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取引停止の判断基準を数値化し高リスク先の損失回避

目次
はじめに:製造業の調達現場が直面する「取引停止」の現実
製造業の現場では、サプライヤーとの取引管理は非常に重要な業務の一つです。
私自身も工場長や購買責任者として、数えきれないほどの取引先管理に携わってきました。
実際、「あのサプライヤー、ちょっと危ないんじゃないか?」と噂されていた会社が数ヶ月後に突如生産を停止し、納期遅延や品質クレームが頻発する…そんなケースも珍しくありません。
だからこそ、早い段階で“高リスク先”を察知し、取引停止や見直しの判断を下すことは、損失回避や企業の発展にとって極めて大切です。
ですが、「なんとなく不安だから付き合いをやめる」では正確な意思決定はできません。
数値化された判断基準が、現代の調達には不可欠です。
本記事では、昭和・平成から続くアナログな商習慣も踏まえつつ、サプライヤーの高リスクを数値で見える化し、損失回避を実践する具体的な方法を現場目線で解説します。
1.何をリスクとするか?取引停止基準の現代的再定義
従来の評価軸だけで本当に大丈夫か
「長い付き合いだから」「昔は大手の下請けだったから」「現社長は父親の代からよく知っている」…。
こんな理由が、いまだに購買判断に影響していませんか?
確かに人間関係や商慣習も大切です。
しかし、グローバルサプライチェーンにおいては、さらに踏み込んだ分析が必須です。
現場で「リスク」とは、主に次の5つで定義されます。
1. 財務リスク(資金繰りや債務超過)
2. 品質リスク(不良品の発生やクレームの頻度)
3. 納期リスク(遅延や安定供給への懸念)
4. コンプライアンスリスク(法令順守・安全管理)
5. 市場環境リスク(業界再編や競争力の低下)
旧来の「勘と経験」と「付き合いの親密さ」も目安にはなりますが、数値で比較しにくいのが致命的な弱点です。
明文化された、誰もが納得する基準が必要
購買部門の力量は、現場で誰が責任者になっても、同じレベルでリスク管理できる仕組み作りで決まります。
属人化した意思決定から脱却するために、「取引停止の判断基準」を明確にし、数値化(スコアリング)して運用することが求められます。
2.取引先リスク評価のための具体的な数値化手法
リスクスコアリングシステムの設計
リスクを数値で「見える化」するには、各要素に点数や重み付けを与えた「リスクスコア」を導入します。
【具体例:リスクスコアの一例】
| 評価項目 | 配点(一例) |
|:——————–|:————-|
| 財務指標(自己資本比率、借入依存度)| 30点 |
| 品質(重大な不良発生件数/3年) | 25点 |
| 納期(1年以内の納期遵守率) | 20点 |
| コンプライアンス・安全状況 | 15点 |
| 市場・外部環境(業績ニュース等) | 10点 |
合計で100点満点とし、合計スコアが60点未満になったサプライヤーは「要注意」。
50点未満のサプライヤーは「取引見直し」や「段階的なリプレイス検討対象」など、ランク分けして管理します。
財務情報の「掘り下げ」方
顧問税理士へのヒアリングや、帝国データやリスクチェックサービスを活用し、毎期ごとに主要サプライヤーの財務評価を「見える化」しましょう。
自己資本比率が10%未満、連続赤字が2年以上続く場合などは黄色信号です。
品質・納期データの“現場目線”点検
「過去3年間で重大な不良が何件あったか?」
「納期遅延が月何回発生したか?」
現場のクレーム情報も集約し、点数化していきます。
数の把握だけでなく“なぜその不良が発生したか”まで掘り下げると、再発防止策やサプライヤーへの成長支援の材料にもつながります。
コンプライアンスと安全を点数化する意味
重大事故や法令違反が発生した場合は、一発で減点となる評価基準を必ず盛り込みましょう。
「管理体制」「教育実施状況」「安全指標」など、監査シートに沿った採点で透明性を高めます。
業界動向・環境変化の取り込み
建設業や化学業界など、業界特有の再編や統廃合リスク、価格競争の激化などもスコアリングに反映させる必要があります。
ニュースモニタリングやサプライヤーへのヒアリングで、将来的な事業継続性も見極めます。
3.なぜ業界全体が今、「数値化」を求めるのか
昭和型調達のデメリット
根強いアナログ思考や、過度な人間関係重視による調達商慣習は、変化の速い現代製造業において大きなリスクの芽となります。
特定の担当者だけしか知らない「この取引先は大丈夫」という不透明な判断は属人化の極みです。
標準化された数値基準を運用しなければ、組織全体の調達力は上がりません。
デジタル化・可視化が進むことで組織は強くなる
ITやAIによる購買支援ツールの活用により、判断のスピードと正確性が格段に高まります。
たとえば定期的なExcelシートやSaaSのサプライヤーマネジメントシステムを活用して高リスクサプライヤーを自動抽出する仕組みを構築することで、工場全体の安定稼働や経営リスク低減が現実のものとなります。
4.バイヤー・サプライヤー双方が今後意識すべきアクション
バイヤー(購買担当者)のための留意点
・毎年、取引先リスク評価を定例業務として実施し、結果を全体で共有する
・高リスク先には「指導」ではなく「対話」を通じた改善要請を行う
・リスクレベルに応じた複ライン化・サプライヤー交代準備を進めておく
・“感情”ではなく“事実と数値”に基づいて取引停止や削減を粛々と進める
サプライヤー(供給側)のための視点
・顧客企業(バイヤー)は数値で評価し始めているという事実を認識する
・定量的な品質改善・納期遵守・財務健全化を経営目標に組み込む
・バイヤーの「何を重視しているのか」もモニタリングして社内で議論を
・取引停止の予兆(ヒアリング・監査の強化、質問の増加等)には迅速に対応する
5.実際に役立ったリスク管理実例:現場のリアル
私がかつて勤務していた大型工場では、長年付き合いのあった地場金属加工サプライヤーに異変が起き始めました。
軽微な不良品が増加し、納期遅延も時々発生。
定期スコアリングで「財務」「品質」の両面で赤信号が灯ったため、経営層に状況説明し、並行して代替サプライヤー検討を開始しました。
約半年後、先方企業はついに倒産。
数値による現場の予兆管理が、巨額損失回避に大きく役立った一例です。
また、リスクスコアの可視化により、バイヤー部門の若手担当者も臆することなく「改善すべき点をサプライヤーに提案」できるようになりました。
取引停止は単なる“見捨てる行為”ではなく、両者の成長を促す契機にもなり得ます。
まとめ:取引停止は、現場&経営を救う「希望のルール」
サプライヤー取引の見直しや停止判断は、一見ドライで非情にも思われがちです。
しかし、「取引先との信頼関係」と「損失回避のための数値化運用」は真の両立が可能です。
大切なのは、「感情論でなく、事実と定量評価に基づいて判断すること」。
これにより、現場・購買担当者・経営トップ、そしてサプライヤー自身も正面から現実と向き合うことができます。
最後に、取引停止やリスク評価は決して終わりのためのものではありません。
事実を見定め、強い仲間づくり・持続成長につなげるための“希望のルール”。
これからの製造業を担う皆さんには、現場主義と分析思考の両立による、最強の損失回避術をぜひ実践していただきたいと思います。
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