投稿日:2025年7月1日

板鍛造金型剛性から潤滑選定まで順送プレストラブル解決法

はじめに ― 順送プレス現場で頻発するトラブルの実態

順送プレスは製造業の心臓部とも言える重要な生産技術です。

その一方で、現場では日々さまざまなトラブルに悩まされているのが実情です。

板鍛造金型の剛性不足による寸法不良や、潤滑不良が引き起こすカジリや摩耗、さらには材料送りやセンサー誤作動など、昭和時代から抜け出せていないアナログ管理が生み出す「見えにくいトラブル」が未だ強く残っています。

本記事では、現場で苦労してきた身だからこそ伝えられる実践的なノウハウや、業界の現状を変革するためのラテラルな発想まで、順送プレストラブルの真因から解決アプローチまでを詳細に解説します。

板鍛造金型剛性、潤滑剤選定、工程設計、現場管理…どの立場から読んでも気づきを必ず持ち帰れる内容としています。

板鍛造金型剛性 ― トラブルの8割はここで決まる

剛性不足が引き起こす深刻な問題

順送プレスの生産品質や安定稼働を脅かす最大の敵は、「金型剛性不足」です。

とくに板鍛造領域では大きな成形力が短時間に繰り返し作用するため、金型剛性がわずかにでも不足すると、段取りごとに生じる微小な変形や応力集中が累積します。

結果、生産初期は安定していた寸法精度が次第に崩れ、バリ発生、割れ、さらには金型破損のリスクまでも高まります。

代表的なトラブル例としては以下が挙げられます。

– 加工品のバラつき拡大
– 金型合わせ面からのオイル漏れ
– パンチ・ダイスのカジリ
– プレート割れ
– 不明瞭な寿命低下

こうした現象は、長年の“暗黙知”と“職人技”頼りの現場運用を許してきた昭和型の体質が温床となっています。

「計算された剛性」と「現場の体感値」の乖離を埋める

設計段階でのCAE(構造解析)や経験式による剛性確保は当然重要ですが、「実際の現場荷重」と「設計上の理論値」には往々にして乖離が生じます。

これを埋めるには以下の手法が効果的です。

– 実稼働時の荷重モニタリング(ロードセル導入)
– 金型締結部のトルク管理、定期的な再測定
– 機上での金型変位計測
– 傾向監視による“剛性劣化”の早期発見

私は工場長時代、ロードセル付きプレスで全工程の加圧曲線を記録し、剛性低下の初期症状として微細な荷重グラフのゆらぎを“見える化”することで、トラブルを未然防止できる体制を築きました。

金型素材・構造の最新事例

高剛性化には、調達視点も欠かせません。

最適な金型素材(SKD11や高合金鋼など)の選定や、プリロード(予圧)構造の導入、カートリッジ型ユニット化、ボルト締結の仕様統一など、調達・自工程一貫型の設計思想を取り込むことが、現代の「標準」になりつつあります。

バイヤー視点では「材料費が高いから」とコスト優先で安易にグレードダウンするのではなく、“現場目線”でトータルの損失コスト(品質不良や設備停止のコスト)まで評価対象に加える柔軟思考が求められています。

潤滑剤選定と潤滑管理 ― 塗布方法で差がつく品質安定

潤滑トラブルの典型パターン

潤滑不足や不適切な潤滑剤選定は、「カジリ」「摩耗」「ビルドアップ」「せん断刃寿命低下」など、金型トラブルの大きな要因となります。

現場ではよく「とりあえず既存のオイルを使い回す」「潤滑条件を見直していない」「手作業による塗布むら」など、アナログ的な運用ミスが根強く残っています。

これを打破するには、“潤滑管理を工程設計の一部と捉え直す”発想が重要です。

潤滑材の選び方 ― 加工難易度と金型仕様に応じた最適解

代表的な潤滑剤には、水溶性潤滑剤・油性潤滑剤・固体被膜型の他、最近では環境負荷低減型のバイオ潤滑剤やドライ潤滑剤も登場しています。

最適な潤滑剤を選定するポイントは

– 加工材質(高張力鋼、アルミ、ステンレス等)
– 加工内容(せん断、絞り、鍛造度合い)
– 金型材質、表面処理(PVD、CVDコーティングの有無)
– 工程速度、冷間/温間の使用領域
– 環境負荷(RoHS、廃液処理)

