投稿日:2025年12月3日

生産技術と品質保証の認識差が不良増加を招く理由

はじめに:製造現場での「見えざる壁」

製造業の現場経験者として言えるのは、生産技術部門と品質保証部門の間に存在する認識差こそが、不良増加の根本的な要因となり得るということです。

特に昭和から続くアナログカルチャーが色濃く残る現場では、互いの立場や考え方のズレが現場を複雑化させ、結果として現れたのが「不良の増加」「再発の繰り返し」ではないでしょうか。

この記事では、製造業の現場目線から、生産技術と品質保証の認識差がなぜ不良増加を招くのかを深掘りし、バイヤーやサプライヤー双方の立場からもその重要性を探ります。

生産技術と品質保証、それぞれのミッションと価値観

生産技術部門の役割

生産技術部門は「品質・コスト・納期」の三本柱の最適化をミッションとしています。

設備導入や生産プロセスの設計・改善、材料・工程の合理化、現場の作業者への指導など、生産自体を標準化し効率化することが主な役割です。

彼らのKPI(重要業績評価指標)は、いかに安定して早く、安価に、標準化された製品を作れるかという部分に重点が置かれがちです。

品質保証部門の役割

対して品質保証部門は、製品が顧客要求(法規制、図面仕様、性能基準など)を満たしているかを担保する部門です。

クレーム対応や不良品の未然防止、是正措置、監査対応、工程監査などを通し、「品質保証活動を通じた信頼の確保」が使命です。

彼らの目線では一つの不良、誤った流出、再発のリスクが、会社の信用や顧客との取引存続に影響を与えるため、厳しい基準で現場をチェックします。

交わらないベクトル

一見すると「良品を作ってお客様の満足に繋げる」というゴールは同じですが、現場では「生産効率」と「品質保証」のベクトルが交わらない場面が多々あります。

このすれ違いが、結果として不良増加の温床となっていきます。

認識差が生まれるメカニズム

「現場を知る」ことと「理想を追う」ことの乖離

生産技術部門は現場のリアルを肌感覚で理解し、時に妥協をしながら最適解を見つけ出します。

一方、品質保証部門は理想を追求し、仕様や標準からの逸脱を許しません。

例えば、「微妙な工程ばらつきは現実的には仕方ない」という生産技術と、「すべて規格通りにしなければ出荷できない」と考える品質保証の間でギャップが生じます。

不十分なコミュニケーションとサイロ化

多くの製造現場では、部門ごとにKPIや評価基準が異なり、横断的なコミュニケーション不足が課題となっています。

本来はプロセス設計段階から品質保証が関わるべきですが、多忙を理由に書類確認や形式的な監査のみで済まされることも。

その結果、重大なリスク因子を見逃し、不良が発生して初めて「なぜ事前に相談しなかったのか?」となるのです。

抜けきれないアナログ体質と「思い込み」

いまだに根強い「前例主義」や「経験に頼る現場主義」も認識差拡大に拍車をかけます。

「今までこれでやれてきた」「昔の上司も同じようにしていた」と昭和的な慣習が残り、データではなく勘や思い込みで物事を進めてしまうことも一因です。

仮にトラブルが起きても「対症療法」的な処置で終わらせてしまい、本質的な原因追及や仕組みの見直しに至らず、認識差はいつまでも埋まりません。

不良増加に直結する現場の実態

事例1:「段取り勝負」と「全数管理」のズレ

とある大手メーカーの現場では、新ライン立ち上げ時に段取りミスが頻発。

生産技術は「トライ&エラーでやってみないと分からない」と試作を重ねて条件出しを進めていましたが、品質保証は「工程設計時点で全数管理体制を整えるべき」と主張して対立。

現場の多忙さや人手不足の中、曖昧な状態での生産スタートとなり、初期ロットで不良大量発生。

このように、「どこまで詰めるか」「どこをリスクと捉えるか」の部門間認識の差が、初期不良やクレームにつながるのです。

事例2:「目標納期」と「是正処置」のジレンマ

短納期対応が優先される生産現場では、多少の工程不備や設備異常が発生しても「とにかく出荷を間に合わせる」ことが優先されがちです。

生産技術は設備トラブルの原因究明や長期的な改善よりも、目の前の納期対応を選択。

一方、品質保証側は「再発防止策を確実に実施しなければならない」と主張し、是正処置や追加検査を要求。

結果的に現場に過剰な負担がかかり、抜本的な改善ではなく帳尻合わせ的な応急処置で現場が回り続けてしまいます。

この状況が慢性化すると、「不良の温床」を自ら育てることになってしまいます。

サプライヤー・バイヤー間にも影響する認識差

サプライヤーが知るべきバイヤーの本音

サプライヤーとして部品や素材を納入する側は、「コストと納期」重視の生産技術部門の要求に目が行きがちです。

しかし、実際の取引リスクやクレーム時の責任分担は品質保証部門やバイヤー(調達部門)がガードしています。

たとえば、
・図面や工程変更時に十分な評価・検証がなされているか
・出荷検査や流出リスク対策は適正か
・緊急対応だけでなく再発防止に本気か
など、品質保証目線の管理体制が問われます。

サプライヤーが生産現場サイドとだけやり取りしていると、この重要な「品質保証の壁」を見落とし、後々クレームや納入停止といった事態に発展するケースも見られます。

バイヤーが認識すべき現場の事情

一方、バイヤーも「コスト」「納期」だけでなく、現場が抱える「工程ばらつき」「技術的リスク」「現場作業者のスキル」など見えない部分まで知っておくことで、より根本的な調達戦略が立てられます。

発注先に過度なコストダウンを求めるばかりだと、結果的に手抜きや工程不備を招き、不良や納期遅れにつながるリスクがあります。

製造や品質保証部門との密な連携、現場観察やサプライヤー監査を通じて、「本当の現場状況」を知っておきましょう。

認識差を埋めるための打ち手

現場主義の徹底と多部門連携

不良を生まない工場作りのためには、机上だけでなく「現場」を見ることが最も大切です。

工程設計や変更時には生産技術・品質保証部門が一体となって現場に入り、リアルなリスクや作業者の意見を反映したPDCAサイクルを回すことが肝要です。

そのためには品質保証部門も「現場志向」を忘れず、現実的な目線での是正・予防策提案が求められます。

データ活用と仕組み化

アナログな勘や経験だけに頼らず、工程データや不良傾向を数値で見える化し、問題の本質を可視化する仕組み作りが重要です。

例えば、工程能力指数(Cp/Cpk)や不良率トレンド分析、IoT導入によるリアルタイム監視の仕組みなど、昭和的な現場から令和型のスマートファクトリーへの転換が急務です。

部門を越えたKPI設定と共有

また、「生産性」だけ、「品質」だけ、といった一方的なKPIから脱却し、部門横断型の目標設定と評価軸を作ることが必要です。

品質保証と生産技術双方が納得する妥協点・目標値を、オープンに議論し共有化しましょう。

まとめ:認識差に新しい地平線を

生産技術と品質保証の認識差は、不良増加の根本原因となり、解消しなければ働き方改革も現場改善も進みません。

昭和の現場文化、アナログ体質を受け継ぎながらも、今こそ「本質」に迫る新しい視点――ラテラルシンキング的な多面的・横断的アプローチ――が求められます。

製造現場、調達現場、取引先バイヤーそれぞれが立場を越えて「なぜ、この認識差が生まれるのか?」に真剣に向き合い、未来志向で解決していくことが、日本のものづくり競争力向上のカギになると確信しています。

製造現場を支える皆さんと共に、更なる改善への一歩を踏み出しましょう。

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