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試作品が良くても量産で全く再現できない開発の深い溝

目次
はじめに:製造業現場が直面する「量産の壁」
製造業の現場に長年身を置いていると、試作品は完璧だったのに量産工程で全く同じ品質、パフォーマンスが再現できない――そんな厳しい現実に何度も直面します。
この「量産の壁」は、開発部門と製造部門の間のコミュニケーションだけでなく、技術的なノウハウやマインドセットにも根深く起因しています。
特に昭和の時代から続くアナログな体質が色濃く残る工場では、少量高品質であれば良いといった美学が、量産体制への変革を妨げている側面もあります。
この記事では、バイヤー、現場担当者、そしてサプライヤーまで含めた実践的な視点で、「なぜ試作の成功が量産での成功につながらないのか」を、具体的な問題と解決策を踏まえて深掘りし、皆さんの知識の一助にしたいと思います。
試作段階で見逃される”量産のリアル”
1. 試作と量産の決定的な違いとは
試作は、少数のエンジニアが高度な手作業や特別な管理下で進められます。
部品一点ごとに細心の注意を払い、場合によっては加工機の条件も都度最適化されます。
一方で、量産工程では複数ライン、複数工程、そして複数人が関与し、一貫したスループットで大量生産を実施します。
「標準化された作業」「限られた設備」「部品ばらつきへの対応力」など、全てを平均的にコントロールする必要があります。
この違いの中で、組立て精度やバラツキ管理、作業者の技量による影響が顕在化しやすくなります。
その現実に目を向けなければ、量産段階で思わぬトラブルに見舞われてしまいます。
2. 試作仕様と量産設備仕様のギャップ
試作では高価な加工機や専門性の高い作業員が動員されても、量産ではコストや人員配置が全く異なります。
手作業で容易にできた微調整が、量産設備では「不可能」だった――という事態がよく起こります。
また部品の調達も、試作はベストクオリティのものを厳選できても、量産では調達コストや安定供給面から妥協が入り、素材のバラツキも増えます。
これが組立精度や耐久性、歩留まりを大きく左右します。
このような現場の現実に、設計者や開発者がどこまで先回りして設計や工程に盛り込めるかは、量産成功の分水嶺になります。
3. コスト構造を無視した最適解の落とし穴
試作が最高スペックを目指しがちなのに対し、量産では「ローコストで安定供給」が絶対要件となります。
ここにバイヤー(調達担当)の視点が大きく介在します。
「これでいけるはず」とゴーサインを出したものが、実際現場での部品コストや作業工数、物流コストまで含めると、とても実現できないと判明することが少なくありません。
結果として、「あの部品を外注化して安いものにリプレース」「この工程は自動化不可」という現場都合の妥協が入ります。
これにより、設計意図が失われたり、初期品質から大きな乖離が生じたりします。
現場で頻発する量産失敗の実例
1. 組立精度と作業者依存の拡大
筆者が経験した事例ですが、ある電子機器の試作段階では、ベテラン技術者による熟練の調整でベストな製品ができあがりました。
しかし量産ラインでは複数シフト、多様な作業者が交代しながら組み立てます。
標準作業書だけではノウハウが伝わりきらず、NG品が続出しました。
結局ライン停止、マニュアル熟読、教育研修の強化……。
コストと時間が大きくロスしました。
2. 部品調達品のバラツキ問題
サプライヤーからの部品調達も、試作は”特選ロット”で運用されがちです。
量産では数千、数万単位で一斉調達されるため、ロットごとに品質差や微妙な寸法差が出ます。
特に海外生産品では、バイヤーのコスト重視が仇となり、スペックを下回る部品が混入するリスクが高まります。
ある自動車部品の新機種立ち上げ時には、それまでクリアしてきた精度が量産初日に崩壊。
投入ラインのたびに微調整し続ける羽目になりました。
3. 品質管理工程の盲点
試作品は全数徹底検査が可能ですし、異常はその場で即対応できます。
一方、量産ラインでは「流す」ことを優先し、全数検査など現実的に不可能な場面も多々あります。
