投稿日:2025年7月20日

納期遅れ防止在庫削減両立生産在庫計画法

はじめに ― 製造業の永遠のテーマ「納期遅れ防止」と「在庫削減」

製造業の現場で働かれている方、調達購買や生産管理、品質管理に携わっている方にとって、「納期遅れの防止」と「在庫削減」は切っても切り離せない課題です。

一方を重視しすぎれば他方が疎かになる、いわば“トレードオフ”の関係に苦しみ続けている企業も少なくありません。

特に近年は、サプライチェーンの混乱や部品不足、需要変動の激化など、外部環境の変化も激しくなっています。

他にも、アナログな管理方法や昭和時代から続く「勘と経験」に頼った生産・在庫計画がいまだ強く残っている現実もあり、これが改善を難しくしています。

本記事では、現場での管理職経験と、祭り上げだけではないリアルな現場目線から、納期遅れ防止と在庫削減を高度に両立するための実践的な生産在庫計画手法をご紹介します。

これからバイヤーを目指す方、サプライヤーの方にもヒントとなるバイヤー視点や業界動向も織り交ぜ、令和時代のものづくり現場で本当に意味のある工夫とは何かを、深掘りしながら解説していきます。

昭和から抜け出せない在庫管理の“常識”を疑う

帳簿上の在庫が現場の実態を正しく映していない

多くの日本企業の工場では、在庫管理をExcelや紙ベースで行っている現場が依然として多数を占めています。

日々の棚卸しを行っていても、本当の在庫状況や将来必要となる量・タイミングは担当者の“カン”に大きく依存しているのが現状です。

棚卸しと出荷計画、需要予測および生産計画が一枚岩となって連携していないため、どこかでギャップや行き違いが生まれやすくなっています。

これが「足りないのに余っている」「お金を寝かせている無駄な在庫が増えやすい」主因となっています。

生産現場の“間に合わせ”体質が引き起こす納期遅延

納期最優先と叫ばれれば、現場はどうしても“とりあえず多めに作って在庫しておこう”という心理に陥りがちです。

仮に生産ラインで突発トラブルや部品不足が起きても、「余剰在庫」があればその場しのぎができるからです。

しかし、結果として在庫増加が慢性化し、在庫削減の動きと真っ向から衝突してしまいます。

また、それでも突発的な緊急受注や特殊な多品種少量生産では在庫が足りなくなりがちです。

結局、あちらを立てればこちらが立たず、負のスパイラルから抜け出せなくなります。

なぜ従来型の生産在庫計画では「両立」が難しいのか

需要変動への対応遅れが“在庫か納期遅れ”を生む

生産計画を組む上で、最もやっかいなのが「需要変動への対応」です。

多くの現場では、“過去の実績”をもとに計画を立てますが、昨今は市場変動や顧客の急なニーズ変更など、過去の延長線上に未来がない場面が増えてきました。

このような変化に対応できていないと、在庫不足=納期遅れ、または過剰生産=在庫山積み、となってしまうのです。

現場と事務方の情報連携が不十分

また、工場現場・調達購買・受注営業の各部門間で情報がリアルタイムで共有できていないことも、在庫管理と納期コントロールの壁になっています。

「受注変化が伝わるまで数日かかる」「計画変更が現場に反映しきれていない」など、情報のリードタイムが長いのが未だに日本の多くの製造現場の“あるある”です。

“責任の所在”が曖昧だと柔軟な判断が困難に

在庫の持ち方ひとつをとっても、「どの部門(あるいは誰)がどこまでを責任範囲とするか」が曖昧だと、迅速で柔軟なオペレーションは生まれません。

在庫が多い時のコスト負担・在庫不足時の責任問題がブランドや個人攻撃の色合いになりやすく、現場も冒険しなくなります。

両立を現実にする“3つの実践的アプローチ”

