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運動支援を義務化できない組織の事情

目次
はじめに:なぜ製造業は「運動支援」を義務化できないのか?
みなさんは「運動支援」と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか。
健康経営を推進しようという流れの中、製造業の現場でも社員の健康維持、体力向上に目を向けて「運動支援」を掲げる企業が増えています。
しかし、実際のところ「運動支援を義務化する」という動きは非常に限定的です。
むしろ、推奨や奨励の段階から一歩も進んでいない現場も少なくありません。
なぜ日本の製造業、とくにアナログ体質を色濃く残す現場では「運動支援の義務化」が進まないのでしょうか。
昭和の時代から続く「現場の論理」「組織文化」、そして法的・実務的な課題を、調達、購買、生産管理、品質管理、現場マネジメントのプロの目線で掘り下げ、現実的な解決策の可能性にも言及します。
運動支援が重要視される背景
健康経営時代の到来
近年、「健康経営」という言葉が多くの企業で聞かれるようになりました。
従業員の健康増進を経営課題として捉え、生産性の向上や医療費・休業損失の削減、企業イメージの向上につなげるというものです。
慢性的な人手不足、熟練工の高齢化、若手人材の確保が急務となる製造業にとって、従業員の健康維持は深刻な経営リスク対策でもあります。
そのため、健康診断、ストレスチェック、禁煙プログラムなどと並び、運動機会の提供・推奨が人事や総務の目標に組み込まれています。
製造現場の問題意識
とはいえ、製造現場の実態をよく見てみましょう。
昭和時代から続く現場作業は、かつては重労働そのものでした。
油にまみれ、モノを持ち上げること自体が「日々の運動」だったベテランも少なくありません。
ところが自動化・省力化、ロボット導入が進んだ現代では、体を大きく動かす作業が減り、逆に単純作業や立ち仕事、同じ動作の繰り返しによる腰痛・肩こり・運動不足が増えています。
健康二次被害をどう防ぐかの議論が、工場の現場管理でも求められるようになっています。
なぜ義務化が難しいのか?
現場主義と「暗黙の了解」
製造現場には「現場主義」という言葉があります。
上司や本部の一方的な命令でなく、「現場で実際に働いている人の判断・気持ちが最優先」という価値観です。
この現場主義が、運動支援の義務化に強く立ちはだかる要因の一つとなっています。
– 暗黙の了解:「自分の健康管理は自己責任」という考え
– 「忙しい現場で、業務外の運動の強制なんて論外」という反発
– 「作業をこなすこと自体が十分な運動になっていた」という古い成功体験
組織として「運動の義務」を掲げると、「現場の声を無視している」というマイナスの印象につながりやすいのです。
就業規則・労働時間の壁
運動義務化を進めようにも、就業規則や労働基準法に根ざした壁もあります。
例えば、就業時間内に運動プログラムを組み込めば、その分「実労働時間」が減ります。
– 労働時間と賃金をどう扱うべきか
– 残業との線引きはどうするか
– 業務命令か、あくまで自由参加か
これらのルールが曖昧なまま義務化を打ち出せば、現場で混乱や不満も生まれかねません。
また、余暇時間に参加を義務付けると「プライベートの侵害だ」という声も避けられないでしょう。
産業医・安全衛生の立場
製造業の大手工場には産業医や安全衛生管理者が常駐しています。
健康維持を重視する立場ですが、運動義務化には慎重な見方が多いです。
– 個々の体力・持病にファームフィットさせるのが困難
– 万が一の事故・ケガのリスク
– 運動強制がハラスメントやコンプライアンス違反の火種になる恐れ
製造業では「労災」を極度に忌避する文化が根強いので、業務外活動の義務化にはさらに高いハードルが設けられています。
バイヤー・サプライヤー、取引先への影響
調達・購買、生産管理部門の視点から言えば、工場での「運動支援義務化」は工程変更、納期リスクにもなり得ます。
– 運動時間を確保することで生産キャパが下がる
– サプライヤー側が義務化した結果、コストや納期に遅れが生じる
バイヤーやサプライヤーの立場だと「本当に合理的な施策なのか?」と疑念を持つ向きもあります。
昭和から続く「納期最優先・コスト至上主義」の価値観が根強い場合、健康経営と生産性のバランスが取りにくい現実があるのです。
