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コネクティッド・カーにおけるIoTソリューションの責任分界が曖昧になる理由

目次
はじめに:コネクティッド・カーと責任分界の混沌
コネクティッド・カーが急速に進化しています。
自動車がインターネットと繋がり、多種多様なデータやサービスが車両を通じてやり取りされる時代です。
この進化の裏側で、製造現場や開発現場、さらにはサプライチェーンのあらゆるプレーヤーが直面しているのが「IoTソリューションにおける責任分界の曖昧さ」です。
昭和時代のような「俺の工場から出したものに瑕疵があれば責任は明確」という世界では、分かりやすい責任の所在がありました。
ところが、現在の製造業、とりわけコネクティッド・カーのようなIoTを駆使した複雑な製品では、責任の分界がますます難解になっています。
この記事では、現場を20年以上経験した立場から、なぜ責任分界が曖昧化しているのか、その背景や業界の本音、今後求められる対応について深掘りします。
コネクティッド・カーとIoTソリューションの全体像
コネクティッド・カーとは、従来の自動車に情報通信技術を組み込むことで、外部のクラウドサービスや通信インフラ、他の車両・施設と双方向で情報交換が可能となった新世代の自動車を指します。
一般的なコネクティッド・カーのIoTソリューションには、以下のような技術やサービスが組み合わされています。
- 車両制御系と連動したセンサー・アクチュエーター
- カーナビゲーションと連携した交通情報/気象情報提供
- スマートフォン・外部デバイス連携
- OTA(Over The Air)による車両ソフトウェアアップデート
- 遠隔車両診断・予防保全サービス
- 事故時の緊急通報やコールセンター連携
これらは自動車メーカー(OEM)だけでなく、部品サプライヤー、ITベンダー、通信キャリア、クラウドサービスプロバイダー等の複数プレーヤーが連携する巨大なサプライチェーンで実現されています。
以前の分かりやすい責任分界:昭和的ものづくりの事例
昭和から平成初期の製造業界では、車両なら車両、部品なら部品で明確な責任分界が存在しました。
製品設計から部品加工、組立、検査、納品に至るまでの流れは、分業化されていながらも「ここまではサプライヤー、ここから先はバイヤー(OEM)」という暗黙かつ明確なルールがありました。
例えば、自動車ならサプライヤーが納入した部品が原因で不具合が発生すれば、保証対応もサプライヤーが持ちます。
納品後にOEM側で問題が生じればOEMの責任です。
品質チェックのルールも紙ベースで徹底され、不明瞭な責任の押し付け合いが生じにくい土壌がありました。
なぜ責任分界が曖昧になったのか? IoT時代の複雑化
①複数社・多階層化したサプライチェーン
コネクティッド・カーでは一つのシステムが、ハード・ソフトのレイヤーを跨いで複数社で構成されます。
例えば、一つの遠隔診断サービスにも、車載ECUメーカー、通信モジュールサプライヤー、ネットワークキャリア、クラウドサービス会社、システムインテグレーターなどが関わります。
不具合や事故が生じたとき、「その原因が車載ECUにあるのか、通信モジュールなのか、クラウド側なのか」「責任はどのサプライヤーにあるのか」を切り分けることが一気に困難になりました。
②「ソフトウェア更新」による動的変化
自動車は“完成品”という文化が長らく根付いていましたが、LTEや5Gなど通信インフラの発展により、車載システムも「納車後にソフトウェアアップデートが繰り返される」という動的な性格を持つようになりました。
同じハードウェアでも、ソフトウェアバージョンによって挙動が変わり、アップデートの度に新たなバグや脆弱性が発生するリスクも高まります。
納入後の品質保証範囲や責任の所在が曖昧になる一因です。
③セキュリティ&プライバシー要件の激化
従来は“車両に乗る時だけ”の個人データ管理で済みましたが、コネクティッド・カーでは位置情報、運転履歴、連絡先などパーソナル情報を広範に取得・管理します。
不正アクセスや情報漏洩が発生した場合、どの工程でミスがあったのか、システムレベルの分界点が極めて曖昧です。
対応の不備で賠償問題が発生したとき、「どこまでがサプライヤーの責任で、どこからがOEMやサービス事業者の責任か」をクリアに切り分けるのは容易ではありません。
④アジャイル開発・外部API連携のブラックボックス化
