投稿日:2025年12月14日

生産技術者が本来の業務より雑務に追われる現実的な問題

はじめに:生産技術者の“現実”と向き合う

現場の最前線で、新しいものづくりを支える生産技術者。
多くの方が理想とするのは「生産性向上」や「新技術導入」といった本来の業務への専念です。
ところが、実際の現場では、技術者が“技術以外”の仕事——すなわち雑務に時間を取られる事が珍しくありません。
この問題は、単なる不満や怠慢の話ではなく、日本の製造現場全体の競争力にも直結する根深い課題です。
本記事では、長年の現場体験に基づいて、生産技術者を雑務から解放し、本来の力を最大限に発揮してもらうための現状分析と解決策を考察します。

雑務に追われる実態:なぜ生産技術者が“本職”を活かせないのか

工場現場での本来の役割

そもそも生産技術者の主な役割は、生産設備の設計改善・工程の最適化・安全生産の仕組み構築など、高度な知識と経験を要するものです。
最適な生産ライン設計や現場力の底上げ、IoTや自動化導入支援も求められます。
そのアウトプットこそが、企業競争力の根幹です。

現場で蔓延するアナログな業務環境

ところが、現場では昭和時代からの慣習や方式が根強く残っています。
たとえば、
– 記録簿や報告書の手書き管理
– 紙での調達・発注書処理
– ExcelやFAXによる進捗管理
– 人への口頭伝達や飛び込み修理依頼
といった作業です。

デジタル化の波は一部で届いているものの、現場レベルでは「なんとなく今まで通りが安心だ」「トラブル時に紙や電話が一番早い」といった空気が根強いのが実情です。

生産技術者が請け負う“雑務”の正体

こうしたアナログなオペレーションの穴を埋めるために、技術者であるにも関わらず、以下のような業務が日常的に舞い込みます。

– 現場資料や日報の作成、データの手入力
– 会議や現場見回りのための書類や資料作成
– タスク管理や工程進捗の逐次報告(メール、紙、電話問わず)
– 部品手配状況や在庫管理の臨時対応
– 急な来客・現場案内・物流手配への臨機応変な対応
– 設備トラブル初動や緊急修理の取りまとめ
– 社内外(バイヤー・調達先・協力工場等)との伝達・調整役

こうした付随業務に追われる現実が、「本来の設計開発や技術改善に集中できない」根本原因となっています。

昭和から抜け出せないアナログ業界の構造的問題

なぜアナログ作業が残りつづけるのか?

一見して非効率なこの状態がなぜ継続するのか。
主な要因は以下のとおりです。

– 「現場主義」の名のもとに、現場内決着や属人的解決を美徳とする文化
– 新たなIT投資やシステム連携への消極姿勢(費用対効果、現状維持バイアス)
– 調達・購買~生産~出荷が縦割りで、それぞれ個別最適化に陥りがち
– シニア人材・職人技術の豊富さがデジタル化の障壁となりやすい
– データ活用や共有より「現物」「現場」「現認」の徹底を優先

こうした“価値観の壁”は、新たなツールや改善案の導入時に「使いこなせる自信がない」「余計面倒なことになったら困る」といった不安や抵抗を生みます。

現場に根差した“調整業”の増加

さらに、現場間・部門間での“調整業”が生産技術者の負担を増やしています。
バイヤーとサプライヤーの駆け引き、部品供給遅延時の現場対応、物流・在庫対応に加え、顧客仕様変更や緊急修理などの中継ぎ役まで——
まさしく、“何でも屋”状態。
これにより、本業へのリソース配分が相対的に削られていきます。

雑務の山がもたらすリスクと弊害

「現業」の質とスピードの低下

本来価値を生むべき設計・改善業務ではなく、頻発するイレギュラー対応や管理補助で消耗してしまうと、ノウハウ共有や新規技術開発に手が回らなくなります。
結果として、
– 設備改善や工程短縮のアイデア創出が停滞
– 効率化・自動化の進展が鈍化
– 不具合発生時の“対処療法”対応ばかりに偏る
といった現象が起こります。

