紙ナプキンの柔らかさを出す抄紙繊維比率と乾燥テンション管理

はじめに ― 現場目線で語る「紙ナプキンの柔らかさ」へのこだわり

製造業に身を置いていると、「品質の違い」を肌で感じる瞬間があります。

とりわけ日用品の代表格ともいえる紙ナプキンは、使い心地や手ざわりの“柔らかさ”がユーザー満足度を大きく左右します。

けれど、その柔らかさ——実際にどんな工夫やデータでつくられているのか、調達・生産・品質管理・現場自動化を知る者だからこそ、現場本位で深掘りしてみましょう。

本記事では、紙ナプキンの柔らかさを決める「抄紙（しょうし）繊維比率」と「乾燥テンション管理」という、まさに現場の“肝”と言える２大要素について、業界動向や実践ノウハウを織り交ぜながら詳しく解説します。

バイヤーやサプライヤー、あるいはこれから製造業でステップアップしたい方の参考になる内容を意識しました。

紙ナプキンの柔らかさ、その正体を分解する

紙ナプキンの「柔らかさ」とは何でしょうか。

現場で働く方も、バイヤーも、受け取り側のサプライヤーも、一度は体感したことがあるはずです。

指でそっと触れ、口元に添えたときゴワゴワしたりパサパサしたりしていないか。

高級レストランのナプキンはなぜホテル並みにしっとり滑らかなのか。

その違いは、原材料である紙の「繊維比率」と、加工工程、特に「テンション制御＝張力制御」の技術で生まれます。

「なぜ柔らかく仕上げることが難しいのか」という業界のアナログ的課題も掘り下げながら、製造ノウハウを紐解きましょう。

抄紙繊維比率：柔らかさの基盤を作る素材選び

そもそも繊維比率とは？

紙を作る基本工程「抄紙（しょうし）」では、木材をパルプ状にした繊維、具体的には「長繊維」と「短繊維」が配合されます。

・長繊維：例えば針葉樹を原材料にしたクラフトパルプなど。繊維の長さが2～4mmでしなやか、引っ張り強度を出しやすい。
・短繊維：広葉樹やリサイクルパルプなど。繊維長は1mm前後で細かく、柔らかさや吸水性に寄与。

実は紙ナプキンの「柔らかさ」は、この繊維の配合比率でほぼ決まるといっても過言ではありません。

柔らかさ重視なら短繊維の比率を増やし、丈夫さが求められる場面（業務用や大判ナプキンなど）では長繊維比率を上げます。

顧客別・用途別で最適配合比率は異なる

例えば欧米市場向けの高級紙ナプキンは、高級ホテルやレストランで極上の手ざわりが欠かせません。

そのため短繊維70％以上、長繊維30％以下が業界スタンダード。

一方、フードコートやファストフードチェーン向けでは、やや長繊維を多め（50：50～60：40）にし「型崩れしにくさ」「コストパフォーマンス」を優先する傾向があります。

この「お客様ごとのオーダーメイド設計」が、紙ナプキン工場の購買調達戦略・サプライヤー選定に直結するわけです。

アナログ業界に蔓延する“伝承”レシピの壁

昭和時代から続く国内製紙メーカーでは、「配合比率は現場長や熟練工が手帳に残した秘密のブレンド比率が命」といった空気も根強く残っています。

この非デジタルな“勘と経験”アプローチは、昨今のグローバリゼーションと大量調達に対し、スピードや透明性で遅れを取る原因にもなっています。

データ蓄積とレシピの“見える化”により、バイヤー・サプライヤーの双方が「柔らかさ」と「コストとロット」のトレードオフを納得しやすくなりつつあります。

乾燥テンション管理：物理的に“柔らかさ”をコントロール

乾燥テンションとは？

“テンション”とは英語で張力や引っ張り力を意味します。

紙を抄きあげる工程では、原材料を水でスラリー状に攪拌し、ベルトやワイヤーに流して薄いシート状にします。

この状態ではまだ柔らかい「生紙」。

ここから“乾燥”工程に入り、シートに張力をかけながら水分を飛ばして巻き取ります。

このときの「乾燥テンション（張力）の加減」で、紙の柔らかさが確定するのです。

・テンションが強いと、繊維同士が強固にはりつき、しっかりした固さ（パサつき・バリバリ感）が生まれます。
・テンションが弱いと、繊維の隙間が保たれ、全体がふんわり柔らかく仕上がります。