従来のウォーターフォール開発から、よりスピーディなアジャイル開発へと現場の潮流が変わる中、サプライヤーやITベンダーごとの分責が書面や仕様に明記されていないケースも増えています。
一部機能は外部API連携でブラックボックス化し、「どこで何が起きているのか」がOEM含む現場担当者にも分かりにくい状況が起こりやすくなっています。
現場やバイヤーの視点で感じる課題
トラブル時の責任追及が泥沼化するリスク
現場でいざトラブルが起きた時、従来であれば納入した部品なら「追跡番号」や「品質証明書」をもとにスムーズに原因箇所を突き止めることができました。
しかし、IoTソリューションの分野では、ログの解析やクロス社間のデバッグ調整が必要で、一つの問題に対し複数社間で「これはウチではない、他社が原因では」と泥沼化します。
契約面でのグレーゾーン増加
新たなサービスや機能を生み出すスピードが求められる一方、従来に比べ契約書の範囲やリスク分担が曖昧なまま、開発・量産がスタートするケースが増えています。
特にアジャイル型のプロジェクトや新興ベンダーとの取引では、「仕事は進むが、責任分界が十分ドキュメント化されていない」状態も散見されます。
サプライヤー側の無力感と賠償リスク
分責が曖昧なままにPoC(実証実験)やサービスインし、不具合発生後に「やっぱりサプライヤーもちの問題だ」と判断されると、多額の賠償金請求リスクを抱えます。
OEM側は「ユーザー対応」の最前線にあるため、ついサプライヤー側に説明責任を押し付けがちです。
そのため、現場の品質保証部隊や営業担当者が困惑する姿を、長年多く見てきました。
バイヤー側が考えていること、サプライヤーが知るべきこと
バイヤー、すなわち顧客側(OEM、一次受け)は、大きなビジネスリスクを背負ってプロジェクトを進めています。
彼らが何より恐れているのは、「ユーザー影響」「市場リコール」といった最悪の事態です。
電装化・IoT化による新たな機能付与と引き換えに、従来なかったリスクと“未知の分責”が増えていることを十分に認識しています。
一方でサプライヤー、中でも二次・三次受けの皆さんは「要件が曖昧なまま案件が走り、契約範囲も曖昧なまま始まり、トラブル時だけ重い責任を背負わされるのでは?」という不安が常にあります。
バイヤーが真に望んでいるのは「リスクを共に察知し、共に最適分担するパートナー」です。
見積や契約段階から率直なリスク提示と分責協議、トレーサビリティ・証跡管理の協働化が、今後ますます不可欠となります。
業界全体の動向と今求められるアクション
規格・法令対応の強化
国内外で、ISO/SAE規格や自動車セキュリティ標準、GDPRなどデータプライバシー規制が次々と制定・強化されています。
今後は「法規や業界標準で定められた分責の明確化」がサプライチェーン全体に義務付けられていく流れが強まるでしょう。
透明性あるテクニカルドキュメントの整備
いわゆる「ブラックボックス化」を防ぐには、各社が提供するモジュールやサービスごとに
- 仕様書
- バージョン管理表
- 不具合発生時のエビデンスのチェックリスト
など、ドキュメント類のデジタル化・共有化・バージョン管理が不可欠です。
ベンダーロックインに逃げず、取引先とWIN-WINな「説明力と証跡力」を持つことが求められています。
責任分界の契約・覚書への明記
従来の「口約束文化」や「阿吽の呼吸」に頼ったやり方では、IoT化が進む現代のクレーム・リコール時代には通用しません。
トラブルが起きたときにどこまでがどの会社の責任か、どこでバトンが切り替わるのか。
分かりやすい言葉・工程・作業単位で契約やMOUに一つ一つ明記し、両社で定期レビューする運用が肝心です。
まとめとこれからの地平線
コネクティッド・カーを象徴に、IoTソリューションは急速な進化を遂げています。
その反面、従来型ものづくりでは想定できなかった「責任分界の曖昧さ」「多社間調整・トラブル対応の泥沼化」が日常のものとなりつつあります。
サプライヤーは自社の責務や立ち位置を明確化するだけでなく、バイヤーの課題を自分ごととして捉え、積極的な情報開示と協働体制を構築することが、自社の信頼向上と安定した取引の基盤となります。
現場感覚を大切にし、昭和的な良き伝統と、IoT時代の新たな課題対応――両者の知見をつないで業界全体を底上げする気概が、これからの製造業には求められています。
日本のものづくりが再び世界をリードするためにも、「責任分界の新常識」を共有・形成し、ともに新たな地平を切り拓いていきましょう。
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