- お役立ち記事
- 睡眠改善施策の効果測定が難しい理由
睡眠改善施策の効果測定が難しい理由

目次
はじめに:製造業現場と睡眠問題
製造業の現場で働く方々にとって、日々の生産性や安全性を維持するためには「人」の状態が最重要です。
人手不足、長時間労働、不規則なシフト、精神的・肉体的なストレス…。
こうした要素が複雑に絡み合う中で、現場スタッフの「睡眠」の質や量がどれほど仕事のパフォーマンスに影響しているか、現場責任者や経営層も肌で感じていらっしゃると思います。
最近では「睡眠改善」が企業の健康施策(ウェルビーイング)の一つとして注目されています。
しかし、実際に睡眠施策を導入したとしても効果測定が非常に難しいという声が、私の経験上も現場から多く寄せられています。
本記事では、なぜ睡眠改善施策は効果測定が難しいのかを、現場目線に寄り添いつつ、理論的・実践的に深掘りします。
また、製造業ならではの「昭和的」なアナログ慣行や、日本独特の業界動向もふまえた内容にしています。
睡眠改善施策の代表例
よく導入される施策
製造業現場では、次のような施策が多く導入されています。
– 睡眠研修・セミナー
– 睡眠品質チェックシート(アンケート)
– ウェアラブルデバイス配布による睡眠記録
– 仮眠室の設置やシフト調整による“仮眠推奨”
– 社内啓発ポスターやメール配信
期待される効果
これらの施策が狙うのは生産効率の向上、労働災害の減少、ミスの削減、社員満足度の向上など多岐にわたります。
しかし、多くの現場で施策の「前後」で効果が思うように可視化できない、または、成果が本当に施策によるものか判断が難しい、という課題が残ります。
なぜ効果測定が難しいのか?
1. 睡眠の「質・量」は個人差が大きい
睡眠は非常にパーソナルな生理現象です。
たとえば、6時間睡眠でもパフォーマンスが落ちないAさんもいれば、8時間寝ないと翌日は集中できないBさんもいます。
また、同じ人でも前日の食事や家庭環境、健康状態によって大きく変化します。
このため、全員に同じ施策を講じても、平均値では違いが見えづらく、個人別にフォローするにも工数と配慮が膨大になります。
2. 「自己申告」依存の限界
睡眠の評価は自己申告によるところが大きいのが現実です。
たとえばアンケートやチェックリストを使う場合、「良かった」と答える方もいれば、周囲に合わせてポジティブな回答をする方、あるいは面倒だからテキトウに書く人もいます。
現場には「本音を隠す文化」や、良かれと思って“上司受け”重視で回答する昭和的な価値観も根強く残っています。
3. 業務パフォーマンスとの因果関係が曖昧
最も大きな壁が「パフォーマンスとの因果関係の曖昧さ」です。
例えば、「不良品の減少」や「作業ミスの減少」が見られたとしても、それが睡眠改善によるものなのか、ほかの業務改善(標準化・設備投資・人材補強など)が効いたのかを切り分けるのは非常に難しいです。
さらに、どれだけ睡眠を改善しても、現場のヒューマンエラーの要因は他にもストレス、教育不足、体調不良、士気の低下など数え切れません。
4. 継続的な測定体制の維持が難しい
施策の定着度や“長期効果”を測るには、半年~1年以上のデータ取得と追跡が必要になります。
製造業の現場では日々トラブル対応や工程管理に追われており、睡眠施策を“本気で数値化・追跡管理”する専門人材や時間を割りづらいという現実もあります。
また異動や退職でデータの連続性が失われるといった問題も起こりやすいです。
5. 日本的・昭和的「自己犠牲」文化
日本の製造業には「眠いのは我慢すればいい」「多少の寝不足は根性でカバー」といった価値観が依然として根強い現場も多数あります。
こうした文化が「睡眠に悩んでいる現状を声に出しづらい」「施策に素直に取り組みづらい」空気をつくり、正確な実態把握を難しくしています。
実務視点:現場でよくある失敗例
数値目標の形骸化
「平均睡眠時間を30分伸ばす」「アンケート満足度70%達成」など数値設定まではできても、数値そのものが“現場実態”にそぐわず意味をなしていないケースが散見されます。
「眠りやすい環境」づくりの軽視
仮眠室は設置したが、設備や衛生が追い付かず誰も使わない。
シフト調整で仮眠時間を増やしたはずが、人手不足で実際には組めていない——。
“現場のリソースと風土を無視した設計”が失敗を呼び込む要因です。
現場リーダーのコミット不足
管理側が「睡眠改善は推進部の仕事」「健康経営宣言でカバーした」と受け身、現場には“やらされ感”だけが残るパターンも多いです。
本気で社員の睡眠問題に向き合うには、現場リーダー自身が「自分の睡眠」から見直し、率先垂範する必要があります。
これからの睡眠施策:押さえるべきポイント
1. 睡眠データの科学的取得と活用
最近はウェアラブルデバイスやスマートウォッチを使った睡眠トラッキングの技術が進化しています。
こうしたデジタルデータを個人の許可のもと匿名化し、「全社平均」よりも「部門別」「年代別」など細かく分けて分析することで、より実態に沿った改善が可能です。
2. 日常業務との“繋がり”を意識した設計
従来型の“啓発のみ”では効果が出ません。
例えば「夜勤明けには15分の仮眠休憩時間を必ず取る」「朝礼時に簡単なコンディション確認を取り入れる」といった業務フローと一体化した仕組みが継続的な成果に結びつきます。
3. 「現場の声」を反映し続ける
睡眠問題はライフステージや家庭状況にも左右されます。
単に「寝ろ」と言うのではなく、小さなグループ単位でのヒアリングや意見交換会を定期的に行い、無理のない改善策を一緒に模索・修正していくプロセスが重要です。
4. 睡眠改善を“安全・品質”と直結化
製造業では「安全」「品質」が最優先事項です。
“安全対策”の一環として睡眠改善を位置づけることで、現場の納得感や本気度が段違いに向上します(例えば「○ヵ月間無事故・無災害のための睡眠目標づくり」など)。
5. サプライヤー・バイヤーも「睡眠」を意識した取引へ
バイヤー・サプライヤー間で起こる「納期遅れ」や「ミス」、「急なリスケ」なども、実は人的要素(特に疲弊・睡眠不足)が引き金になることが増えています。
今後は、サプライヤー選定・評価にも“人が健康に働ける現場かどうか”の視点を加えるバイヤーが主流になるでしょう。
サプライヤー側も、睡眠施策の進捗や職場満足度調査などのデータを、バイヤー向けに積極的にアピールする時代が始まっています。
まとめ:ラテラルシンキングで睡眠施策の未来を切り拓く
睡眠改善施策の効果測定が難しい理由は、単なる技術や方法論の問題だけではありません。
現場に根付く文化、業務フロー、さらにはサプライチェーン全体の価値観までもが複雑に絡んでいます。
これからは、「上からの号令」でも「数字合わせ」でもなく、日々の現場実態に沿い、「安全・品質」を守るための具体策として睡眠を捉える必要があります。
バイヤーを目指す方も、サプライヤーの皆様も。
そして現場を支えるすべての方が、「人」の本質=良質な睡眠に今こそ本気で向き合うことで、誰もが健康に・高品質に働ける製造業の未来が切り拓けると私は信じています。