現場で散見される失敗例は、「安価な既存品への固執」や「潤滑力よりも洗い落とし性を優先したための摩耗増加」など、短期的視野に偏った選定です。

私は新規ライン立ち上げ時には、必ず複数の潤滑剤でプリトライアルを行い、寸法測定と摩耗量、ライン安定性までトータルで評価しています。

塗布管理 ― デジタル化と“潤滑見える化”のすすめ

潤滑トラブル低減のカギは「塗布量・タイミングの標準化」と「定量的な見える化」です。

近年では、エアミストやスプレーノズルによる自動塗布装置、潤滑量のデジタル一元管理も普及しています。

具体事例として、各ストリップ材への潤滑付着量をオンライン重量測定し、IoTで監視する“スマート潤滑管理”は効果絶大です。

また、金型交換時や工程変更時にも「標準レシピ」を活用し、現場作業者の勘や経験に頼らず「誰がやっても同じ潤滑品質」を再現できる仕組み構築が、今後の差別化ポイントです。

順送プレストラブルの未然防止策 ― 工程設計・現場管理の本質

寸法不良・バリ・焼付き ― トラブル原因の“隠れた本質”

順送現場で発生する大小さまざまなトラブルは

– 材料公差/板厚変動による圧力過多
– 材料送り装置のズレ、センサー作動不良
– 初期組み立て時のボルト緩み、金型バランス崩れ
– 防錆剤や汚れの未除去による潤滑阻害

など、「工場内の小さなミス」と「工程設計上の抜け」が連動することで起こります。

工場現場の“場当たり対応”だけでは根本解決には至りません。

根治のためには、工程設計段階で金型剛性・潤滑・設備条件をトータルで標準化し、「管理のデジタル化・見える化」を推進する必要があります。

実践!トラブルを未然防止する具体アプローチ

1. 金型管理台帳のデジタル化
– 金型ごとのトラブル履歴・寸法変異傾向を一元管理し、定期点検・交換時期を自動通知

2. 潤滑管理チェックリスト整備
– 定量記録(写真、重量、塗布ログ)による異常初期傾向監視

3. 材料ロット毎の加工性“健康診断”
– 板材ロットごとの初期加工テスト値を記録し、材料側へのQAフィードバックを迅速化

4. センサー類の多重化・自動診断
– 材料送り、高さ、荷重など各種センサーを多重化し、“ヒューマンエラーの入る余地”を先回りでゼロ化

5. PDCAの徹底と可視化ボード
– 「小集団活動」でのヒヤリハット共有やトラブル未発生事例の見える化

これらは一朝一夕に実現できるものではありませんが、「標準化と現場教育」のセットで実行すれば、数年単位で確実に効果が現れます。

これからの順送プレス現場 ― アナログからデジタルへの進化で勝ち抜く

順送プレス工程は長らく“職人技”と“場当たり対応力”の世界でした。

しかし、海外とのコスト競争や「カーボンニュートラル」「人材不足」「品質の高度化」といった環境変化に対応するためには、もう一段の進化が不可欠です。

これからの勝ち組現場は

– CAE+現場ビッグデータを駆使した“デジタル現場改善”
– 「トラブル履歴の蓄積」と「未然予知保全」の融合
– 材料・設備・金型サプライヤーまで巻き込んだ全社的PDCA

を推進することが重要です。

私が最後に強調したいのは「現場目線×ラテラルシンキング」の両輪です。

ベテランオペレーターの暗黙知を無駄にせず、デジタル化・標準化を進める“バランス感覚”こそが、次世代のものづくりリーダーの要件となるでしょう。

まとめ ― バイヤー・サプライヤー・現場、三位一体で現場進化を実現

順送プレスにおけるトラブル防止は、決して一つの部署や個人だけで達成できる目標ではありません。

バイヤー(調達)が現場要求を正しく理解し、サプライヤーと“価値ある情報”を密に交換できる関係を作り、現場は標準化・デジタル化で進化し続ける――。

この三位一体のラテラルな取り組みこそが、日本の製造現場を次のステージへと押し上げるはずです。

本記事を通じて、一人でも多くの現場担当者、現場を支えるバイヤー・サプライヤーの皆さんに、変革のヒントと勇気を届けられたら幸いです。

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