投稿日:2025年10月3日

デザイン力不足が原因でプロジェクトが頓挫する失敗談

はじめに:デザイン力の重要性が見落とされる理由

製造業の現場、特に調達購買や生産管理の分野では、どうしても「コスト」や「納期」「品質」といったハードな指標が重視されがちです。
そのせいか、「デザイン力」という観点はしばしば軽視される傾向にあります。
昭和から続く現場文化では、「設計は設計」「製造は製造」と、部門ごとに壁を作りやすいのも背景にあります。
しかし、実際にはこの“デザイン力の不足”によって、思いがけない形でプロジェクトが頓挫したり、大きな損失を生んだ失敗談が数多く存在します。

この記事では、筆者の20年以上の現場経験をもとに、デザイン力不足による典型的な失敗例とその背景、そして対策について、現場目線で深掘りします。
バイヤー志望者やサプライヤーの方にも、バイヤーが何を重視しているかを知るヒントになるでしょう。

現場で起きたデザイン力不足による大失敗

1. 図面通りに作ったのに現場で使えない

ある自動車部品メーカーでは、海外拠点とのコスト競争に勝つため、安価なサプライヤーへ部品の設計を丸投げしたことがありました。
図面通りに完成したサンプルは、図面上では問題がなかったものの、いざラインで試作してみると工具が入らず組立作業が滞る事態になりました。

なぜこんな事態が起きたのか?
理由は「現場作業者の動作」や「治具の当たり方」までを設計段階で想像していなかったことです。
設計図の”引きやすさ”や”数値で納まる”ことだけが基準になり、現場の実作業環境まで目が届いていませんでした。

2. コスト重視が生んだ仇~安価部材のリスク露呈

購買部門がコストダウンを追求した結果、設計段階から「この部材は安いもので代替できる」と営業的にものごとを進めてしまう場合があります。
しかし、長期安定生産の視点を忘れ、本質的な品質や量産時のバラツキを無視したまま部材が採用されてしまうことが多々あります。

筆者が経験したケースでは、海外生産拠点向けの樹脂部品で安価な材料を選定。
最初のうちは問題なかったが、数ヶ月後に「組立時の破損」「密着性の低下」「耐久性不良」などが続出しました。
設計段階で現場作業や使われ方までをイメージせず、”値段”だけで選んだ結果、本来なら避けられたトラブルが発生したのです。

3. 昭和的文化がもたらす部門間分断の弊害

製造業界は、まだまだ「縦割り文化」「昭和の常識」が強い世界です。
設計・製造・品質・購買・調達といった各部門が、最小限のやり取りだけで済ませてしまい、本質的な”コミュニケーション”や”横断的なレビュー”が抜け落ちがちです。

実際、「設計部がOKを出したからこれでいい」というやりとりが横行し、現場目線での最終的な確認やフィードバックができずに終わる案件も多いです。
そのツケが、量産立上時や市場対応時に一気に出てしまい、現場が右往左往する羽目になるのです。

デザイン力不足の根本的な原因を探る

1. デザイン=見た目と誤解されがち

「デザイン」と聞いて、どうしても”見た目がきれい””包装がカッコいい”だけで評価されがちです。
しかし、モノづくりの現場におけるデザイン力とは、「作る人」「使う人」「組み立てる人」「保守する人」までを含めた全体最適をイメージできる力です。

部材の形状や寸法、材料特性など、使う側・作る側の目線から想像力を働かせることが真のデザイン力です。
それが形骸化した「図面上で整合すればOK」といった発想になると、現場で大きなミスマッチが発生します。

2. ヒアリングと現場巻き込みの不足

設計や商品開発の現場では、短納期・効率最優先の圧力から、「現場へのヒアリング」や「事前のモックアップ試作」を省略しがちです。
また、購買や調達担当も、案件ごとにコストやサイクルタイム短縮ばかりに目が行き、「本当にその設計が作業現場にフィットするか?」という視点が抜け落ちます。

これは特に大手メーカーならではの「業務の肥大化」や「部門間の壁」が原因です。
現場を知る人を設計や見積もりの初期段階から巻き込む習慣が弱くなっているのです。

3. 過去の成功体験に縛られる危うさ

昭和以来の「これで何十年もうまくいってきた」「前例踏襲こそがリスク対応だ」という価値観が根強い企業も多いです。
しかし、市場環境や顧客用途は日進月歩で変化しています。
材料や生産方法、顧客ニーズが変わり続ける中、過去と同じ設計手法・意思決定プロセスを踏襲するだけでは”段差”が生まれやすくなります。
本当の意味でのデザイン力とは、過去の延長線上ではなく「なぜ今この形か?」「どう使われるか?」を不断に問い続ける力なのです。

