投稿日:2025年10月29日

地方ブランドが海外バイヤーに評価されるための品質表示と規格対応

地方ブランドが海外バイヤーに評価される時代の到来

かつて日本の製造業は「メイド・イン・ジャパン」というブランドそのものが世界的な信頼の証でした。
しかし、グローバル化が進むにつれ、製造拠点は海外にも広がり、今や地方発のブランドやローカルメーカーも国際舞台で評価されるチャンスが増えています。

特にアジアを中心とした海外バイヤーは、単なる価格競争ではなく、その土地ならではの技術力や丁寧な仕事、独自性に価値を感じてバイイングを行う傾向が年々高まっています。
しかし、地方ブランドがせっかく高い品質や魅力的な商品を持っていても、「品質表示」と「規格対応」の面でつまずいてしまい、チャンスを逃しているケースも多々見られます。
本記事では、現地の生産現場を知る目線から、そして長年バイヤーとの折衝をしてきた立場から、「地方ブランドが海外バイヤーに評価されるための品質表示と規格対応」について深掘りします。

地方ブランドの強みと弱みを再点検

地方ブランドの強み

地方ブランドが注目を浴びる理由は、やはりその土地ならではの「こだわり」や歴史、その地域で長年磨かれてきた製造ノウハウにあります。
例えば、繊維、食品、機械部品、伝統工芸品など、地方で生まれ育った商品には個性と品質が宿っています。

しかし、この“当たり前”の品質や価値観は、国内だけで通用する基準であり、海外市場では思わぬ所に“死角”が潜んでいます。

地方ブランドの弱み

弱みとして最も顕著なのが「国ごとに異なる品質表示や規格対応」への対応遅れです。
昭和のやり方、つまり「品質は信頼で伝わる」「取引先とは顔で通じ合う」といった文化が、今もアナログな業界ほど色濃く残ります。

海外取引では、現地で通用する規格や明記がなければ、そもそもスタートラインにも立てない場合が多いのです。
この「見えない壁」が、地方ブランドにとって一番の参入障害になっています。

品質表示は“エビデンス主義”の海外市場では必須

「品質表示」は購入判断の入り口

海外のバイヤーは、日本人以上に「エビデンス(証拠)」を重視します。
特に英語圏やヨーロッパでは、商品ラベルや仕様書、パッケージ表記に厳しい基準があります。
「なぜ、その表示なのか」「どの規格をクリアしているのか」「公的な試験データは?」など、事細かに聞かれるケースは日常茶飯事です。

たとえば食品分野では、原材料、原産地、アレルゲン表示、賞味期限、ロット管理番号、栄養成分表示。
機械系部品では材質、サイズ公差、強度、電気特性、原産国表示など。
これらは日本国内向けの「お客様向け仕様書」とはフォーマットも内容も異なり、場合によっては現地語での記載や、国際的な規格記号での表現が求められます。

“アナログ流”の表現は今や通用しない

昭和型の現場では「ラベルに○○製造」くらいで済ませてきた背景があります。
また、仕様書も「担当者が知ってるから」という属人化や、手書き、アナログデータが依然主流です。
しかし海外向けでは、「担当者しか知らない品質根拠」はゼロと見なされ、ラベルや仕様書が揃っていなければNG、輸出書類で止められてしまう…という事例も珍しくありません。

品質表示で重視したいポイント

・現地バイヤーが理解できる言語で正確に記載する
・現地規格や国際規格(ISO、IEC、欧州CE、米国FDA等)での記載要件を調査し、遵守する
・第三者機関の認証(JAS、ISO9001など)があれば明記し、証拠書類も用意
・ロット・トレース管理番号を必ず表記

これを怠ると、いくら品質が良くても、バイヤーの選考から外れるリスクがあります。

海外バイヤーが重視する「規格対応」とは

「規格」は信頼の共通言語

「規格」とは、世界中のサプライヤー・バイヤーが同じ土俵で比較できる「信頼の共通言語」です。
特に海外バイヤーが最も先に着目するのが、「どの規格に適合しているか」という事実です。

たとえば欧州進出ならCEマーク、REACH指令適合。
米国ならUL認証、FDA認証。
食品ならHACCP、FSSC22000など、現地の法律や業界慣習で必須とされる規格があります。

“規格対応”を怠った事例

私自身の経験でも、「国内で絶大な信頼を持つ地場メーカーの部品が、ISOのトレーサビリティ基準に合わず、欧州展開できなかった」という事例にいくつも立ち会いました。
また、「自社の検査成績書を信じてほしい」という情熱は伝わるものの、グローバル規格=共通基準が無ければ、バイヤーは選択肢に入れてくれません。

