投稿日:2025年12月2日

不具合の再発防止策が根因に届かず形骸化する問題

はじめに:なぜ不具合の再発防止策が機能しないのか

製造業の現場では、不具合が発生した際に「再発防止策」を策定することはルーティンワークになっています。
しかし、多くの現場で「真の再発防止策」が十分に機能せず、同じトラブルが何度も繰り返されています。
報告書や会議の場では立派な再発防止策が掲げられていても、結局は形だけの対策となり、いつしか現場の誰もが「またこれか」と感じてしまうのです。

本記事では、「なぜ不具合の再発防止策が本質的な問題解決に至らず、形骸化してしまうのか」そして「本当に効く再発防止策とは何か」を、現場目線・管理職経験に基づいて徹底的に解説します。
調達購買・生産管理・品質管理・工場自動化などの切り口も交えつつ、業界の常識や昭和的体質にも鋭く切り込んでいきます。

現場のリアル:再発防止策はこうして形骸化する

1. 「現象止まり」の再発防止策が多すぎる

不具合が発生すると、まずは「なぜこの不具合が起こったのか」を調べます。
しかし、多くの現場で行われているのは、現象の説明や事象の列挙だけで終わってしまうケースです。

例えば、「ねじが緩んでいた」→「なぜ?」→「締め付けトルクが不足していた」→「なぜ?」……この「なぜ?」を5回繰り返すという“5Why”解析も形だけになりがちです。
根本的な理由(本来は設計・仕組み・人材教育・仕入先管理・工程改善など)までたどり着かず、「作業者に注意喚起」「トルクレンチを使う」「再教育する」といった対処療法の繰り返しになります。

2. 「再発防止策」が単なる“やりました”報告になる理由

ISOやIATFといった品質マネジメント規格があるため、再発防止策を記録・報告することは義務となっています。
そのため、現場担当者や品質保証部門は、規格や社内手順に沿った“フォーマット”の再発防止策をとにかく期限までに提出することを第一のミッションにしてしまいます。

「トルクレンチを導入しました」
「全員教育を一回行いました」
「手順書に注意文言を追記しました」
といった“やったこと”に満足し、その効果が本当にあったのか、半年後・1年後も有効だったのかを本気で追跡する現場は稀です。

3. 責任のなすりつけ合い・根因の放置

不具合の原因を深堀りすれば、設計不備や設備投資不足、さらに上流の納入部品の品質、管理職の判断ミスなど“触れてはいけない”領域に踏み込む必要があります。
しかし、担当者一人の裁量でそこまで切り込むのは難しいのが実情です。

「設計変更はコストとスケジュール的に無理なので、現場で何とかしておいて」
「外部業者の再教育までは管轄外なので、取り急ぎ通知だけ」
こうして本当に再発を防ぐための“苦い薬”を飲み込むことなく、形だけの対策で済ませてしまうのです。

昭和的アナログ体質と形骸化の悪循環

1. 記録だけが積み上げられ現場に落ちない

昭和時代から続く製造業の独特な「帳票主義」や「稟議主義」の文化。
報告書や再発防止策の記録はしっかりと積み上がる一方で、その内容を現場の改善サイクルに活かしきれていません。

年間で数百件の“再発防止報告”がフォルダの中に眠っていても、現場スタッフへは「最近の不具合傾向」「過去の同様事例」などのナレッジが還元されないまま、同じトラブルがサイクルのように再発します。

2. アナログ情報管理が創造的な改善の障害に

製造業、とくに中堅・中小企業では、いまだに紙の帳票・アナログの記録が中心です。
これでは“不具合情報を横串で分析し、再発パターンを探る”ことが困難で、最新のデジタルソリューションを駆使した業界との差は広がる一方です。

現場が自発的データ活用できない環境、縦割り組織で他部門との情報共有が希薄な環境が、「場当たり的な再発防止」を助長し、“不具合が出たことを誰かのせいにする文化”を温存してしまいます。

ラテラルシンキングで考える:本当に機能する再発防止策とは

1. 真の“根因分析”に必要な視点転換

不具合の根因は、「担当者のミス」「たまたまの不幸」ではありません。
プロセスそのものに“再発しやすい構造”がないか、または“不確実な仕組み”が温存されていないかという、よりメタ的な視点が欠かせません。