サプライヤーやバイヤーに求められる“現場発想”

サプライヤー目線から見るバイヤーの期待

サプライヤーにとって「バイヤー(調達・購買担当者)」が何を気にしているのかを知ることは、受注拡大や信頼獲得への近道です。
そのためには、単なるコスト提案だけでなく、「現場でどう使うのか?」「作業効率や歩留りに貢献できる設計は何か?」という視点で提案できるかどうかが差別化のポイントになっています。

例えば、組立工程のミスが多いなら、部材の形状や表示に工夫を加え「間違いにくい(フールプルーフな)デザインにする」ことができるはずです。
バイヤーはコストと納期だけで判断していません。
ライン現場が助かる・トラブルが減るという観点での付加価値も必ず評価します。

デザイン力を高める情報とコミュニケーションの重要性

どんなに設計者として知見があっても、現場で何が起きているか、加工現場でどんな工夫をしているかという“生きた情報”がなければ、価値あるデザイン提案は難しくなります。
取引先との情報交換や現場同行、現物比較など、徹底的な「現場主義」「現物・現場重視」のアプローチが、互いの信頼関係にもつながります。

特に昨今では、デジタル化や遠隔打合せが進み、現物を手に取って確認する機会が減りました。
「昔は見ればわかった」「手にとって感じた」部分こそが、デザインという概念の根源であることを再認識したいものです。

“作る人・使う人・直す人”すべてへの想像力を持つ

設計者や購買担当だけでなく、現場作業者、メンテナンス担当、さらにはリサイクルや廃棄処理をする人まで、モノづくりの“プレイヤー全員”の視点に寄り添うのがデザイン力です。
「納期に間に合えばよい、予算内で終わればよい」という狭いゴール設定をせず、運用現場にどんな困りごとが潜んでいるか、どんな情報が不足しているかを日々見直すことで、設計や部材調達の質も大きく変わります。

失敗から学ぶ~デザイン力強化のための実践策

1. “現物・現場・現実”を徹底的に見に行く

口で「現場重視」と言うのは簡単ですが、まずは実際に作業現場に足を運ぶことが最重要です。
初期設計の段階で作業者とじっくり話す、仮組みを一緒にやってみることで、思いもしなかった困りごとや工程上の“肝”が発見できます。
購買部門もぜひ「現物」を見て「現場」に入り込み、「現実(実態)」を正しく把握するよう心がけたいです。

2. 図面と現場、両輪でのフィードバック体制構築

設計図は完璧に見えても、使って初めて気づくことも多々あります。
ですので、レビュー会や仮組テストといったチェックポイントを設け、設計者、現場、品質、購買が同じ場所・時間でフィードバックし合う「場づくり」が非常に有効です。
部門ごとの縦割りを壊し、横断的な意見交換を仕組み化することが、組織に根差すとプロジェクトの失敗は激減します。

3. サプライヤー・外部リソースとの共創姿勢

すべてを自社内で完結させようとすると、どうしても“内向き”になりがちです。
特にサプライヤーには、その分野独自のノウハウや現場改善法が眠っている場合が多いので、図面や仕様だけ投げるのでなく、ぜひ現場同席での改善提案やワークショップを企画しましょう。

互いの現場課題を持ち寄り、デザインレビューを共創すると“バイヤー視点”“現場視点”“サプライヤー技術”が融合し、従来では想像できなかった新たな解決策やコストメリットが生まれます。

結論:デザイン力の重要性を正しく捉え直す

製造業においてデザイン力不足は、一見すると見逃されやすい“地味な問題”ですが、その影響はプロジェクト全体の成否や会社全体の競争力に直結します。
デザインとは「作りやすい」「使いやすい」「運用やメンテが楽」といった現場目線まで含めた“総合力”のことです。

コストや納期というハード指標だけでなく、現場の運用・維持・発展までを射程に入れたデザイン力があってこそ、製造業は永続的な成長が可能となります。
ぜひ今日から、「自分たちのデザイン力は本当に十分か?」「現場の声を反映した設計・調達・改善になっているか?」を見つめ直し、小さなチャレンジと対話を積み重ねていきましょう。

デザイン力の強化こそが、プロジェクトの成功・現場の満足・お客様への信頼へと繋がる最大のポイントです。

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