現場目線で考える「運動支援」成功のポイント
強制・義務化ではなく「参加への工夫」
実際に現場目線で成果を出している企業は、「義務化」という言葉にこだわっていません。
– ゲームや競争要素を取り入れたウォーキングイベント
– スタンプラリー、チーム対抗方式で楽しさ・交流を促進
– 就業前のラジオ体操や簡単ストレッチを試用期間中だけ全員参加にする
– 継続的な啓発ポスターやイントラネットによる運動習慣の可視化
大切なのは「楽しさ」「参加のしやすさ」を設計し、多様な現場社員のモチベーションを刺激することです。
エリア・年代別の工夫
製造業の現場は多世代、多国籍、多様な雇用形態が混在しています。
特にアナログ文化が根強い工場では「新しいことはやりたくない」「変化を怖がる」傾向があります。
そこで年代別・部署別のアプローチも有効です。
– 若手向け:アプリ連動の歩数計イベント、社内サークル支援
– ベテラン向け:腰痛予防のための柔軟体操
– 女性従業員向け:ヨガやピラティスの体験会
– 外国人従業員向け:母国語対応の運動指導
現場の全員が「自分事」として参加しやすい仕掛け作りがカギです。
調達・購買、生産管理との連携
運動支援のためのツールや環境を整備する場合、調達・購買部門との連携が不可欠です。
– 運動器具、健康機器の選定・導入
– 健康経営関連のサプライヤーと連携したキャンペーン設計
– グループ会社、取引先も巻き込んだ全社・全協力会社規模での運動イベント
特に大手製造業では、バイヤーとして「どの施策が現場に定着するか」「サプライヤーが求める支援メニューは何か」と、現場の声を吸い上げ、本当に効果のある支援策を採用することが大切です。
また、バイヤー視点の「コスト対効果」や「工数管理」と、現場管理職の「社員満足」「ケガリスク回避」「現場の納得感」とのバランス調整がポイントになります。
これからの運動支援、昭和の行事から進化する道
「朝礼・体操」文化と現代の課題
昭和の製造現場では「朝礼でのラジオ体操」は当然のように行われてきました。
ところが、形骸化が進み、「やらされているだけ」「意味を感じない」という若手社員も増加しています。
一方で、ベテラン層や管理職にとっては「これが現場の団結」「ケガ防止なのだ」という深い思いも根強い。
このギャップをどう埋めるかは、21世紀型の運動支援を考えるうえで避けて通れない課題です。
ラテラルシンキングで開拓する「支援の新地平」
従来発想にとどまらず、新しい切り口で運動支援の価値を再発見する方法も重要です。
– ウェアラブル端末での歩数・健康チェックの導入によるセルフマネジメント支援
– 生産ラインのAI化・IOT化で空いた時間を使っての短時間運動へのトライアル
– 昼休みや交代制勤務の合間に「3分ストレッチ」を実施し、業務効率も同時向上
– 安全衛生教育の一環として「運動プログラム受講」も認定ポイントに加える
現場の制約=限界と捉えず、発想の転換で「できる工夫」を積み重ねる。
この繰り返しが、アナログ体質が色濃い製造業でも「健康経営」と「工場競争力」を両立させる道につながるのです。
バイヤー志望、サプライヤー、現場管理職へのアドバイス
– バイヤー志望の方は、健康経営や現場安全の最新トレンドにもアンテナを高く持ちましょう。
– サプライヤー側も「バイヤーが何を評価し、何に困っているか」を構想し、運動支援を含むトータルバリュー提案が有効です。
– 現場管理職や工場長は、トップダウンでなく現場からボトムアップで「やりたい人が手を挙げやすい」働きかけを重視しましょう。
昭和の文化も大切にしつつ、新しい運動支援の価値を一緒に現場でつくりあげていく。
それがこれからの製造業の「未来を拓く現場力」となるのではないでしょうか。
まとめ
運動支援を義務化できない組織には、現場独自の論理、組織文化、法規制、コンプライアンス、そして現場に根ざしたリアリズムがあります。
しかし、それを「できない理由」として嘆くだけではなく、本当に大切な健康経営の価値を現場の実情に即して「できる形」で促進する。
調達・購買、生産管理、品質管理、それぞれの立場で「現実と理想のあいだ」を深く考え抜くことが、これからの製造現場を新しい地平線へ導くはずです。
現場で長年培ってきた経験知と、変革への柔軟な発想力で、ぜひあなた自身と組織の健康、そしてモノづくり現場の未来を一歩前に進めていってください。