従来の5Whyを超えて、「この不具合を“起こさせない仕組み”そのものをどう作るか?」を問い直すこと。
それが設計段階からの“ポカヨケ”(失敗防止)なのか、設備投資として自動化・IoT化すべきなのか、あるいはサプライヤーとの協働による標準化か。
「再発防止」を“個人の技量や注意力”から、“仕組み・システム”へ移行させていく発想が求められます。

2. 不具合の“再発予兆”をつかむ仕組み作り

一度不具合が発生した後、同じパターンがどのように再発するか、その“兆候”を定量的に掴むことが大事です。
たとえば、生産指示ミスの再発率に関するKPI設定や、類似QA不具合のランキング管理、AIを使ったアナログ帳票のデジタル化による傾向分析など。

“異常現象の報告”を単なる処理作業にしない。
現場担当・管理職・技術スタッフが一体となり「今回は氷山の一角ではないか?」と疑う“第二の目”を持つことが、昭和的業界に新風を吹き込む第一歩になるでしょう。

3. バイヤーやサプライヤーとの共創による再発防止

調達購買やサプライヤー管理の領域では、不具合が「自社工程起因」か「外部提供品起因」かの切り分けが必須です。
昨今、業界全体で“責任のなすり合い”から“共創による品質保証”へのパラダイムシフトが起きています。

単独での再発防止策ではなく、バイヤー(買い手)もサプライヤー(売り手)も“自社の課題解決”として巻き込む仕組み(品質監査の自動化や工程FMEAの共同活用など)を導入すれば、根因へのアプローチが数段変わってきます。

再発防止策を本当に強くする現場アクションの提案

1. 事実の徹底共有と現場ナレッジ化

各種不具合の記録は“現場スタッフが自分の仕事に活用できる形”で共有されているでしょうか。
単なる“事象の報告”を超え、現場スタッフがリアルタイムに参照できる「デジタルナレッジ・ベース」を構築しましょう。

・どのような作業状況で起こったのか?
・過去に似たケースはなかったか?
・現場から見た再発防止の実感はあるか?

こうした現場の声が蓄積される仕組みはAIやRPAが容易にサポートできます。
“帳票文化”から“知識共有文化”への転換が、再発防止策の実効性を劇的に向上させます。

2. 改善提案を“オープン”にする仕組み

従業員ひとりひとりの「こうすれば良くなる」という提案を、経営や管理職が真摯に拾い上げる仕組みが実は根因対策の層を厚くします。
小集団活動やQCサークル、IoTを使った改善提案アプリの導入など、形式にこだわらず “現場訴求力” のある仕組みが必要です。

提案内容を「誰かのせい」にしない、改善を「犯人探し」にしない“前向きな場”をつくりましょう。

3. サプライヤ―やバイヤーと本気で向き合う

近年、自社だけでの“再発防止”に限界が来ています。
調達先や社外パートナーと不具合情報をオープンに共有し、“連携型の防止策”を講じることで、「根本解決」のスピードが速まります。

例えば、一定以上の不具合が発生した際には、双方の管理職同士で月次レビューを義務化したり、工程ごとのトラブル事例をリアルタイムで可視化したりする仕組みが挙げられます。

まとめ:再発防止を“本当の力”に変えるために

製造業の世界では、不具合の再発防止策が形骸化しやすい本質的な理由は、「形式的な対策」「現場に根付かない仕組み」「情報の活用不足」といった業界体質にあります。
しかし、今こそラテラルシンキングで「現象」から「構造」へと、個人責任から仕組み責任への転換が求められています。

現場のリアルな知恵、管理職やバイヤー、サプライヤーとの横断的連携。
そして昭和的アナログ文化からのデジタル・ナレッジ活用。
これらを組み合わせて、新たな価値を生み出す“再発防止策の新地平”を一緒に描いていきましょう。

製造業に携わる方、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーの立場からバイヤーの思考を知りたい方。
本気の再発防止策が、現場にこそ力を与え、品質革命を生み出す原動力になるはずです。

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