投稿日:2025年10月14日

紙皿の耐油性を高めるパルプ選定とラミネート温度制御

はじめに:製造現場から見る紙皿の進化と課題

近年、環境配慮や脱プラスチックの流れを受け、紙皿などのパルプ製品への需要が急速に高まっています。
とくに外食産業やコンビニ、イベント業界などで利用される紙皿は、従来のプラスチック製容器からの置き換えが進んでいます。
しかし、現場にいるとよく耳にするのが、「紙皿は油ものに弱い」「すぐにふやけて使い物にならない」といった声です。
耐油性に優れた紙皿を実現するためには、単に素材や表面コートを工夫するだけでなく、パルプそのものの選定、ラミネートの方法や温度制御といった現場レベルの技術的知見が不可欠です。
本記事では、20年以上にわたる製造現場での経験と、最新の業界動向を紐解きながら、紙皿の耐油性を高めるためのパルプ選定とラミネート温度制御のポイントについて解説します。

紙皿に求められる耐油性とは何か

紙皿の「耐油性」とは、油分を含む食品を載せても、油が紙に染み込まず、形状や強度を保つ性能を指します。
消費者からは「油が染みて裏側までベトベトになる」「皿がふやけて手が汚れる」といった不満が数多く寄せられています。
業務用マーケットでは、天ぷらやカレーなど油分・水分の多い食品を扱う比率が高いため、実はこの「耐油性」は製品選定の決定打になることも珍しくありません。
ここで重要になるのが、表面加工や特殊コートといった「後付け技術」だけではなく、そもそも油や水分が浸透しにくいパルプ選定の知見と、隙間なくラミネートを密着させるプロセス技術です。
また、近年はPFAS(有機フッ素化合物)など健康や環境への影響が懸念される耐油剤規制も進み、原材料・加工方法選びが厳格になっています。

紙皿製造におけるパルプ選定の役割と重要性

パルプの種類と特性

紙皿に用いられるパルプには大きく分けて「バージンパルプ」と「リサイクルパルプ(古紙)」の2種類があります。
それぞれ以下のような特徴があります。

・バージンパルプ
 強度が高く、繊維が長いため成形性が良い
 油や水分に対するバリア性も比較的優れる
・リサイクルパルプ
 環境面での評価が高い
 繊維が短く、油や水分がしみやすい傾向
バージンパルプの使用比率が高いほど、耐油性・耐水性は向上しますが、コストや森林資源への配慮の観点から、100%バージンサプルの採用は難しくなっています。
ここで重要なのが「繊維選定」と「配合技術」です。

パルプ繊維の太さ・長さ・分布によるバリア性の違い

紙皿の原紙は、繊維が絡み合い網目状になって構造的な強さとバリア性を持ちます。
油分や水分を侵入させにくい構造を作るには、繊維の長さ・太さのバランス、そして繊維同士の結合度合いが大きな影響を与えます。

・長くて太い繊維(主に針葉樹由来)は、構造強度や耐油性を高める
・短くて細い繊維(広葉樹や古紙由来)は、なめらかさや成形性を向上
一般には針葉樹系のバージンパルプ比率が高いと、繊維同士の密な絡み合いが生まれ、油の浸透が防ぎやすくなります。
現場ではコストや環境要求と、性能要求の「ちょうどいい配合」を探るために、数%単位でパルプ配合比率のテストが繰り返されています。

紙皿用途に最適なパルプ配合のヒント

実際の紙皿製造現場では、
「フライ・惣菜向けには針葉樹バージン比率高め」
「サラダ・スイーツ向けには短繊維配合で表面なめらかさ重視」
など、用途や要望に合わせて最適配合を組んでいます。
特に耐油性を重視する場合、バージンパルプ60%以上(可能なら80%前後)+古紙繊維という組み合わせが、現場経験上もっとも安定感があります。
もちろん、配合を増やすほどコストは上がりますが、「溶けてしまう紙皿」によるクレームや追加コート費用よりは、トータルで安価になる場合もあります。

