投稿日:2025年9月11日

女性活躍推進と製造業におけるSDGs目標5の実践事例

はじめに ~製造業とSDGs目標5の新しい関係~

製造業は、日本の経済と社会を支える基幹産業です。
しかし業界の現場ではいまだに「男社会」「アナログ体質」といった課題が色濃く残っています。
そんな中、持続可能な開発目標(SDGs)が企業活動の中核に据えられる時代。
とくに「ジェンダー平等を実現しよう」と掲げるSDGs目標5の実現が、企業存続のカギを握る重要テーマとなっています。
本記事では、昭和の時代から続く製造業の現場に根強く残る「壁」と、そこを突破し「女性活躍推進」を本気で推進するための実践事例を、現場目線からご紹介します。

製造業におけるSDGs目標5の現状

なぜ「男社会」が長らく続いたのか

昭和から続く製造業の現場では、体力重視、長時間労働、年功序列という慣習が未だに根強く残っています。
これらは“男性前提”の仕組みであり、たとえば現場配属や夜勤、重い材料の搬送などを女性が担うのは厳しいという暗黙の雰囲気がまだあります。
また、多くの企業では意思決定層に女性が少ないため、現場の声が経営に届きにくいという問題も見受けられます。

人手不足とイノベーションの観点から

現在、製造業は未曾有の人手不足に直面しています。
人口減少や高齢化の影響で従業員の確保が急務となる中、「女性の力を活かす」ことは企業の生き残り戦略でもあります。
また柔軟な発想や多様な視点を持つ女性社員の活用は、現場のイノベーション促進にもつながる可能性を秘めています。

女性活躍推進 ― 成功する企業の共通点

1.経営トップのコミットメント

「数合わせ」や「イメージアップ」だけで終わることなく、本気で現場改革に取り組む企業には共通点があります。
それは「なぜ、女性活躍が必要なのか」「我が社の未来にどう貢献するのか」を経営トップが明言し続けているという点です。
トップのコミットメントが明確なほど、中間管理職や現場社員の意識も変わっていきます。

2.現場業務の“性差”再点検

たとえば「重いもの運びは男」「ラインの作業は夜勤で女性は不可」など思い込んでいる業務内容を一つひとつ洗い直しましょう。
最近では、アシストスーツや自動搬送装置の導入で、男女問わず働きやすい環境を整えるケースが増えています。
また、間接部門だけでなく「現場作業」そのものを女性が担えるよう業務の見直しと自動化を進めることが、真のジェンダー平等実現の近道です。

3.キャリアパス設計とロールモデルの登用

女性社員が長く安心して働き、成長していけるキャリアパスの設計は不可欠です。
産休・育休後の復職支援や、女性初の現場リーダー・管理職登用など、具体的なロールモデルの可視化も強い効果を発揮しています。
管理職を目指す女性が何を学び、どんな仕事に取り組んでいるのかを具体的に発信することも現場の後押しとなります。

事例紹介 ~実践企業の最新取り組み~

①多様な働き方を許容する「シフト改革」

ある自動車部品メーカーでは、昼夜2交代制だった現場に「時短勤務」「フレックスタイム」など複数の勤務形態を試験導入しました。
結果として子育て中の女性や介護を抱える男性など、幅広い従業員が現場に参加しやすくなり、欠員率が大きく下がったといいます。
また「日中のみ勤務」の女性パート社員も戦力として評価し、技能伝承にも大きく寄与しました。

②「現場づくり」を女性自ら推進

化学メーカーの工場では「女性だけの現場改善プロジェクト」を結成し、トイレや更衣室、作業動線、安全対策などについて女性視点の改善を実施しました。
現場の美観や安全性が向上しただけでなく、男性従業員からも「全員が働きやすくなる」好循環を生み出しています。

③製造工程の自動化と省力化

某電子部品工場では、手作業が中心だった組立ラインにロボットや自動搬送設備を積極導入。
元来男性中心だった力仕事を自動化することで、女性オペレーターも主力戦力として活躍できる環境を整えました。
人手不足への対応と多様な人材登用の両立に成功しています。

④女性リーダーの登用と意識醸成研修

大手電機メーカーでは「女性工場長」の誕生が社内外に大きなインパクトを与えました。
同時に男性社員も対象に「アンコンシャス・バイアストレーニング」(無意識の思い込みチェック)や、管理職研修の義務化を進めています。
驚くべきは、現場の数値(不良率・作業効率)向上が、女性リーダー登用時期と明確にリンクしていることです。
多様な視点・コミュニケーションの力が現場のパフォーマンスを引き上げている事例と言えるでしょう。

サプライチェーン全体で考える「女性活躍」

取引先選定基準に「女性活躍度」を組み込む動き

製造業メーカー本社では「仕入先のCSR調査」「サプライチェーン全体でSDGs」を掲げる動きが活発です。
いくつかの調達部門では、サプライヤー評価の際に「女性管理職比率」や「女性活躍推進体制」も調査ポイントに加えています。
これにより業界全体での変革が始まっています。

「お客様企業の要求」とどう向き合うか

バイヤー(調達担当者)は今後、価格や品質だけでなく「社会課題にどう対応しているか」を評価します。
サプライヤーの立場で考えると、自社のSDGsや女性活躍への取り組みをいかに可視化し、情報提供できるかが取引拡大のカギとなります。
社内の実態分析や事例紹介の資料化、環境報告書への反映など、攻めの姿勢が必要です。

現場改革のフロントランナーになるために

アンラーニング(思い込みの捨て方)が第一歩

「現場は男の世界」「管理職は男の仕事」などという固定概念を経営層から現場までアンラーニング(学び直し)すること。
ちょっとした言葉遣いや日々の行動から変革は始まります。

テクノロジー活用で性別問わない現場づくり

工場の自動化・デジタル化は女性活躍の最大の武器です。
単純作業・危険作業をロボットやIoT導入で省力化し、「ものづくり」の本質である創造力や細やかさ、多様なアイデアが発揮できる職場への転換を目指しましょう。

現場リーダー育成とリアルな目標設定

女性の活躍推進は「一気に管理職登用」などの表面的な数字だけでは続きません。
リーダー層をじっくり育て、ロールモデルを確実に増やしていくことが重要です。
離職率や育児両立者数、現場の声(サーベイ)なども定量的・定性的に目標設定し、現場と一体で取り組む形を作りましょう。

まとめ ~新時代のものづくりは多様性の力から~

製造業におけるSDGs目標5(ジェンダー平等)の推進は、単なる「義務」や「イメージ戦略」ではありません。
現場のイノベーションを起こし、競争力を高め、未来の工場(Factory of the Future)へと進化するための“生存戦略”です。
女性が力強く活躍する現場こそが、多様な価値観と創造力であらゆる社会課題を乗り越えていく原動力になるでしょう。

バイヤーを目指す方は、買う側として新しい評価軸を持つこと。
サプライヤーの立場の方は、その軸にどう応え、自社の武器にできるかを考えること。
現場の一人ひとりが「自分ごと」でジェンダー平等を考え、変化に加わることが、次の時代のものづくりを強く支えていくのです。

これからの製造業は“昭和”から進化し続ける現場から、世界の潮流をリードする“令和のものづくり”へ、歩みを止めず挑戦を続けましょう。

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