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不良率を下げても返品が減らない“品質のパラドックス”

目次
不良率を下げても返品が減らない“品質のパラドックス”とは
製造現場の多くで「不良率低減」は必須の目標となっています。
不良品の削減はムダの排除とコストダウンの要であり、企業競争力を支える重要なKPIです。
しかし現場経験者なら一度は違和感を覚えるはずです。
「不良率は確実に下がったはずなのに、なぜか返品やクレームが減らない……」。
この現象は、品質管理の現場でしばしば議論される“品質のパラドックス”とも呼ばれる問題です。
本記事では、不良率低減と返品数減少が直結しない理由を、現場目線で徹底的に紐解きます。
また、サプライヤーやバイヤー双方の思惑が交錯する背景についても解説します。
現場が直面する品質改善の落とし穴
見えている不良と見えていない不良のギャップ
多くの工場では、工程内で厳しい全数検査や抜き取り検査を繰り返し、不良品を「工場出荷前」に発見・除去しようと努力しています。
しかし、この“見えている不良”はあくまでも自工程内で把握できている範囲だけです。
一方で、現場では発見できない微細な異常や、長期間の使用で顕在化する“見えていない不良”が必ず存在しています。
さらに、現場でのQC工程表やFMEA(故障モード・影響解析)などでは、あくまで「理想的な工程」を前提にリスク管理をします。
現実には作業者のスキル差や設備の経年劣化、資材ロットの個体差など、多数の「管理不能要因」が影響を及ぼしています。
つまり、不良率低減という数字的達成が、現場に眠る“未知のリスク”まではカバーしきれていないのです。
顧客の“体感品質”と工場の“合格品質”のズレ
工場では検査基準を明確化し、「合格・不合格」の判定を行います。
ところが、実際の顧客(バイヤーやエンドユーザー)が期待する品質は、しばしばこれとズレています。
例えば見た目の微細なキズや色味、操作感の微妙な違いなど、いわゆる「体感品質」は規格では測れません。
近年はSNSやECレビューを通じ、顧客の感性クレームが一気に可視化され拡散します。
結果として“工場基準の合格品”であっても、現場の予想を超えた返品やクレーム発生に繋がるケースが後を絶ちません。
進化するクレーム、進化しない現場の意識
昭和から続くアナログ的な意識の壁
多くの現場では「検査が厳しいほどいい」「厳密な基準でライン内不良を叩けば良品率が上がる」と信じられてきました。
しかし取引規模の拡大やグローバル化によって、各社ごとの品質要求が多様化し、従来の一律管理が限界に達しています。
昭和的な現場では、「出荷判定=品質保証」と捉え、出荷後の顧客体験にまで強い関心を持てていないことが多いのが実情です。
工場・現場の責任範囲、調達部門の責任範囲、営業の責任範囲がバラバラになり、“品質のパラドックス”が常態化します。
クレーム管理システムの進化が見せる「新しい不良」
近年はバイヤーがサプライヤーに対して独自の品質モニタリングシステムを導入したり、VAVE(価値分析・価値工学)要望が増えるなど、従来にない視点のクレームフィードバックが常態化しています。
その結果、「お客様の声」に起因する返品・クレーム数が新たな“不良”として認識され始めました。
例を挙げると
– 洗剤やコーティングなど“匂い”に対するクレーム
– 電子部品の“レスポンス速度”や“発熱”など使用環境起因のクレーム
– パッケージデザイン変更に伴う「偽物」の疑い
など一部は従来のチェック体制では把握しきれない項目です。
バイヤー視点、サプライヤー視点に潜む「認識のズレ」
バイヤーが重視する「リスクコスト」
バイヤー(購買責任者)は、単なる価格や納期だけでなく調達リスク(潜在的な品質問題やサプライヤー対応力)を常に意識しています。
品質関連のトラブルは、直接コストとしての返品・修理・交換だけでなく、「市場の信頼失墜」「ライン停止」「追加作業コスト」「在庫リスク」など“見えないコスト”を拡大させるためです。
そのためバイヤーから見れば、不良率が1/10000になっても、クレームがゼロにならない限り“リスク”が消えたことにはなりません。
サプライヤー側の“やりきった感”が危険
一方、サプライヤー(供給者側)は工程内の改善や不良率削減に大きな工数を投入しがちです。
「これだけ手間をかけ不良率も下がっているのに、なぜクレームが…」と思いがちですが、それはあくまで“工程内充足”にすぎません。
肝心なのは「お客様がどう評価しているか」です。
バイヤーとサプライヤーの間には「品質情報の透明性」「クレーム分類の考え方」「しきい値設定」など、さまざまな認識のズレが潜んでいます。
パラドックス解消のために現場ができること
工程管理から顧客品質管理への脱却
製造現場が明確な「ゴール」として意識すべきは、単なるライン内合格品数ではありません。
・納品後の使用環境を踏まえた「顧客満足度」
・実利用時のパフォーマンスや利用感など「市場でのリアルな評価」
こそが品質管理の真の基準となります。
具体策として
– エンドユーザーの実際の使い方を現場で再現し、フィードバックを得る
– 顧客からのクレームや返品情報を現場に“そのまま”還元する仕組みを作る
– 品質情報をバイヤー、サプライヤー間で共通化・オープン化する
こうした取り組みが重要です。
現場・バイヤー・サプライヤー三者の対話と協働
品質のパラドックスは、現場力だけでは突破できません。
サプライヤーから見た「工場起点の品質」と、バイヤーが求める「市場起点の品質」。
さらに営業部門・開発部門の「設計起点の品質」といった三つ巴を、オープンな情報共有と対話で「ガラス張り」にしていくことが不可欠です。
近年は「共創型品質保証」というプロジェクトも多く、現場がバイヤー担当者や設計・開発と合同カイゼン会議を実施する企業も増えています。
まとめ:品質の“数値”に潜む現場の本当の課題
不良率という「見える指標」の改善だけで満足する時代は終わりました。
いま必要なのは、現場が「顧客接点」まで視野を拡げ、見えていなかった“隠れた返品原因”を探し出すラテラルシンキング的発想です。
・工程内合格品=市場合格品、という思い込みを捨てる
・数値管理から体感・感性品質への対応を強化する
・サプライヤー、バイヤー、現場の三者が品質課題を共有し合うオープンドアの仕組みを創出する
これらの実践が、“品質のパラドックス”を突破し、製造業の新たな地平線を切り拓くカギとなるのです。
いま“現場”を未来へ進化させる時です。
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