ラミネート加工の役割と製造過程

紙皿の耐油性向上に不可欠なラミネート層

パルプ成形皿だけでは、どんなに高配合なバージンパルプであっても、油分が長時間接触すればじわじわと染みていくリスクがあります。
そこで不可欠なのが「ラミネート加工」です。
ラミネートとは、紙皿の表面にポリエチレンやPLA(生分解性プラ)などの樹脂を薄く塗布・圧着して油・水の浸透を物理的に防ぐものです。

一般的な工程は、
1. パルプ成形
2. 表面への樹脂フィルム供給
3. 熱圧着(ホットラミネート)
という流れです。
近年では、PLAなど環境対応型素材を使ったラミネートの要望も高まっています。

ラミネート温度制御の現場的ポイント

紙皿のラミネート製造では、「温度・圧力・速度の安定管理」が品質を大きく左右します。
昭和から続く古い工場では「熟練現場係の勘と経験」に頼りがちですが、ここにこそデジタル時代の改善余地があります。

具体的には、下記のような現場的課題が生じます。

・温度が高すぎる場合:パルプが熱劣化して変色・折れやすくなる。ラミネート層が薄くベタつきやすい。
・温度が低すぎる場合:樹脂が充分に溶融せず、パルプ表面と密着せずに「ピンホール」やラミ割れが発生しやすい。
・圧力が低い場合:ラミネートがはがれやすくなる。特に端部剝がれ、耐油性ダウン。
・圧力が高すぎる場合:紙粉の混入や樹脂の偏りなどで仕上がりムラ。

近年は温度センサーによるリアルタイム管理や、成形機・ラミネート機の自動制御システムも一般化してきています。
ですが、まだまだ古い設備のまま「人任せ」にしている工場も多く、ここが競争力の分かれ目です。

最新動向:アナログ業界からのデジタル転換

クラシカルな業界の課題と改善の余地

製紙・パルプ業界は長年の経験重視、アナログ作業が色濃く残る分野のひとつです。
「先輩がこうやっていたから」「感触的にこの温度がベスト」という属人的管理に頼りがちでした。
しかし、市場ニーズの多様化や品質トレーサビリティ強化、環境規制強化など、今や「見える化」「データ化」が必須となっています。

たとえば、
・ラミネート温度・圧力・速度をすべて自動記録
・不良箇所は画像判別&アラート自動発報
・パルプ配合を生産ラインと連動して自動配合・履歴管理
などのIoT・DX化による現場力向上が進みつつあります。
加えて、各原材料のバッチ管理やサプライヤーとの情報共有もスムーズに行える体制が、これからの工場運営で大きな差別化ポイントとなります。

サプライヤー・バイヤー間で共有すべきこと

バイヤーの立場からは、
「コート層(ラミネート)は何℃で圧着しているのか」
「どのメーカーのどんな原材料をどんな比率で使っているか」
「生産時のライン品質管理はどうしているのか」など、
調達にあたって現場レベルのデータを入手することが、安定調達と品質確保のカギとなります。

反対にサプライヤー側としては、
「他社の規格パルプではうちの設備じゃこの品質は出せない」
「どこからどこまでが自工程の影響で、どこまでが原材料起因か」を明確に区分しておくことが、クレーム時のトラブルを最小限に抑え、信頼性向上へつながります。

まとめ:現場から生まれる付加価値を最大化するには

紙皿の耐油性向上は、「良いパルプを使ってラミネート強化すればOK」という単純な話ではありません。
パルプ選定ひとつとっても、予想以上に繊維特性とコスト・環境規制とのバランス調整が求められます。
さらに、ラミネート工程の温度・圧力コントロール、現場管理者やオペレーターの意識改革、そしてバイヤー・サプライヤーが現場レベルの「見える化」で信頼を築くことが不可欠となっています。

昭和のやり方から抜け出せず改善が停滞している現場もありますが、逆に現場発信の小さなカイゼンの積み重ねが、サステナブルかつ高スペックな紙皿を生み出しているのも事実です。
本記事が、製造業に携わる方々、バイヤーを目指す方やサプライヤーの方々が自分の現場を見直し、新たな取り組みに一歩踏み出すきっかけになることを願っています。

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