人材育成と引き継ぎの難航

技術伝承や新人のOJTも疎かになり、属人的解決に拍車がかかります。
組織の“弱体化”リスクに直結し、世代交代時の混乱や「ひとり親方」依存の慢性化を招きやすくなります。

働き方改革への壁と人材流出

現場からは「毎日雑務に追われて本来のスキルアップができない」「やりがいを見いだせない」といった声もあがり、優秀な人材が離職を考える要因にもなりやすいです。

生産技術者を「雑務」から解放するには

デジタル化・自動化の現実的な進め方

まず、一足飛びに全自動化を目指すのではなく、以下の観点で“地に足のついた”改善を進めることが重要です。

1. 現場作業の棚卸し:業務フローを可視化し、「自動化可能な定型作業」と「人が判断すべき仕事」を切り分ける
2. ボトルネック領域(特にデータ転記、単純比較・照合作業)にRPAや簡易ツール(クラウド型進捗管理ソフト等)を試験導入
3. 小規模でも成果が見込める業務(紙→電子)の“部分最適”から着手し、成功事例を蓄積・全社展開へつなげる

手入力・紙資料の撤廃、現場情報の“その場電子共有”による業務可視化は、確実に手間・ミスを減らし、技術者が本来業務へ注力できる環境を萎縮させる第一歩です。

現場主導の「改善」文化醸成

現場技術者が“下請け作業者”になるのではなく、「自ら業務改革に携われる」環境づくりも肝心です。

– 毎日のちょっとした不便やボトルネックを書き出し、Gembaカイゼン活動として小集団で改善
– 改善提案が賞賛・評価される仕組み作り
– ITツール導入時の現場巻き込み(トップダウンでの強制ではなく、現場の課題からのアプローチ)
– マネージャーが“雑務”の整理削減を主導し、技術知識・発信機会の創出へリーダーシップを発揮

現場の実体験こそが最適な解決策につながるため、単なるシステム投資だけでは不十分だと実感します。

バイヤー・サプライヤーとの関係再構築

調達バイヤーや外注先も、現場側の“雑務増加の内情”を理解し、極力シンプルな情報共有・意思決定プロセスへ移行することが重要です。
– 来歴情報や納期変更はリアルタイム共有
– 単なる「連絡帳」ではなく双方向コミュニケーション
– 緊急対応が少なくなるような標準プロセス化

バイヤー/サプライヤー双方がDX化・自動化の“冗談抜きの現場メリット”を共有できれば、調達から生産までの無駄“待ち”や“伝達”が格段に減ります。

バイヤー・サプライヤー目線での視点とアドバイス

バイヤーを目指す方へ:現場を知る重要性

バイヤーや調達担当者を志す皆さんには、単なる「コスト最適化」「納期短縮」にとどまらず、現場の生産技術者やオペレーターの実業務をぜひ現地現物で見て、感じてほしいです。
“机上の理論”だけでは見えない“雑務のリアル”が理解でき、Win-Winな関係構築の糸口になります。

サプライヤーの方へ:バイヤーの本音を知る

サプライヤー側としては、バイヤー担当者がなぜ急な納期変更や情報の細かいフィードバックを求めるのか、その理由—上記の現場技術者の“負荷分散”や連携コスト低減を目指しているという本質的な狙いにも目を向けてほしいです。
その上で、
– 細かい確認・調整依頼を可能な限りシステム・デジタル化で吸収
– 基本情報共有・リマインドを自動化する
という提案をバイヤー側に積極的に行えば、“頼られるサプライヤー”としての地位が確固たるものになるでしょう。

まとめ:製造現場の生産技術者が輝くために

「雑務」が本来業務の足かせになる現状は、“昔ながら”の美徳や安心感を大切にするあまり、外部環境の変化に乗り遅れている警告でもあります。
地道な改善・アナログ脱却と、現場力の活用を両立させることで、初めて生産技術者—ひいては日本のものづくりの未来が開けます。
バイヤー、サプライヤー、そして生産技術者自身が“現場主義”の本質を問い直し、互いに連携・成長を図る姿勢が、次世代製造業の競争力を支える核になるでしょう。
抜本的な働き方改革と、個々のスキル・知見発揮の場づくりが、製造業の明日を切り拓く鍵と信じています。

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