投稿日:2025年7月9日

リサイクルPC+ABS合金V0グレードと家電筐体循環設計認証

リサイクルPC+ABS合金V0グレードとは何か

リサイクルPC+ABS合金V0グレードは、製造業界で近年注目されているエコマテリアルの一つです。
PC(ポリカーボネート)とABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)を混合し、UL94 V0という最上位の難燃等級をクリアした材料を指します。
この素材は、使用済み製品から回収したプラスチック(リサイクル原料)を主成分としつつ、新品同様の性能と耐久性、さらに安全性を実現しています。

この分野は、昭和から続く日本の製造業界でも従来のバージン素材主義から脱却し、サステナビリティやSDGsへの取り組みとして強く根を張り始めています。
従来型の材料選定とは異なり、原材料調達から使用後の循環までを視野に入れたライフサイクル思考が求められます。

UL94 V0とは?家電業界を揺るがす安全基準

UL94 V0は、難燃性プラスチックの中で最も高い安全基準の一つです。
具体的には、垂直に火を当てた場合でも、火が消えた後10秒以内に燃焼が停止し、燃えかすの滴下が発火しないことが条件となっています。

家電製品やIT機器の筐体は、発熱部品や電気回路が多用されるため、燃え広がりを防ぐ必要があります。
そのため、家電大手やTier1サプライヤーでは、V0グレードの導入が取引条件となることも増えています。
この背景には、火災事故のリスクマネジメントやグローバルでの法規制(RoHS、WEEE、米国CPSCなど)も関わっています。

リサイクル素材×高難燃性の課題:現場目線のリアル

これまでは、リサイクル原料を使うと機械的強度や難燃性のばらつき、外観品質の低下が課題でした。
私自身が現場で体験してきた最大の壁は、“再生材のトレーサビリティ”と“ロット間品質の安定”です。
昭和時代から「新品が一番」「リサイクル材=安かろう悪かろう」という思い込みが強く残る現場では、切り替えに抵抗感がついて回ります。

しかし、近年では複合材料メーカーが独自の配合・加工技術を確立。
特殊な混練工程や添加剤の最適化により、バージン材同等かそれ以上の品質を持つリサイクルPC+ABS合金が登場しています。
現場では、各設備ごとに混練温度やスクリュー回転速度を細かく管理し、検査部門ではロットごとの「燃焼テスト」と「外観評価」を徹底的に行っています。
不良の初期流出も“工程内の見える化”と“早期検知アラーム”をITと組み合わせて行うのが主流になりつつあります。

循環設計認証とは?サーキュラーエコノミー時代の新たな物差し

日本でも2020年代に入り、「循環型社会」の実現が国家政策となり、家電メーカーは“循環設計認証(サーキュラーデザイン認証)”の取得・公開を強化しています。
循環設計認証とは、単にリサイクル材料を使うだけでなく、「設計時から分解・回収・再生を前提にした製品設計」を条件とする認証です。

この認証取得には、以下の要素が求められます。

1. パーツごとの分離・再利用設計

ビス止めやカシメではなく、容易に分解・選別可能なジョイント設計が評価されます。
現場では、部品ごとの色分け・材質マーク付与、再使用を見越したモジュラーデザインの導入が進行中です。

2. 素材選定時のLCA(ライフサイクルアセスメント)導入

材料調達から製品廃棄までCO2排出量や資源消費量を数値化し、低負荷なサプライチェーンを組み立てる必要があります。
従来の「品質」「コスト」「納期(QCD)」に「環境負荷=E」を加えた、いわゆる「QCDE」の観点でバイヤーが評価する時代です。

3. 材料トレーサビリティ・サプライヤー管理

リサイクル材使用率や調達元、品質データを一元管理。監査時には電子証跡やサンプル材管理の徹底が求められます。
これまであいまいだった“調達現場の管理レベル”が見える化され、バイヤー・サプライヤー双方の信頼性が問われるようになっています。

現場目線で考えるサーキュラー経済のインパクト

循環設計認証の取得やリサイクル材の利用は、サプライヤー・バイヤー双方に大きな変革をもたらします。

バイヤー(メーカー購買部門)の目線

バイヤーは、安定供給とコストダウン、加えてサステナビリティ評価を重視します。
ですが、自社ブランド価値向上や得意先からの高まるサステナ要件に対応するため、回収サイクル設計を含めた長期的なパートナーシップ(戦略的調達)が主軸となってきました。
「調達価格」だけでなく、「トータルバリュー」としてLCAや社会的信用度を評価する指標が重視されています。

サプライヤー(部材供給元)の目線

サプライヤー側は、従来の「大量・安定供給」のみならず、「高度な分別技術」や「環境対応認証」「透明なロジスティクス管理」が差別化要因になります。
また、「製造現場で再生材が使いやすい形態・粒度の調整」や、「納品ロットごと資源循環証明の添付」など、これまでにないコミュニケーションが求められます。

昭和的アナログ体質とデジタル・グリーン革命の間で

製造現場は今、“アナログ的な現場力”と“デジタルやサステナ要件”の間で揺れ動いています。
昭和時代から続く熟練技術や現場勘は、依然として品質安定に不可欠。その一方で、グリーンマテリアルや循環設計認証取得のためには、IoTによるトレーサビリティ、AIによる品質検査自動化、エコ材料のDB共有など、デジタルの力が欠かせません。

多くの現場では「新旧融合型の教育」「現場勘と数値評価の両立」を実現するため、生産技術者や購買・品質部門の再教育・クロストレーニングが急ピッチで進められています。
失敗・試行錯誤を許容し、アナログ現場を改革する“現場イノベーター”の存在が不可欠です。

バイヤーやサプライヤーに求められる今後のスキル・視点

これからの製造業、とくにリサイクルPC+ABS合金や循環設計認証を軸にした分野でバイヤーやサプライヤーに求められるのは、単なる資材調達・供給だけではありません。

・サーキュラー経済全体を俯瞰し、上流〜下流まで自社の立ち位置を説明・提案できる力
・LCA評価、グリーン調達基準など新しいバリューチェーンを理解し、トレーサブルな管理スキル
・最終顧客の視点を想定し「社会価値」「ブランド価値」の提案ができるコミュニケーション力

また、デジタル化(AI、IoT、ブロックチェーンなど)の波が押し寄せる今、“データと現場力の融合”が不可欠です。
昭和以来の製造現場力を守りながら、新しい時代の要請に応えていけるしなやかさが問われています。

まとめ:循環型社会を牽引する“現場力×イノベーション”

リサイクルPC+ABS合金V0グレードと家電筐体循環設計認証は、単なる素材や規則の話ではありません。
製造業の現場一つひとつで「持続可能性」「顧客価値の最大化」「現場止まりでなく社会全体に開かれたものづくり」が求められる、“新しい製造業の地平線”を指しています。

アナログの強みとデジタルツール、現場の勘どころとLCA・科学的評価を行き交わせながら、現場から社会変革を起こしていく――。
それこそが、昭和から令和へと生まれ変わる製造業が担うべき役割です。

新しい時代を切り拓くみなさんとともに、私は現場で得た知見を惜しまずシェアし、ものづくりの未来に貢献したいと強く願っています。

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