次に、現場で実際に効果があった“納期遅れ防止”と“在庫削減”の両立を可能とする手法を具体的に見ていきます。

1. デマンドドリブン(需要指向型)生産計画

昔ながらの「作れば売れる・予測してから作る」というプッシュ型生産では、在庫増加が避けられません。

そこで有効なのが「デマンドドリブン」、つまりリアルタイムに近い形で需要(顧客注文)を起点として生産計画を引く方式です。

これには、“販売・需要情報の可視化”と“生産現場への即時フィードバック”をセットで導入することが不可欠です。

また、受注情報の変化を早くつかんで「柔軟に計画を見直す」サイクルを早めることで、過剰在庫も納期遅れも未然に防げます。

2. “見せ筋”と“隠れ筋”の在庫マネジメント

現場では、すべての品目で一律に在庫を削減しようとすると、特に納期リスクが高い重要部品でトラブルが生じやすくなります。

ポイントは、在庫削減の主戦場を“消費頻度が安定し、納期リスクが比較的小さい材料・部品”に絞ることです。

一方で、サプライチェーンの遅延リスクが高いアイテム(海外部品、長納期品)は“安全在庫”をしっかり持ち、「ここは減らさない」の意識を持ちます。

この“見せ筋(削減できる在庫)”と“隠れ筋(安全在庫を死守するアイテム)”のメリハリ管理が、トータルでの納期遅れ防止と在庫削減の両立に直結します。

3. 現場主体の“小ロット・高頻度生産”への転換

昭和型の大量一括生産は、納期と在庫どちらも犠牲にしがちです。

ですが、技術の進化や設備自動化により「小ロット高頻度生産」ができる工場が増えています。

小ロットにすればするほど、在庫が“動く資産”になりやすく、柔軟な納期対応がしやすくなります。

特に自動化設備やIoTセンサー、MES(製造実行システム)などを現場に取り入れることで、細かな計画変更に即応できる現場体制が実現します。

バイヤー・サプライヤー双方が意識すべきポイント

バイヤー目線:サプライヤーとの“情報共有”が命綱

部品や材料の納入遅延で生産が止まり、結局モノを作れない。

これはバイヤーにとっても大きなリスクです。

サプライヤーとの定期的な情報共有会や、受注・生産計画の早期通知、部材の在庫状況のリアルタイム連携は、トラブルを未然に防ぐカギになります。

また、迅速な意思決定や「多少の計画変更にもサプライヤーが即対応できる体制」の構築も求められます。

サプライヤー目線:バイヤーの事業計画・需要動向を見抜く

サプライヤーは、単なる「注文を受けて納品する下請け」という立場から脱却し、バイヤー(発注元)の生産計画や業界動向を先取りして考える力が重要になっています。

注文や需要が不安定な時期でも、「顧客にとって今何が求められているか」を現場感覚で察知し、リスクを予測して納期遅延・在庫リスクを最小限に抑えられるサプライヤーが、今後も選ばれ続けます。

現場管理者が実践したい“新たな地平線”へのチャレンジ

デジタルシフトの“部分最適”から“全体最適”へ

単に帳票をExcel化するレベルのデジタル化では、現場の在庫・納期問題は根本的に解決できません。

工場のIoT化や、SCM(サプライチェーンマネジメント)システムの導入等により、現場と経営層・営業・関係各署が同じデータで状況を瞬時に把握し、意思決定できる体制を目指すべきです。

これは一朝一夕にはできませんが、「まず在庫管理から」「まず需要情報から」など部分からはじめ、段階的に全体最適へ広げていく姿勢が求められます。

現場主導のPDCAサイクルを武器に生産在庫計画を“回せ”

生産在庫計画は、最初から完璧を求めるのではなく、「やってみて、振り返り、2週間で見直す」現場主導のPDCAサイクルによって磨かれていきます。

現場から“こうすれば在庫がもっと減らせる”“このやり方なら納期を守れる”というアイデアや失敗事例を吸い上げることで、計画精度はリアリティに裏打ちされたレベルに近づきます。

職務領域をまたぐ「横断型コミュニケーション」を習慣化

最後に欠かせないのが、受発注・生産管理・在庫担当・現場作業員など“職種・階層をまたぐ横断コミュニケーション”の習慣化です。

アナログ文化が根強い現場ほど、非公式の雑談や定期ミーティングが心の壁を取り払い、細かなリスクシェア、アイデア共有、失敗の早期発見につながります。

ここを徹底できれば、形式だけの会議体よりはるかに実効性のある現場改革が進みやすくなるのです。

まとめ ― 両立のカギは「現場と全体をつなぐ設計」にあり

製造業における「納期遅れの防止」と「在庫削減」は、相反する目標のように見えて、実は“現場と経営・サプライチェーン全体とつなぐ”設計力があれば十分両立できます。

デジタルツールの活用やサプライヤー・バイヤーの意識変革、現場主導の柔軟かつリアルなPDCAサイクル、そして昭和型から脱却するための小さな一歩――。

どれも時間と根気は要しますが、今まさに私たち現場のリーダーや管理職が新たな地平線を切り開く絶好のタイミングです。

自分たちの現場、そして次の世代のものづくりをより強く、賢くするために、ぜひ“両立できる”生産在庫計画に現場からチャレンジしてみてください。

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