投稿日:2025年12月21日

試作評価が量産に直結しない難しさ

製造業における「試作評価が量産に直結しない難しさ」とは

製造業の現場に長く携わっていると、何百回繰り返しても解けない永遠の課題に出くわします。
その一つが「試作評価がそのまま量産に直結しない」という難題です。
20年以上現場で試作~量産立上げを繰り返し経験した筆者が、現場目線でその本質と現代製造業における問題点、今後求められる対策までを深堀りし、読者の皆さまの実務やキャリアに役立つ情報を発信します。

試作評価とは何か?基本から再確認

試作評価とは、新製品や新部材の品質・生産性・安全性などを量産前に検証するプロセスです。
設計図だけでは表現しきれない現実の挙動や、使い勝手を把握するために、現場のスタッフや技術者が試作品を作成し、各種評価試験を実施します。

試作段階では、一般的に次のような観点で「評価」が行われます。

1. 品質評価

製品が設計仕様を満たしているか、耐久性や安全性に問題がないかなどを確認します。
材料試験、動作試験、耐久試験、外観検査など多様な検査方法が使われます。

2. 生産性・作業性評価

試作製品が、現場の製造ラインで量産できるかどうかを確認します。
作業手順、加工のしやすさ、組み立て工数、治工具の適合性などを実際の作業員が確認します。

3. コスト評価

実際に量産した場合に、原価目標が達成できるかどうかを試作品を用いて試算します。

4. サプライチェーン評価

部品や素材の調達が安定してできるか、納期やリードタイムなどの面からリスクがないかを評価します。

これらの評価を基に、量産移行の可否や対策が決定されます。

なぜ「試作評価が量産に直結しない」のか?

現場で何度も「試作ではうまくいったのに、量産したらトラブルが!」という声を聞きます。
その原因は、技術や設備の違いだけではありません。
以下に要因を分類して説明します。

1. 試作工程と量産工程のギャップ

多くの現場では試作工程と量産工程で設備や作業順序、または現場作業者自体が異なります。
例えば、試作ではベテラン作業者が手作業で一台ずつ慎重に組み立てますが、量産ではパートや新人が省人化ラインで流れ作業を行います。
このため、試作で問題なくても量産で不良が急増することが少なくありません。

2. 少量・多品種の特殊対応

試作時には、一品ごとに最適な材料や工程を選択できたり、特殊な治工具を使うことが許される場合があります。
一方、量産ではリードタイム・コスト・サプライヤーの生産能力などの制約条件が一気に現実化します。
このギャップが設計意図の実現を阻害します。

3. 試作サンプルの材料特性と量産材の違い

試作段階では、市販品や短納期で調達できる特注材を利用することがありますが、量産では安定調達可能な量産材に切り替わります。
その切り替え時に材質差や規格外れが発生し、思わぬ不良やコスト増加を招きます。

4. 作業標準化の甘さ・現場教育の未熟さ

試作現場では、現場リーダーや開発者自身の“暗黙知”でカバーしている工程も多いです。
逆に量産立ち上げ時には複数作業者が関わるため、作業標準や教育が未徹底だと、「わかっていたつもり」が形骸化し、不良多発、品質トラブルにつながります。

5. 昭和アナログ文化の残滓

多くの日本の製造業現場は“昭和”の考え方や文化が根深く残っています。
「ベテランの勘と経験」が試作では通用しますが、量産ではルールやデジタル化された標準、データに基づく運用が必須です。
このギャップが問題を見逃す温床にもなります。

業界の現状と新たな地平線

デジタル変革(DX)が叫ばれる現代においても、製造業では「昭和のアナログ文化」「段取り八分」「量産化は現場まかせ」といった空気が根強く残っています。
ここに新たな『ラテラルシンキング』を持ち込み、産業構造改革を進めることが不可欠です。

1. 試作と量産“同時並行”型開発の必要性

欧米や成長著しいアジアメーカーでは、設計と生産技術、品質管理、調達部門が一体となった「コンカレントエンジニアリング」が浸透しつつあります。
試作段階から量産環境を共同で検討し、リードタイム短縮とコスト削減、スムーズな量産移行が成功例としてあがっています。

2. デジタルシミュレーション活用の拡大

プレス成形や射出成形、組立工程などで3D-CAD・CAE・デジタルツイン技術を活用した事前シミュレーションが進展しています。
現物試作の“やり直しコスト”削減に大きく貢献していますが、まだまだ中小企業や部品メーカーでは普及途上です。

3. 職人技の“見える化”とナレッジ移転

ベテランの技能や勘どころを動画や作業手順書、AR/VRで可視化し、若手や海外拠点にナレッジ移転する動きも加速しています。
これにより「ベテラン頼み」から脱し、全社的な品質底上げが可能になります。

4. 調達・サプライヤーとの垣根を低くする

従来、設計・開発サイドと調達サイドは縦割りで情報共有が十分でない現場も多いですが、新規量産品の立ち上げには「調達が最前線」でサプライヤーと現場をつなぐ必要があります。
バイヤーには「開発意図」と「現場課題」の双方を深く理解し、サプライヤーにも“量産目線”を持ってもらうことが求められています。

新しい価値を生み出すには:現場力✕システム化✕コミュニケーション

試作評価と量産移行のズレを埋めるには、『現場のリアルな声』×『生産システムの最適化』×『設計~調達~サプライヤーまでのオープンな情報共有』が必要です。

現場スタッフへのヒアリングを重視

実際に工場ラインで働く作業員、現場リーダーとの対話を重ねることで、量産移行時のリスクを前もって炙り出します。
「どうせうまくいかない」「誰も指摘しなかった」問題こそ、早期対策が重要です。

クロスファンクショナルチームの組成

設計、生産技術、調達、物流、サプライヤー、品質管理の枠を超えた小集団活動(クロスファンクショナルチーム)が、トラブル発生時の早期PDCAや現場知見の共有を促します。

データドリブンな仕組みづくり

試作・量産それぞれの工程での作業時間・不良率・ユーザー評価等を蓄積し、デジタルで“見える化”。
トラブルが起きるたびに現場と一緒に検証し、根本原因をつきとめてナレッジ化。
これにより同じ失敗の再発を防止します。

まとめ:試作評価と量産の“乗り越えがたい壁”を越えるために

「試作評価がそのまま量産に直結しない」という難しさは、どの工場・どの現場でも共通の課題です。
アナログな現場で根付いた職人技や暗黙知を、システムやデジタル技術で“見える化”し、現場のリアルボイスを経営や設計現場に届ける。
そうすることで、量産への“乗り越えがたい壁”を突破し、サプライチェーン全体の底上げにもつなげられます。

バイヤーや技術者、サプライヤーのどの立場でも、「量産目線」「現場目線」「将来の価値創造目線」――この3つの視点を持ち続けることが、昭和アナログから抜け出し、日本のものづくりを持続的に成長させる新たな地平線を切り開くカギとなるでしょう。

日々チャレンジあるのみです。

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