そこで現場は抜き取り検査・統計的品質管理(SQC)に頼るわけですが、初回生産時はパターンが読み切れず、市場クレームとして現れるまで”隠れた不良”が把握されないリスクが残ります。
昭和から続くアナログ体質と現代の溝
1. 職人文化が生み出す過度な属人化
日本の製造業は「ものづくりは人づくり」という美学が強く、現場の微妙な調整や暗黙知が評価されがちです。
しかしこれは量産体制、グローバル分業時代においては明らかなデメリットになっています。
設備や標準作業に全てを落とし込む姿勢が弱く、”経験頼み”や”いつものやり方”がまかり通る現場は、再現性のない品質トラブル、属人化による教育コスト増大につながります。
2. デジタル化・自動化への過小評価
IoTやAI、MES(製造実行システム)など、DX化の波はようやく工場に押し寄せています。
それでも「結局は手作業が一番」「データ化しても現場は変わらない」という根強い保守的文化が足を引っ張っています。
しかし、量産現場のあらゆるデータ(生産量、異常率、作業員の動きなど)を可視化し分析・改善できなければ、不良率や品質変動をコントロールすることは決してできません。
未来の工場は、数値化・標準化・自動化による”スケールできる品質、効率”がなければ、世界の競争に太刀打ちできないのです。
3. サプライチェーン全体で変革するという意識不足
調達、購買、製造、品質管理が個別最適で動いてしまうと、まとまった「ものづくり力」が機能不全になります。
特にサプライヤー(下請け)は「言われたものをそのまま納入する」以上のことはやりません。
一方、バイヤー(発注側)は「価格と納期だけで評価」しがちです。
これではイノベーションや共創は生まれません。
大手とサプライヤー、中小工場が一体となって開発段階から目線を合わせ、「どうしたら量産で再現性を持つか」「どんな新しい価値が出せるか」をディスカッションする姿勢が求められます。
現場目線で実践したい! 量産成功へのアプローチ
1. 開発段階から「量産目線」を投入する
設計者・開発エンジニアは、早い段階から製造・品質・調達・物流の現場を巻き込み、「現実解」を追求しましょう。
各工程での制約条件(作業者の技量差、設備制御の限界、部品ばらつき)を事前に反映した設計、工程設計が不可欠です。
たとえば”ミスを許容する設計”(ポカヨケ)、”工程能力指数(Cpk)”を実測し反映する、などの工夫が成否を分けます。
2. サプライヤーとの協働・共創を推進する
サプライヤーの現場ノウハウは宝の山です。
彼らの声を早期から開発~量産立ち上げのフェーズに取り込めば、「図面通り作ったのに組めない」「指定部品が特殊すぎて高コスト」という落とし穴を防げます。
バイヤー(調達担当)は、コストや納期だけでなく、「現場の声を吸い上げられる」柔軟性・対話力も身につけると良いでしょう。
3. 職人技から標準化・デジタル化へ
職人の感覚やノウハウも、”標準作業書”や”動画マニュアル”として可視化し、誰もが再現できる形で残す工夫が重要です。
またIoTセンサーやデジタルツールを活用し、現場データを蓄積・活用すれば、工程安定化と改善のサイクルが回りやすくなります。
「昭和の勘と経験」を「令和の標準技術」へと昇華していく意識改革が、工場競争力のカギとなります。
まとめ:現場目線の「量産力」こそ未来の競争力
試作品段階で「良いものができた」ことと、「大量生産で安定してコスト競争・品質競争に耐えうる」ことはまったく別物です。
開発~設計~現場~調達~サプライヤー全体が、「量産再現性」「工程標準化」「コストバランス」「現場協働」という観点でシームレスに連携することが、21世紀の製造業の原動力です。
アナログな昭和体質の良さを活かしつつ、現場の知恵を”標準化・デジタル化”で共有し、量産工程での再現可能性=「量産力」を追求する――。
それが、世界に勝てる日本製造業を守り育てる真の道です。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーの思考を理解したい方、現場で理不尽に泣きたくなる方も、ぜひ今回の記事を現場変革の第一歩としてご活用ください。