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稼働率×歩留まり×タクトの式で単価改善余地を定量化

目次
はじめに―製造業の原価改善は永遠のテーマ
製造業に従事する方にとって、「原価低減」「効率化」「生産性向上」は常に追い続けるべき課題です。
製品単価の改善、すなわちコストダウンの実現は、各社の競争力そのものであり、時代や業界を問わず普遍的なテーマといえます。
しかし、現場で実際にどこから手をつけるか、改善の優先順位をどう決めるか、定量的に見える化できている現場は意外と多くありません。
本記事では、現場目線で「稼働率」「歩留まり」「タクト(サイクルタイム)」という3つの指標を掛け合わせた『単価改善余地』の定量化手法について、昭和から続くアナログ的な現場にもフィットするアプローチを解説します。
バイヤーを目指す方や、サプライヤー側からバイヤーの視点を知りたい方にも役立つ内容です。
なぜ単価改善が見えないのか―属人的ノウハウと曖昧な指標
多くの製造現場では、日々改善活動や、コストダウン会議が繰り返されています。
しかし進捗や成果が数字として明確に示されず、現場担当者の感覚や勘頼みになりがちです。
「もっと効率を上げろ」と言われても、どこから手をつければよいか分からない。
また、バイヤーから「1割下げてくれ」と一方的な値下げ要求に困る場面も多いのではないでしょうか。
その背景には、「どの要素が、どれくらい単価や原価に効いているか」を論理的・定量的に把握できていない構造問題があります。
現場改善活動や調達価格交渉も、定量的な根拠が伴ってこそ納得感や説得力が生まれます。
単価の仕組みを分解しよう―本質は生産性の掛け算にある
製品単価は原材料費や直接人件費、共通経費などさまざまな項目から構成されますが、現場レベルで改善できる最大のポイントは「生産性」です。
ここで、生産性向上の三大要素として「稼働率」「歩留まり」「タクト(サイクルタイム)」を取り上げます。
実際の製造ラインを想像してみてください。
例えば、あなたの工場で1日に出荷できる完成品数が100個だとします。
この100個は、どうやって算出された数字なのでしょうか。
多くの場合――
・想定稼働時間と実際の運転時間(稼働率)
・不良率や仕損じによる減少(歩留まり)
・1個あたりに要する実働時間(タクトタイム)
これら3つのファクターで“でき高”が決まってしまいます。
そして、でき高が大きい=分母が増えれば、同じコストでも1個あたり単価は下がっていきます。
言い換えれば、「稼働率」「歩留まり」「タクト」を改善すれば、自社コストも納入単価も大きく下げることができるのです。
稼働率×歩留まり×タクトの具体的計算方法
単価改善余地を見える化するには、まず現状の生産能力を「稼働率×歩留まり×タクト」で定量的に評価します。
例えば、下記のような指標で考えます。
1. 稼働率
→ 【実際に機械が動いていた時間 ÷ 設備が稼働できるはずの標準稼働時間】
– 設備点検や段取り替え、材料待ちなどによるロスが減れば稼働率UP。
– 例:シフト8時間で設備稼働6.5時間なら稼働率81.2%。
2. 歩留まり(良品率)
→ 【出荷できる良品数 ÷ 投入した材料や部品の総数】
– 機械不調や作業ミスで不良が出れば歩留まりDOWN。
– 例:100個加工して95個良品なら歩留まり95%。
3. タクト(サイクルタイム)
→ 【1個の製品を造るのにかかる標準的な時間】
– 機械の動作や作業手順の無駄を省けば短縮可能。
– 例:1個あたり60秒→50秒、無駄を見直し改善できれば1日生産量もUP。
現状と理想値(=理論上の最大能力や業界標準など)を算出し、単価改善余地を計算します。
例:単価改善シミュレーション
– 標準稼働時間:8時間(480分=28,800秒)
– タクトタイム:60秒/個
– 稼働率:80%(6.4時間=384分=23,040秒)
– 歩留まり:95%
– 実現可能生産数:23,040秒 ÷ 60秒 × 0.95=365.6個
ここで稼働率を85%、歩留まり98%、タクトタイムを55秒に改善できれば、
– 稼働時間:8時間×0.85=6.8時間=24,480秒
– 実現可能生産数:24,480 ÷ 55 × 0.98=436.6個
実際は差引:436.6-365.6=71個
→1日の生産余地は約20%UP。
同じ固定費で20%多く作れるので、単価は大幅改善可能!と論理的に示せます。
単価改善余地の見える化のメリット―交渉・現場マネジメントで大活躍
単に「がんばります!」ではなく、こうした数値評価を使うことで現場改善や調達先との交渉・プレゼンが格段に説得力を増します。
バイヤーとしては、
「なぜ単価が高いのか?その内訳は?どこに余地があるのか?」
を的確に可視化して示すことができます。
一方、サプライヤーとしては、
「これだけムダが減ったので、これだけ単価改善ができます」
「今後は○○%の余地がありますが、ここから先は追加投資や技術革新が必要です」
と交渉材料にもなります。
さらに現場管理としては、
「あと稼働率を10%上げたい、歩留まり99%を目指す、そのための課題は・・・」
というように改善活動のPDCAサイクルを効果的に回せます。
昭和的アナログ現場にもフィットさせる工夫
このような数値を定量的に示すアプローチは、デジタル化が進む大手企業だけでなく、いわゆる昭和的な中小アナログ工場にも十分に適用できます。
「うちにはITシステムがないから」「担当がExcel苦手だから」と敬遠せず、
– 手書き日報を一枚めくる
– ストップウォッチでタクトを実測する
– 小さなホワイトボードに稼働率・歩留まりを毎日記入
といったシンプルなやり方が、意外と肝心です。
現場が数字に強くなれば、従業員一人ひとりに改善意識が芽生え、マネジメント層の指示も具体的な言葉で現場に伝わるはずです。
まとめ:単価改善は「分かりやすく・見える化」が最短ルート
単価改善は製造現場・調達管理・経営層と、誰にとっても切っても切れない大テーマです。
どんなに華やかなIoTやDXを標榜しても、現場で何がどれだけ無駄になっているのか、それを「稼働率×歩留まり×タクト」というシンプルな指標に分解して丁寧に数字で示すこと。
ここに、古さを超えて現代にも通じる普遍的メソッドがあります。
経験や勘に頼りすぎず、できることから着実に数値化・見える化。
これこそ、アナログ業界から一歩抜け出すための第一歩であり、サプライチェーン全体の競争力を底上げします。
バイヤー志望の方は「現場の単価形成プロセス」に強くなれますし、サプライヤー側は「根拠あるコスト構造説明」で信頼を勝ち取れます。
ぜひ今日から、現場の稼働率・歩留まり・タクトに目を向け、単価改善余地を数字で語れるプロフェッショナルを目指してください。
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