まずは「どの市場に出すか」で規格を明確に

やみくもに全方位規格に対応しようとせず、「まずはどの国・どのバイヤーに向けて出すのか」を明確にしましょう。
そのうえで、対象国の「必須規格」「任意規格」「参考規格」を整理し、ラベル、仕様書、カタログなど全てに一貫して反映させることが重要です。

この整理がなされていないと、せっかくの提案もバイヤー検討リストから落とされがちです。

効率的に品質表示・規格対応を実現するには

昭和流の属人&アナログから脱却せよ

調達購買、生産管理、品質管理の側面から見ると、「品質表示」「規格順守」はどうしても現場依存、担当者クラスタへの“丸投げ”になりがちです。
特に地方の中小企業・家族経営では、「物がよければ売れる」「取引先と信頼関係だから仕様書はマストではない」といったマインドセットが根強い。

しかし、これが最大の落とし穴です。
現代はバイヤーがリモートで数多くのサプライヤーを同時比較し、一目で規格適合&品質管理体制を見抜きます。
担当者一人の記憶や経験値で乗り切るのは、すでに限界を迎えています。

標準化・デジタル化で抜本改革

・規格対応や品質表示フォーマットを全社で統一し、誰でも同じ物が出せるようにする
・仕様書作成や管理、ロット管理もEXCEL→クラウド化・自動化を進め、「どんなバイヤーが見ても明確」な状態に
・国際規格に対応した勉強会・セミナーを定期的に開催し、知識のアップデートを図る

このような「抜本的なルール整備」と「現場の標準化・見える化」が、地方ブランドが大手・グローバル企業と対等に戦うために絶対不可欠です。

バイヤーの立場から見た“選ばれる”サプライヤー像

バイヤーは何を見ているのか?

私自身これまで350社以上の国内外バイヤーと商談経験がありますが、最後に勝負を分けるのは「いかに明瞭なエビデンスを示せるか」に尽きます。

・第三者認証の証書PDFを即座に提示
・現地語&英語で完璧に記載された品質表示ラベル
・現地輸入で必要な輸出書類がワンセットですぐ出せる体制
・規格番号・適合証明が「見た瞬間に分かる」レベルで整理されている

これらが揃っていれば、価格がやや高くても「安心感」「トラブル時の責任所在明確化」により必ずバイヤーの目に留まります。

サプライヤーの立場でできる具体策

・海外向け規格の最新トレンドを常に収集(JETRO、各国商工会など活用)
・「表示サンプル」を現地語で複数パターン用意
・顧客ごとにカスタマイズできる仕様書テンプレートを用意
・自社HPやカタログ、プレゼン資料も品質表示・規格部分を拡充し、一元管理

これを愚直に続けることで、「よく分からない地方の会社」から「グローバル要件を満たした信頼できるサプライヤー」へとバイヤーの評価軸が変化していきます。

地方ブランドならではの“物語”も品質のうち

品質表示や規格だけに“記号的”になりすぎない

ここまで「エビデンスと規格による信頼構築」の重要性を述べましたが、地方ブランドならではの“物語”や“誇り”も、海外バイヤーには大きく評価されます。

たとえば、
・「100年続く地元伝統製法の証明書」
・「地場素材ならではのトレーサビリティ・ストーリー」
・「全従業員が技能資格を保持していることの証明」

これらは単なる数値や記号では語れないブランド価値を伝える武器になります。
バイヤー目線で言えば、こうした“現地ブランドの誇り”は「他社との差別化」として必ず響きます。
高品質&規格適合は「最低ライン」ですが、その上で差をつけるのは「ストーリー」や「フィロソフィ」なのです。

まとめ:地方ブランドが海外進出で成功するための実践ポイント

1. 「当たり前品質」「地場の信頼」だけでなく、現地規格・品質表示をグローバル基準に合わせて整備する
2. 現地語の表示、第三者認証、トレーサビリティなど、エビデンス重視の“攻め”の体制を作る
3. 組織として標準化・デジタル化を進め、「誰でも」「どこに出しても」通る書類・ラベル管理を徹底
4. 町工場や地方企業の“物語”も、品質や規格とセットで積極的に発信・資料化する
5. バイヤー目線で、「これなら安心」と思わせられる規格対応力と情報発信力を持つ

製造現場から世界を目指す皆様には、昭和の成功体験にとどまらず、今この瞬間から一歩“世界標準”へ踏み出すことの大切さをお伝えしたいです。
グローバルなバイヤーと堂々と対峙できる地方ブランドを、ともに目指していきましょう。

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