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行政と企業が協力して実現する広域ものづくり連携による供給網強化

目次
はじめに
2020年代に入り、製造業の現場は過去に例を見ないほど急激な変化に直面しています。
特にサプライチェーン、いわゆる供給網の脆弱性が、コロナ禍や地政学的リスクの高まりによって一気に表面化しました。
いまや一企業の努力だけで供給網のリスクを回避・解決するのは困難な状況です。
こうした中で注目されているのが、「広域ものづくり連携」によるサプライチェーン強化です。
行政と企業、さらには教育・研究機関が一体となり、従来の垣根を超えた協力体制を構築しようという取り組みが全国で動き始めました。
本記事では製造業現場の経験と、長年バイヤーとして数々の調達施策に携わった目線、そして「昭和的なアナログ体質」がいまだ根強く残る中でも進めていくべき現実的な方法論について掘り下げていきます。
なぜ「広域ものづくり連携」が求められるのか
迫る供給網危機と国内回帰の流れ
近年、海外拠点への過度な依存がリスクとなり、サプライチェーン全体の強靭化が叫ばれるようになりました。
従来は「コスト最優先」でサプライヤーチェーンを構築してきた企業も、近年はBCP(事業継続計画)やレジリエンス強化へと舵を切り直す企業が増えています。
加えて、脱炭素やSDGsを背景にした地産地消型の生産・物流体制への要請、国内ものづくりの再評価の流れが確かに進んできました。
こうした動向の中で、個々の企業の力だけでなく、行政や地域産業とのネットワークを活かした「広域連携」の必要性が高まっています。
中小企業が抱える課題
中小企業は最新のデジタル技術や人材、設備投資の面で大手に比べ劣ります。
逆に、長年の現場で培った技術やノウハウ、きめ細かな対応力には大きな強みがあります。
広域連携によって、さまざまな企業が自社の強みを持ち寄り、ウィークポイントを補い合う“共助”の仕組み作りが不可欠です。
また、大手メーカーでは調達担当者やバイヤーがサプライヤー発掘や技術評価で奮闘していますが、地域間をまたいだ幅広い視野での「調達力」は今後さらに重視されていきます。
行政と企業の連携、何が求められるか
ハブとしての行政の役割
昭和から続く製造業界においては、「行政主導の連携」にはややアレルギー傾向も残っています。
しかし、近年は競争ではなく「共創」がキーワードとなりつつあります。
行政が地域の企業情報を集約し、企業に代わってマッチングや連携を後押しする。
あるいは、自治体独自の補助金、IoTや省エネ設備の導入支援、教育機関や商工会議所との横断的ネットワークづくりなど、行政だからこそ可能な役割がより明確となっています。
また、リーダー企業への聞き取りやサプライヤーとの意見交換の場づくりは、通常のバイヤー活動ではリーチできない情報源や人脈形成のきっかけとなります。
企業側に必要な“構え”
一方、企業側はどうでしょうか。
現場感覚では、依然として「外部に頼る=自社のノウハウを抜かれる」「横並びの連携は非効率」という意識も根強いのが実態です。
しかし、今や“囲い込み”から“オープン・イノベーション”の潮流は不可逆です。
行政や他社の専門性を積極的に活用し、自社だけでは実現できない品質向上やコスト低減、多品種少量生産への転換、技術継承への糸口を模索する「構え」が不可欠になってきています。
この点で、現役バイヤーや調達担当者は、単なる価格交渉や納期管理から一歩進み、社外との“つなぎ役”としての新たな役割を求められる時代となっています。
製造業現場から見た「広域連携」の実践事例
部品調達における産学官連携
例えば自動車部品メーカーでは、特定の材料・加工技術の国内サプライヤー探索に行き詰まった時、地場の大学研究室や県の産業支援センターへ声をかけ、大学教授と地元中小企業が共同で研究開発するプロジェクトが立ち上がりました。
行政は助成金の窓口や調整役に徹し、企業同士は“競争”ではなく“共闘”の意識で新しいサプライヤー網を再編。
結果として、従来の単純な価格競争に陥らず、技術水準や品質管理の面でも新たな相乗効果が得られました。
このような広域連携が機能した背景として、行政・地域金融機関・大学といった第三者の「ハブ」としての存在により、情報の非対称性や既存の“しがらみ”を乗り越えられたことが大きいです。
アナログな現場でのDX推進連携
昭和から続くアナログ業務の多い工場においても、最近は行政の支援のもとITやロボティクス経験者のマッチングや共同実証実験が活発化しています。
例えば生産管理システム導入やIoT化、省人化ラインの構築など、単独工場だけでは経費や人材面で困難なことでも、数社と合同でトライアルを行うケースも増えています。
こうした取り組みにより、現場スタッフのスキルアップや、調達部門の業務効率化にも波及効果が生まれています。
実際に筆者も、新システム導入時には地域の製造業ネットワークを通じてノウハウ交換を積極的に行い、「失敗談」や「現場で起きがちなトラブル」を事前に共有できたことで、導入のスムーズ化やコスト削減につなげることができました。
“失敗”の共有による成長促進
良い事例だけでなく、課題や失敗事例の共有が広域連携の大きな価値となります。
例えば「大手メーカーの難しい基準を想像で飲み込んだら追加コストが発生した」「地元行政に頼りすぎてスピード感が遅れた」など、実際の生の声を業界横断で集めていく。
このような情報共有こそが、調達バイヤーおよびサプライヤーの持続可能な関係性を築くカギです。
これからの調達・購買部門と広域連携
シナジー発揮のための「見える化」
広域でのものづくり連携を機能させる上で最も重要なのは、「情報の見える化」です。
どこの企業が何を得意とし、どんな技術・人材・設備を有しているのか。
調達先リストや技術データベースの構築、IoTによる工程・在庫情報のリアルタイム共有など、正確な情報基盤が求められます。
行政が旗を振るケースでは、共通プラットフォームやデジタルツールの導入支援が進められています。
これにより、バイヤーが「いつ・どこで・誰に相談すれば最適か」という“情報の迷路”から解放される効果が期待できます。
バイヤーが身につけるべき「越境力」
サプライヤー側の立場でも、調達バイヤーの意図やロジックを理解することが、自社の営業戦略や技術開発に差をつけるポイントになっています。
単に“安くて速い”だけでなく、“現場実態に即した情報収集力”や“多様な業種とのコミュニケーション能力”など、越境的スキルが求められています。
今後は、広域連携の中で情報発信・フィードバックを繰り返すバイヤーが、サプライヤーとの信頼性や交渉力を高めていくでしょう。
まとめ:昭和型の産業構造から未来型ものづくりへ
サプライチェーンの脆弱性が顕在化した現代において、行政と企業の横断的な連携による供給網強化は避けて通れないテーマです。
昭和的なアナログ現場や慣習が残る日本の製造業においても、それぞれの強みを活かした共助体制の模索こそが新しい価値創造に直結します。
今までの自前主義や単純な価格競争とは一線を画し、「新たな調達ネットワークの担い手」としてのバイヤー像、そして“つなぎ役”企業の活躍が求められる時代です。
行政、企業、現場担当者、バイヤー、それぞれが役割と意識をアップデートし、豊かな日本のものづくりを次世代に繋ぐために共に行動していくことが今まさに求められています。
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