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日用品メーカーが量産コストダウンに踏み切れない判断背景

目次
はじめに 〜 日用品メーカーの現状に迫る
日用品メーカーが量産コストダウンをなかなか実行に移せない現状は、製造業界に身を置く方なら一度は耳にしたことがあるテーマです。
調達購買や生産管理の現場では「他業種はどんどん自動化やコスト削減を進めているのに、なぜ日用品メーカーは動けないのか」という疑問も多く聞かれます。
本記事は、20年以上の工場現場経験を元に、バイヤーやサプライヤー、それを目指す方々に向けて、日用品メーカー特有の事情と判断の背景、そして時代と共に変わる業界動向まで、深掘りして解説していきます。
昭和から根付く「安定優先」の風土
日用品は「生活インフラ」だからこその責任
日用品メーカーの多くは、消費者の「日常」を支えています。
歯ブラシ、洗剤、トイレットペーパー、シャンプー。
これらが突然市場から消える、あるいは品質が大幅に低下すれば、社会的批判も大きくなります。
そのため各メーカーでは「安定供給」と「品質保持」を何よりも優先する風土が、昭和から根強く受け継がれてきました。
コストダウンを追い求めて工程を急激に変えることで、供給の安定性や品質担保にリスクが生じるならば「やらない決断」を選択するのが基本です。
これは、自動車・エレクトロニクスのような高額耐久品と比較すると、消費者が日常的かつ無意識に「信頼」して買い求める日用品ならではの、逃れられない宿命でもあります。
実例:生産設備更新への消極姿勢
例えば、最新の成形ラインや自動化設備が登場しても、現場では「現状維持」の空気が根強いです。
「この設備は30年間も無事故で稼働している」「ラインのクセはベテランしか分からない」といった、過去の成功や経験則が重んじられます。
このマインドセットが、結果的に革新的なコストダウン施策の障壁になっています。
バイヤーとサプライヤーの「見えない攻防」
バイヤー視点:「なぜ動かない」の本音
バイヤー側はサプライヤーや現場の声を聞きつつ、トップダウンでコストダウンのKPIを求められています。
それでも、日用品の量産現場では、単なる価格交渉だけでなく「変化に伴うリスク管理」を強く意識します。
たとえば、成形原料を1円でも安いサプライヤーに切り替えたい場合、その影響で「微妙な色合いや香り」にバラつきが出ることは大きな問題です。
過去に「原料を値下げした直後、苦情が10倍に跳ね上がった」といった経験は、社内全体の慎重論をさらに強めます。
サプライヤー側:「変化を恐れている?」と感じる壁
一方、サプライヤーからは「商談のたびにコストダウン提案をしても動いてもらえない」という不満の声も聞かれます。
価格や生産技術の改善案を出しても、「品質基準への適合」「現場トレーニングの手間」「現行体制との摩擦」を理由に却下されがちです。
特に、日用品メーカーは「消費者への直接対応窓口」を持つことが多く、トラブル発生時の社内負担増を極端に恐れる傾向があります。
現場の実情:「改革者」が孤立しやすい理由
イノベーターへの社内抵抗
新しいコストダウンアプローチを提案・実行しようとすると、その人は現場で「浮いた」存在になります。
「今までうまくやれてきたのに、わざわざ変えて何の得がある?」
「それで現場が混乱して、納期遅延やクレームが増えたら誰が責任を取るのか?」
このような論調が根強いのは、心理的安全性がまだまだ構築されていない文化、特に長年勤続するベテラン層の多い現場で顕著です。
結果として、前例踏襲・大きな変化はしないという保守的文化が温存されます。
リスク・アンド・リターンの計算式が独特
たとえば、自動化投資で年間5000万円のコストダウンが見込めるとしても、「もし設備不調で1日でもラインが止まれば、出荷停止による損失は億単位」といった見積もりで尻込みするケースが頻繁に見られます。
損失回避バイアスが強く働き「やらないリスク」より「変化のリスク」の方に目が向きがちです。
レガシー体質を支えてきた「昭和的成功体験」
絶対的な「現場力」の信奉
日用品メーカーでは、いわゆる「職人技」が品質を支えてきた歴史があります。
マニュアル化できない独自ノウハウや、微妙な調整を経験でカバーする現場力への信頼が厚いです。
この構造が、デジタル化や自動化への移行をさらに遅らせてきました。
「紙ベース」「電話・FAX文化」に根付く現実
今なお多くの現場で、調達依頼書のやりとりや生産計画の確認、納期調整など、あらゆる業務が紙・電話・FAXに頼っています。
デジタル化の波は着実に押し寄せていますが、「変化の障壁」×「現場の多忙」×「過去の痛い失敗体験」という三重苦が、新たなITツール導入や自動化設備刷新を妨げています。
変革の兆しと業界動向 〜 「待ったなし」の潮流
コロナ禍で加速したデジタル投資
2020年以降、非接触・非対面の重要性が増し、さすがの日用品業界でも「IT投資」や「工程自動化」を加速せざるを得なくなっています。
生産管理システムや調達購買のデジタルシフトが遅れていた現場も、「これを機に効率化しないと人手不足で現場が回らない」と切実な危機感を抱くようになりました。
消費者からの「質実剛健」要求に応える難易度上昇
SDGs対応やサステナブル製品需要、さらにはESG経営への圧力も高まっています。
消費者が「安ければいい」から「安全・安心・地球に優しい」にシフトした結果、単なるコスト削減だけでは評価されません。
原料選定・物流・パッケージングまで、全工程が見直し対象となりました。
これが量産コストダウンの難易度をさらに引き上げています。
量産コストダウンを実現したい、現場・バイヤー・サプライヤーが今できること
現場主導の「スモールスタート改革」
一気に全てを変えようとせず、ベテラン層と若手が「小さな実験」を重ねることで、変化への恐怖感を和らげることが有効です。
具体例としては「部分工程だけ自動化」「IT化したペーパーレス受発注のパイロット運用」など。
実績を目に見える形で社内共有し、現場に「変化は悪ではない」という空気を醸成すると、徐々に改革の幅が広がります。
バイヤーとサプライヤー「共創」の必要性
一方的なコストダウン要求や、机上の空論だけでの価格交渉はもう限界です。
これからは、日用品メーカー・サプライヤー双方が「共同プロジェクト」として効率化や品質改善に取り組み、リスクとリターンを共有する考え方が求められます。
この「共創」が定着すれば、これまで難しかった量産コストダウンも、よりスムーズに進みやすくなります。
まとめ 〜 変われない理由を知ることが、突破口となる
日用品メーカーが量産コストダウンに簡単に踏み切れない背景には、安定供給や品質担保を最優先する独自の風土、長年の成功体験、そして現場への変化の恐怖感など、複合的な要因があります。
バイヤーやサプライヤーがその内情を知り、変化に向けて小さな「共創」や「実験」を重ねることで、少しずつ未来の扉は開かれます。
製造業、特に日用品を支える現場の地道な努力こそが、業界全体の底力です。
量産コストダウンをめぐる実情を理解し、ラテラルシンキングで発想転換にチャレンジする皆様を、心から応援します。