投稿日:2025年8月20日

設備遊休時間の活用提案で割安単価を獲得する生産調整

はじめに:なぜ今「設備遊休時間の活用」なのか?

製造業では、設備稼働率の最大化が経営効率の肝となります。
しかし、現場には必ずと言っていいほど「遊休時間」が存在します。
この遊休時間をいかに活用し、生産調整を行うかによって、割安な単価を獲得する重要な交渉カードとなります。

特に、近年は合理化や自動化、働き方改革の名のもとに、遊休時間の存在が問題視されてきました。
一方で、一部製造業の現場では昭和のアナログな慣習が根強く残り、計画生産や段取替えの考え方も古いままです。

本記事では、設備遊休時間の活用に焦点を当て、現場で長年培ったノウハウとラテラルシンキング的観点から、実践的な生産調整とサプライヤー・バイヤー双方にとって有利となる「価格交渉の道筋」を解説します。

設備遊休時間とは?種類と現場での実際

計画的な遊休時間

定期的なメンテナンスや繁閑差異による計画的な停止時間です。
目に見えて“止まっている時間”ですが、多くの場合「経営として仕方がないもの」として扱われています。

突発的な遊休時間

段取替え、材料待ち、トラブルによる停止などが該当します。
これらは現場改善の対象とされることが多いですが、どんなに改善を重ねても“ゼロ”にはなりません。

隠れた遊休時間

設備は稼働しているように見えても、必要以上に余裕を持ったスケジューリングや、ラインバランスの調整で“本当は生産できたであろう”時間が空白となってしまう事象です。
昭和的な職人気質の現場では、こうした遊休時間を見つけるのは容易ではありません。

なぜ設備遊休時間を提案に使うべきなのか

設備投資には巨額な資金がかかります。
その回収には高い稼働率が不可欠です。
一方、需要と供給、季節要因、内示変動、海外供給拠点の台頭などで安定生産は難しくなっています。

この状況下、設備遊休時間の活用提案は以下のようなメリットをもたらします。

  • サプライヤーからすると、余剰リソースを活かし、単発・追加受注で収益化できる
  • バイヤーからすると、需給の谷間を突いて通常より安価で発注できる可能性がある
  • 両者の信頼関係構築の機会となる(“困っているタイミングで助け合える”関係)

バイヤー目線:割安単価を掴み取るための「発注タイミング」と提案力

サプライヤーの遊休時間をどう見抜くか

バイヤーが割安な単価で調達したい場合、サプライヤーの設備遊休時間を見抜き、そのタイミングで案件を持ちかけることです。
では、その情報をどう取得するか。

– 月次・週次などの稼働率・稼働予定をさりげなくヒアリングする
– 受発注実績や納期、傾向を過去分析し“谷間”を察知する
– 設備新設・更新があった場合、その設備の稼働状況を聞き出す
– サプライヤーの工場見学の際に、現場のラインスピードや現場担当者の発言も情報源になる

発注条件をどう合わせると価格が下がるか

遊休時間活用を前提にした発注では、納期やロット、仕様の柔軟性がカギとなります。
例えば、

– 「余った設備時間でいいので、前倒しや後ろ倒し生産可能なら安価で提供できないか」
– 「通常の繁忙期を避けた納期での生産なら割安にならないか」
– 「複数アイテムの一括段取替えで段取替え時間短縮、コスト減が見込めるのでは?」

こうした現場視点の“提案型発注”ができるバイヤーは希少です。
サプライヤー側としても「設備が無駄にならないならば」と、積極的な価格協力を得やすくなります。

「割安単価」と「安定供給」のトレードオフをどう管理するか

割安発注は「工場の空き時間」「不定期生産」などが要素となるため、計画生産品とは異なり納期や安定性に妥協が必要です。
これを現場で丁寧に説明し、自社のパートナーに納得してもらうことが、バイヤーの腕の見せ所となります。

サプライヤー目線:設備遊休時間活用型の業務提案は武器になる

バイヤーのニーズをどう引き出すか

「設備が空いているときこそ営業のチャンス」です。
サプライヤー側から積極的に以下を提案すると、バイヤーからも高評価を得やすくなります。

– 設備稼働に余裕がある時期を事前にアナウンスする
– 割安な単価の条件(納期幅、ロット分割、仕様簡易化等)を明確に提示する
– 新規設備稼働安定化のための実証サンプル生産などを安価で提案する

値上げ要請時でも「遊休時間活用」を併用提案する

コスト上昇要因による値上げ要請は避けられませんが、「遊休設備を使った場合には割安対応可能」と付け加えることが大切です。
これにより、バイヤーにとって「すべて値上げ」ではなく「使い分けられる」発注先として長期契約のチャンスが広がります。

昭和のアナログ的「段取り」と“脱アナログ”への活用術

昭和時代から「段取替え=設備休止時間=やむを得ない」と考えがちでした。
しかし、今や段取替え時間自体を短縮するだけでなく、「段取替え前後のアイドルタイム」をどう活かすかがカギとなります。

– アイテムをあえて“まとめどり”して段取替え回数を減らす
– ロット最適化で生産量の波を吸収し、設備の遊休谷間を潰す
– 別工程との並行作業で小ロット案件を組み込む

こうした“段取り視点”で遊休時間を潰せば、現場の稼働率・コストダウン・納期短縮に繋がります。

成功事例に学ぶ:設備遊休時間活用で「共存共栄」へ

ある自動車部品メーカーでは、繫忙期明けの生産ラインの遊休時間を、協力会社の小ロット生産に開放しました。
これにより、

– 本来なら断っていた小口案件にも応えられた
– 自社の設備稼働率が年率10%アップ、1割程度のコストダウンに寄与
– 新たな商流を得て、バイヤーからは「柔軟な対応ができる先」として評価

という好循環が生まれました。

別の精密部品メーカーでは、「遊休時間限定の特別協力単価を明記」した提案ベースで継続取引を獲得しています。
ここでは単なる“安売り”ではなく、遊休時間=ウィンウィンな価格と位置付けることで、値引き交渉ではなく「合理的・再現性のあるコストダウン提案」として受け入れられました。

まとめ:遊休時間活用提案で開ける「新しい交渉の地平」

昭和のアナログ的な現場から、令和の柔軟かつ合理的な現場づくりへ。
いつも通りより“ひと工夫”加え、設備遊休時間を活用することで、バイヤーもサプライヤーも、調達コスト低減と収益向上の両立を目指せます。

現場で培った知見を活かし、設備遊休時間を「無駄なコスト」から「価値あるリソース」へ変えていきましょう。
設備遊休時間の見える化・共有・提案力が、これからの製造業の競争力・交渉力を決定します。

これらの取り組みが、バイヤー・サプライヤー双方の「共存共栄」となり、組織や業界全体の生産性と付加価値向上につながる未来を切り拓くことを、私は強く期待しています。

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