投稿日:2025年12月8日

顧客評価で品質が低評価になる理由が社内で共有されない背景

はじめに:顧客評価が品質改善の起爆剤である理由

ものづくりの現場では、「品質第一」「お客様満足度向上」というスローガンが頻繁に掲げられています。
特に昨今、顧客からの評価……すなわち“品質の見える化”が強く求められるようになっています。
ところが、いざ顧客から「品質が悪い」「仕様通りにできていない」などのフィードバックを受けても、その内容や原因が現場に正しく共有されない現実が往々にしてあります。

その背景には、昭和的な“なあなあ体質”やセクショナリズム、さらにデジタル化への抵抗感など、複合的な要因が絡み合っています。
本記事では、顧客評価(とくに低評価)が現場にフィードバックされない理由、そしてそれがいかに現代の製造業の成長を阻害するかを、実例を交えながら解説します。

なぜ「顧客からの品質評価」は現場で共有されにくいのか

1. 部門間の壁と情報サイロ化の問題

製造業の組織は、調達・生産管理・品質管理・現場作業……と役割ごとに分断されています。
この“縦割り”組織が「品質低評価の顧客フィードバック」を滞らせる最大の要因です。

営業・カスタマーサービス部門が受け取った低評価情報は、しばしば「自分たちの直管外」として処理されがちです。
また、品質管理部門内でも「判断は現場任せ」「自分の範囲だけ守ればいい」という態度が根強く残っています。
結果、肝心の製造現場には「何が不満だったのか」の核心が伝わりません。

2. フィードバックの“質”と伝達力の問題

多くの現場では、顧客評価がExcelファイルや簡易なExcel集計で管理されています。
その“定量評価”に終始し、「NG件数」「クレーム件数」だけが物理的に回覧されます。
そのため、「具体的にどんなシチュエーションで何が問題だったのか」「どんな損失につながったのか」といった“生の声”が現場や管理職に正確に伝わりません。

つまり、
・本来ヒントになるはずの『顧客の怒り』が数値のみに変換される
・抽象的な情報しか下りてこない
・課題の特定や対策の創出にはつながらない
というサイクルに陥ってしまいます。

3. 品質評価が“評価者”の責任問題に帰着しやすい組織風土

「品質問題が発生したのは誰のせいか」「どこが悪いのか」という責任追及型の組織文化が根強いと、担当者レベルで情報を握りつぶす動機が生まれます。
「品質に悪影響があった」と認める報告自体が、“自部門のミス”としてマイナス評価につながるため、悪い情報は上に上げたがらず下にも伝えにくい……という負のスパイラルが生じます。

このような“昭和的な隠ぺい体質”は、いまだ多くの工場や大手企業でも消え切れていません。

顧客評価が社内で“正しく”共有されない弊害

1. サプライヤー評価の本質を見失う現場

サプライヤーとしては、「バイヤー(顧客)が何を重視して自社を評価しているのか」が分からず、結果的に自社の強み・弱みに気づけません。
例えば、「納期よりも再発防止策の徹底を求めている」「現場の守りの姿勢よりもチャレンジングな改善提案を期待している」といった“顧客独自の評価ポイント”を逃しています。

これは、バイヤーを目指す方やバイヤーの立場を理解したい方にとっても致命的なブラインドスポットとなり、いつまでも顧客満足度を上げられないという悪循環を生みます。

2. 根本的な品質改善サイクルの阻害

仮にクレームの件数が減っていたとしても、それが「予防保全の徹底」や「顧客視点の工程改善」に結び付くとは限りません。
形式的な数値管理だけになり、“本質的な品質向上”や“現場の主体的な改善マインド”とはかけ離れていきます。

改善活動そのものが「やらされ感」に包まれ、結局は「なぜ顧客からダメ出しをされたのか」を本質的に理解できないままになりがちです。

ラテラルシンキングで考える「共有されない理由」の深層構造

1. 情報共有のプロセスが“付加価値”と認識されていない

製造業では「製造品」「納期」「歩留まり」など、形のあるアウトプットに重きが置かれてきました。
その中で、顧客評価レポートやフィードバック情報の収集・分析・展開は、「間接業務」と見なされがちです。

結果、「売上に直結しない業務は後回し」「現場は手が空いたときだけ見る」となり、常に後手後手になります。
この意識を根底から覆さない限り、本格的な変革は難しいでしょう。

2. トレーサビリティや情報システムの未整備

情報の蓄積や分析を紙・Excel・手書きノートでやっている以上、「過去の類似クレーム」や「原材料・人員・工程ごとの傾向分析」はできません。
「本当はどのタイミングで問題が出やすいのか?」といった仮説検証も感覚頼みで、戦略的な品質マネジメントには結び付きません。

デジタル化推進が叫ばれながらも、昭和的なアナログ業務にこだわる風土が“情報の死蔵化”を加速させているのです。

3. 経営層・管理職の認知バイアスと「見たくない現実」

「うちは品質には自信がある」
「お客様の声は個別対応で十分」
こうした“思い込み”が、トップ層から現場まで染みついてしまいがちです。
現状把握すら拒否する空気(いわゆる「ぬるま湯構造」)の中で、課題の本質がいつまでたっても共有されない、変わらない、結果として改革が前に進まないです。

現場で顧客評価を“価値ある財産”として活用するために

1. 評価を「経営資産」として見直す意識改革

顧客評価を単なる「反省材料」「マイナス査定要因」と片付けるのではなく、“次世代の戦略資産”と位置付ける意識が重要です。

例えば、
・「頂いた指摘は自社独自の強みを磨く最高の素材だ」
・「品質改善は顧客との信頼構築の“ナレッジベース”だ」
このように未来志向で再定義することで、全社員が前向きにクレームやフィードバックと向き合えるようになります。

2. “品質情報プラットフォーム”の構築

社内イントラネットやBIツールを活用し、「顧客の現場写真、音声、会話記録」といった生データが担当者や現場全体で瞬時に共有できる仕組みを作ります。
また、トラブルの事例ごとに「発生→連絡→課題化→対策立案→検証」までのPDCAサイクルを標準化し、学びを“会社全体の資産”に変換することを推奨します。

3. サプライヤー・バイヤー双方の“風通し”を改善

バイヤー視点、調達担当者視点も踏まえ「なぜ顧客はそこを気にしているのか」の背後にあるニーズや組織状況も日常的にヒアリングします。
形式的な会議や書類投稿に終始せず、「なぜ、どうして、どうなった」を具体的に共有し、相手視点で考える力を一層伸ばしましょう。

まとめ:顧客評価の共有が未来の競争力を決める

顧客評価、とりわけ品質評価に関する“悪い情報”が社内で共有されない背景には、組織文化、デジタル化の遅れ、責任追及型マインドなど、さまざまな事情が内在しています。
ですが、これら課題を放置していては、真の品質改善・顧客満足の実現はあり得ません。

昭和から令和の時代へ――
今こそ『顧客評価は未来への財産』という新たなパラダイムで、現場と管理職、調達担当、品質担当、サプライヤー、バイヤーが一体となり、現場で知恵と工夫を積み上げる風土を育てていくことが求められます。

最後に、品質低評価を“痛み”として受け止めるのではなく、“進化のきっかけ”に変える。そのための思考と仕組みづくりこそ、これからの製造業の生き残り戦略であると強く提言します。

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