞かないと分からない」「過去のFAXや紙の書類を探す…」といった手法は、世界標準ではありません。

PLM(製品ライフサイクル管理)やGRMS(グリーン調達管理システム)などを活用し、製品に使用する全ての材料情報・規制物質情報を一元化し、いつ変更があっても素早く追従できる体制が必要です。

認証取得プロセスを最適化するための視点

サプライチェーン全体での協調体制の構築

欧州・米国などの認証(たとえばCEマーキング・UL認証など)は、単独の部品や完成品だけでなく、サプライヤーからの証明・情報連携も重要となります。

– サプライチェーン全体で「誰が何を証明し合うのか」「責任の分岐点はどこか」を明確化
– 内示や発注時の図面に「規制適合への協力義務」を必ず記載
– リスク分散のためのサプライヤー評価(第1種~第3種など)の導入

昭和型の「お付き合い」や「口約束」から脱却し、「証憑(エビデンス)がなければNG」の文化を定着させる必要があります。

第三者認証機関のトレンドと選定基準

各国・地域の認証取得を外部に依頼する場合、認証機関の実績・得意分野・最新版へのキャッチアップ能力なども重要視しましょう。

大手メーカーであっても、「従来どおりの提携先」ではなく、グローバル認証分野での最新動向やデジタル化対応に長けたパートナーの選択が有効です。

また、社内でナレッジを容易に蓄積・展開できるよう、プロセスを標準化しドキュメント化することも肝要です。

内部監査体制と継続的改善サイクル

一度認証を取得すれば終わり…という時代ではありません。

環境規制や市場要求は頻繁かつ急速に変化します。

– 年次・四半期ごとの内部監査を計画し、規制適合状況・未然防止策・是正措置を定期的に見直す
– 法令改正や顧客要求変化に対応する教育訓練の徹底
– データ分析によるボトルネック・遅延ポイントの洗い出しと解消

昭和世代が得意とする「現場の知恵」と、デジタル世代のIT活用を融合させたミックス型プロセスが有効です。

現場での環境規制対応の落とし穴と解決策

「人に依存した対応」から「仕組み化」への転換

実際の現場で多いのは、ベテラン社員や担当部署に対応が属人化し、担当者の異動や退職で全体が混乱するというパターンです。

また、担当者同士の「暗黙知」や「経験値」を過信しすぎて、外部審査で問題が顕在化する事例も増えています。

今後は、

– ナレッジの見える化・文書化
– 社内外問わず誰もが情報にアクセスできるDB(データベース)の整備
– 手順やチェックリストの標準化

を徹底し、「昭和・令和ハイブリッド型の仕組み」で担当者が変わっても品質を担保できる体制作りが不可欠です。

サプライヤー教育・管理が最大のボトルネック

環境規制対応の現場で最も苦労するのは、「下請け・サプライヤーへの教育と要求」です。

特に古参の仕入先や海外現地法人では、コミュニケーション上の壁や「なぜ今まで通りじゃダメなのか?」という抵抗感も根強いです。

– 初回取引時に「環境規制対応研修」や「オンライン説明会」の実施
– 構成部品・材料単位のリスクアセスメントの徹底
– 年次の現地監査や突発調査の制度化

など、粘り強い現場対応と共に「仕組みで回す」ことが大切です。

アナログ管理の残滓とジェネレーションギャップ対策

どうしても根強く残るのが、紙・手書き・FAX・ハンコによる情報伝達や、経験則による判断に頼る文化です。

もちろん現場のベテランの知恵や肌感覚は貴重ですが、環境規制適合というグローバルルールの世界では、「データに基づいた証明」と「即時の情報更新」が重視されます。

– 現場とオフィス、サプライヤーをつなぐモバイルツールやクラウドサービスの導入
– ベテランのノウハウの文書化ワークショップの定期開催
– 管理職層が変革の旗振り役となる意識醸成

これらの取り組みが必須となります。

おわりに:現場発のラテラルシンキングで世界水準へ

環境規制は一見すると「コスト増加」「手間の増大」のように思えるかもしれません。

しかし、実はこれこそが、現場が持つ課題解決力と、日本のものづくり現場に眠る知恵を「世界水準」にアップグレードするための絶好の機会です。

全てをトップダウンや外部指示で解決しようとせず、現場発の「なぜ?」「どうやったらもっと効率的に?」というラテラルシンキングが、新しい製品設計やサプライチェーン連携のイノベーションを生み出します。

すなわち、最前線の調達・バイヤーの皆さんこそ、現場の知見とデータを掛け合わせ「規制対応=競争力強化」の発想転換を主導できる存在です。

製造業に勤める皆さん、バイヤーを志す若手、サプライヤーの皆さん。

ぜひ、規制対応を「面倒な足かせ」ではなく、「新たな価値と信頼の証(ブランド力)」に昇華させ、グローバル時代の日本製造業をともに進化させていきましょう。

You cannot copy content of this page