投稿日:2025年7月15日

レーダーの基礎および動作原理距離や速度方位の計測方法周辺制御回路の組込ボードへの実装技術自動車やヘリコプタへの方式構成と応用

レーダー技術の基礎とその意義

レーダー技術は、現代の自動車産業や航空機産業における安全性向上や自動化推進の根幹を担う重要な分野です。

「レーダー」と聞くと、軍事や航空のイメージが強いかもしれませんが、いまや多くの日本メーカーが自動車や産業用ロボットまで、幅広い分野で活用しています。

本記事では、レーダーの基礎からその動作原理、距離・速度・方位の計測方法、さらに現代的な制御回路や組込技術に至るまで、現場の実務経験を踏まえた知見で解説します。

昭和時代から変わらぬアナログな慣習が根強い製造現場にも、最先端のデジタル技術が次々導入され始めています。

その時代の転換期を捉え、バイヤー・サプライヤーの両方の立場に生きる方々に、現場目線の実践知を共有します。

レーダーとは何か:歴史と発展

レーダー(Radar:Radio Detection And Ranging)は、電波の発信・反射を利用して、物体の存在や位置、動きを検出する技術です。

初期の開発は1930年代、航空機の探知や艦艇の航行支援のために始まりました。

やがて産業用途へと広がり、センサー技術や半導体小型化の進展とともに、今日では自動車や産業機械、物流、農業など、幅広い現場で不可欠な存在となっています。

レーダーが果たす製造業への貢献

製造業の現場では、レーダー技術が人手頼みだった安全監視や自動搬送の自律運転化、品質検査の自動化といった形で導入されています。

従来の光学センサーでは死角となる粉塵中や暗所、悪天候でも安定動作が期待でき、作業現場の「見える化」やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の切り札となりつつあります。

レーダーの動作原理と計測の仕組み

レーダーの基本的な仕組みは、送信機から発した電波がターゲット物体に反射し、その反射波(エコー)を受信機で受け取ることです。

こうした「発信-受信」の時差や周波数変化を利用することで、物体までの距離や動いている速度、向き(方位)を導き出します。

距離計測の原理(TOF: Time Of Flight 法)

最も基本的な距離の測り方は、発信した電波が物体に反射して戻るまでの往復時間(TOF:Time Of Flight、飛行時間)を計測します。

電波の速度は光速(約30万km/秒)と決まっているので、往復の時間から距離 =(往復時間 × 光速)/ 2 で算出できます。

たとえば、自動車用レーダーの場合、数cm〜数十m単位の高精度計測が可能です。

速度計測の原理(ドップラー効果)

速度計測には「ドップラー効果」が利用されます。

送信した電波が動いている物体に反射されて戻るとき、物体が近づいている場合は受信波長が短く、遠ざかっている場合は長くなります。

この周波数の変化を高精度で測定することで、相対速度が分かる仕組みです。

自動車では前方車両との相対速度を数ミリ秒単位で把握し、自動ブレーキ(AEB)制御などに活用されています。

方位(方向)計測の多様な方式

方位の特定には「アレーアンテナ」(複数アンテナ配列)を用いたビームフォーミング技術が一般的です。

複数のアンテナで受信した信号の位相差から、反射波が届いた方向を三角測量的に推定します。

衛星ナビや自動運転車などでは、レーダーの方位検出精度がシステム全体の安全性に直結します。

周辺制御回路と組込ボードへの実装技術

レーダーの高性能化が進む一方で、システムの小型化・省電力化・低コスト化が製造業現場の切実な要望です。

ここで重要になってくるのが、マイコンやFPGAなど組込ボードへのレーダーモジュール実装技術です。

アナログ-デジタル変換回路(A/D変換)

レーダーのエコー信号はアナログ情報ですので、まずA/D変換器(ADC)が必要になります。

これによりエコーをデジタル信号化し、その後はDSP(デジタル信号プロセッサ)やFPGA上で距離・速度などの演算処理をリアルタイムに行います。

リアルタイム制御のためのファームウェア設計

自動搬送車(AGV)に搭載するレーダーの場合、障害物検出・減速・停止といった命令をリアルタイムに出さなければなりません。

安定した動作を確保するためには、割り込み処理やRTOS(リアルタイムOS)上でのタスク設計、ノイズ対策など、ファームウェア側の設計の巧拙が問われます。

経験上、デバッグやエミュレーション工程を軽視して組込んだ回路は、現場出荷後に思わぬトラブル(誤検出・過検出)を招くことが少なくありません。

従来工場との親和性:アナログとデジタルの「橋渡し」

昭和から続くアナログ主体の工場にも、レーダー技術は徐々に浸透し始めています。

ローテクの生産ラインにも、レーダーセンサーを外付けして既設設備の稼働ログを取得したり、既存PLC(シーケンサ)と連携して品質トレーサビリティの向上などに活用が広がっています。

自動車やヘリコプタへの方式構成と応用分野

特に自動車業界では「車載レーダー」の発展が加速度的に進んでいます。

レベル2・3の自動運転システム(ADAS)の根幹技術として欠かせない一方、量産コストや信頼性、取り扱いやすさが重要視されています。

自動車:ミリ波レーダーの普及と将来性

新車種の多くは、24GHz帯・77GHz帯のミリ波レーダーを複数搭載しています。

前方監視だけでなく、死角検知や被追突警告、ACC(自動追従速度制御)、パーキングアシストなど、多彩な応用が進んでいます。

部品メーカーやサプライヤーにとっては、車載規格(ISO26262など)の要件を満たしつつ、歩留まりや品質管理、生産ラインの自動化対応が求められる時代です。

ヘリコプタ・ドローンでのレーダー技術

近年は、ヘリコプタや産業用ドローン等の空中移動体にも小型軽量のレーダー(Lidar含む)が応用されています。

障害物回避や着陸支援、進路予測、空中での物資投下精度向上など、安全性・効率化の観点でレーダーの重要性が増しています。

現場での組込ノウハウやフィールドテスト(EMC耐性・温度試験)など、部品サプライヤーの責任範囲も拡大しています。

部品バイヤーやサプライヤーの視点:実務で留意すべきこと

バイヤー側の立場では、コストだけでなくレーダーの信頼性・長期安定供給への備え、万一の不具合対応フローが取引選定の大きな要素となります。

サプライヤー視点では、品質管理や納入トレーサビリティ体制の充実が必須です。

昭和的な慣習にロジックを加える

いまだにFAXや電話中心の購買現場もありますが、これにIoTレーダーで得た現場データを活用し、エビデンスに基づく「見える購買」へ進化できます。

サプライヤーからの技術提案型アプローチも、現代の動向にマッチした営業戦略となります。

レーダー技術における次世代の潮流

今後は、AIと連動したレーダー画像解析やエッジAI化が進行することで、現場自体の自律制御や品質自動検査が可能になります。

各種センサー融合(センサーフュージョン)も進み、複数センサーからのデータをリアルタイム統合・処理する時代へと進化します。

まとめ:実践知で製造業を変革しよう

レーダー技術は、昭和から続く製造業の現場にも確実に浸透し始めています。

距離・速度・方位検出といった基礎から組込・制御インテグレーション、さらには自動化・省力化に至るまで、現場実務の知見がますます求められています。

バイヤー・サプライヤー双方が、最先端技術を正しく理解し「生産現場の変革」に主体的に関わることが、いま求められる時代です。

ぜひ、一歩先を見据えた現場力の強化で、日本のものづくりの新たな地平線を切り拓いていきましょう。

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