要は「どこまでテンションを掛けるか」がオペレーターの腕の見せどころで、「柔らかさ」はここで最終決定されます。

乾燥テンションと歩留まり、品質安定化のジレンマ

・テンションを弱くすれば柔らかくなるが、シートが切れやすくなり生産ロスが増える。
・逆に張力を強めればシート切れトラブルは減るが、柔軟性は損なわれガサガサな紙になる。

この両立のジレンマをどう解消するかが、工場長級生産管理の最大テーマと言えます。

近年では、乾燥工程での“ウェブテンション自動制御装置”の導入や、「リアルタイム張力センシング→フィードバック制御」により、職人技に頼らず高品質をコンスタントに再現できる現場が増えてきています。

ただ、まだまだ「設備費用が高く、老舗工場では更新が進みにくい」「現場の抵抗も根強い」などの、昭和的アナログ文化とのせめぎ合いが続いているのが現状です。

サプライチェーンとバイヤー視点：「満足できる柔らかさ」を仕入れる難しさ

紙ナプキンの柔らかさを“買う”、すなわちバイヤーとして仕入れる立場になると、話はさらに複雑です。

紙ナプキンの品質基準は曖昧になりやすい

例えば「柔らかさ」は主観的な感覚に依存しやすく、カタログやスペック表で「柔らかさ40度」などと数値化されたものはありません。

現場でバイヤーが試供品を複数取り寄せ、
「この紙ナプキンはしっとりしている」
「いや少しパサつきがある気がする」
といった感覚的な判断が購買意思決定プロセスで意外と重要になってきます。

数値化への取り組みとバイヤーの選択基準

とはいえ、調達側の現場担当者としては「安定した品質」を継続調達したい意向が強いはずです。

昨今では“柔らかさ”もある程度定量化が進み始めています。

・ガーレテスター値（紙の柔軟性や曲げ抵抗力を数値化）
・スムーズネステスト（表面のなめらかさを客観評価）

こうした物性値を積極的に提示・開示するサプライヤーが強みを発揮できる時代になってきました。

バイヤーがサプライヤーに求める「対応力」

納期遵守や価格競争力はもちろんですが、特に「柔らかさ調整可能です」「ロット間のバラ付きが少ないです」とアピールできるかが、大口調達案件を勝ち取る鍵になります。

サプライヤー側も、バイヤーの“こだわり”や品質要求水準を具体的根拠とともに引き出し、原材料レシピやテンション制御プロセスをいかにカスタマイズして提案できるかが勝負です。

現場での課題と最新動向 ― 昭和から進化する製造業の現況

“アナログ主義”がネックになりやすい分野

抄紙繊維比率や乾燥テンションといった工程は、現場の熟練オペレーター頼みになりがち。

「前任者から口頭で伝わった比率を感覚で守り続けている」「自動装置を入れても結局手調整」といったアナログ体質が、生産効率・品質安定化・情報連携の阻害要因になり続けています。

現場×IT＝見える化・効率化の波が到来

最近では、IoTセンサーやビッグデータ解析を活用し、
・混抄時の繊維比率をリアルタイム表示する可視化装置
・乾燥テンション制御の自動記録＆自動学習装置
など、昭和の“暗黙知”を“形式知”へと変換する動きが加速しつつあります。

これにより、
・原材料サプライヤー→紙ナプキン工場→バイヤーの一気通貫した情報共有
・ロットごとの差異、異常値の早期発見
・コストダウンと品質ブレ最小化
が実現できる時代が、今まさにやってきています。

まとめ ― 製造業現場の知見を未来へ活かす

紙ナプキンの柔らかさは、単なる「触感」の話ではありません。

そこには、
・原材料調達の品種や配合（抄紙繊維比率）
・生産工程での現場管理（乾燥テンション）
・現場のノウハウとITデータ連携
・個々のニーズを探るバイヤー・サプライヤー間のコミュニケーション
といった製造業ならではの奥深い世界が広がっています。

今後は、現場のプロが“経験とカン”で培った知見をデータで“見える化”し、サプライチェーン全体で共有する時代です。

アナログ業界に根付く伝統を活かしつつ、新たな設備投資やデータ活用にも積極的に取り組むことで、ワンランク上の“柔らかさ”を持った商品を生み出せます。

製造業のリアルな現場感を共有しつつ、あなたの現場や調達活動の一助となることを願っています。