投稿日:2025年8月17日

部品点数を削るプラットフォーム化で派生機種の原価を段階的に落とす

はじめに:製造業の永遠の課題「部品点数」と原価低減

製造業の現場では常に原価低減が至上命題とされています。
中でも部品点数の削減は、工程短縮やコストダウン、トラブル削減、品質安定といったメリットをもたらす重要なテーマです。

一方で、日本のものづくりの現場、とりわけ昭和時代から続くアナログ文化が色濃く残る業界では、従来のカスタム志向や多品種少量生産体制が変わらぬまま、ムダな部品点数が肥大化し、サプライチェーンの負荷増大やサプライヤー管理の煩雑さを生んでいます。

そこで注目すべきが「プラットフォーム化」による部品点数の体系的削減です。
プラットフォーム化は欧米の自動車産業ではすでに主流になりつつありますが、日本の産業界でもこの考え方を一段階深め、単なる共通化や標準化の枠を超えて、製品チェンジや派生モデル展開において原価を段階的に落とす、という「攻めのソリューション」として活用する動きが徐々に広がっています。

本記事では、部品点数削減のためのプラットフォーム化の現場メリット、具体的な導入方法、バイヤー・サプライヤー目線でのポイントや注意点、そして業界動向を、現場経験に根差しながら徹底解説します。

プラットフォーム化とは何か?その真髄に迫る

単なる「共通部品化」ではない、戦略的思考が重要

プラットフォーム化という言葉は、しばしば単なる部品の共通化、標準化、モジュール化などと混同されがちです。
しかし真の意味でのプラットフォーム化は、「製品仕様の異なる派生機種に対して、極力多くの部品やサブシステムを共通利用し、開発~生産~保守に至るまでのサイクル全体を効率化する」という、より俯瞰的かつ戦略的な設計思想を指します。

たとえば自動車であれば、車体の骨格やサスペンション、エンジン部分などを複数車種で共有しながら、外装やインテリアなど一部の設計にだけ個性を出すという考え方です。
これにより、個々の派生モデルごとに一から設計・部品調達・生産立上を行う必要がなくなります。

なぜ今、部品点数の削減とプラットフォーム化なのか

コストの高騰、納期短縮、サプライチェーン混乱、熟練工不足、多品種少量への対応、といった製造業の現場を取り巻く課題はますます切実になっています。
今の時代、旧態依然とした「開発毎に全てをゼロから設計」「部品も個別手配」「組立現場での複雑化」では、生産効率も原価も頭打ちになるばかりです。

派生機種開発が常態化している業界こそ、プラットフォーム思考で部品点数削減を図り、段階的低コスト化へ発展させることが生き残りの条件になります。

部品点数削減がもたらす現場の革新と、その具体的効果

現場目線で見る「部品点数削減」のインパクト

部品点数削減の主な効果をあらためて整理します。

・調達購買の作業工数・管理コストの削減
・受入検査工数の削減、品質トラブル発生源の抑制
・在庫スペースの削減、棚卸しの効率化
・組立工数の削減、工程単純化による生産性UP
・共通部品の大量購買によるスケールメリット活用
・生産設備・治具の共用化、段取り替え工数の減少

特に熟練工不足で現場リソースが枯渇しがちな中小工場では上記の効果は絶大です。
また、調達購買の観点では、サプライヤーとの取引関係を絞り込み、品質保証契約や価格交渉もよりストラテジックに進めやすくなります。

副作用:設計現場との歩調合わせと顧客ニーズへの適応

ただし、共通化ばかりを重視すると、個々の顧客ニーズに対し「個性が出せない」「必要な仕様にできない」といった制約も生まれます。
開発段階では設計者が共通部品利用に消極的になるケースもあり、ここは現場サイドと設計部門との協働・合意形成が不可欠です。
また、派生機種での仕様追加・特殊要望への柔軟対応策も事前に組み込んでおくことが成功のポイントです。

派生機種での段階的原価低減の実践例:導入事例から学ぶ

自動車・家電など先進業界のベストプラクティス

・自動車:A社はBセグメント車を「共通プラットフォーム」で設計し、エンジン、フレーム、電子制御部品、ワイヤーハーネス等を変えずに、車種ごとのデザインや装備だけを変更。5車種で部品点数を3割削減し、原価率も平均1台あたり8%低下。
・家電:C社は洗濯機の主要ドラムやモーター、電子制御ユニット、配線レイアウト等をすべて共通部品化してシリーズ展開。
シーズンごとに新モデルを追加する時も2割以上低コスト化、開発リードタイムも半減を実現。

部品サプライヤー側のメリット・変化

共通化によって納入量が増えることでサプライヤーは規模の経済が働き、受注安定化や生産性向上が狙えます。
また個別仕様に振り回されず、標準品としての安定的なビジネス運営が可能になります。

しかし、一方で「専用部品」ビジネスが減る・単価下落圧力が増す側面も。
長期戦略としては汎用性高い部品の品質向上、コストダウン、納期厳守の徹底、及び新技術提案でプラットフォーム戦略へ能動的に関与する意識が必須です。

業界意識改革と昭和的アナログ文化の壁

部品共通化やプラットフォーム化への意識は大手ほど進んでいますが、中小や伝統産業になるほど
・「いつも通りでいい」「個別化で顧客に寄り添う」
・「情報漏洩が心配。複数分けて発注したい」
・「現場の暗黙知で部分最適」
といったアナログ的志向が根強く残っています。

プラットフォーム化というと欧米的な論理に思われがちですが、日本流の「現場の目利き力」「部品メーカーとの強固な信頼」を活かしつつも、時代の変化やデジタルシフトの波を取り入れる柔軟さが不可欠です。

派生機種原価低減のためのプラットフォーム化導入ステップ

現場主導で進めるための実践ロードマップ

1. 全製品の部品使用状況を「部品点数」とともに一覧化し、類似モデル間での共通部品探索を徹底
2. 品番統合候補リストを設計・調達・生産・QA部門と合同レビューし、共通部品設計への合意
3. サプライヤーと交渉し、共通部品化による量産調達・コスト政策を共同検討
4. 段階導入(例えばまず新機種、次に既存機種への適用等)による効果・リスクの見える化
5. KPI(部品点数、コスト低減率、リードタイム短縮)管理と、社内外へのフィードバックループ

ポイントは現場主導の小さな成功体験を積み、設計・調達・サプライヤー全体を巻き込むことです。
当初は一挙全面導入ではなく「部品共通率50%」「費目Aだけ先行」など小さなゴールから着実に進めましょう。

バイヤー(購買担当)に求められる役割進化

従来の調達購買職は単なる価格交渉や在庫管理が主でしたが、今後は
・構想設計~試作段階からの共通部品提案
・コスト低減シナリオや原価分解力の強化
・サプライヤー経営安定化への寄与
など「部品点数削減による攻めの経営」へのコミットが期待されます。

コスト削減要求一辺倒ではなく、「共通化提案でサプライヤー利益も守る」というWin-Winの姿勢で臨むことが、長い目で自社の利益にも直結します。

部品プラットフォーム化の未来展望と業界動向

デジタル化×部品共通化の先に生まれる新しいものづくり

IoT、3D CAD、クラウドBOM(部品表)管理が進展した今、部品点数の俯瞰視・横串最適化は格段に進めやすくなっています。
一方、AIによる設計補助・最適部品探索、データドリブンな需要予測等も今後益々活用されていくでしょう。

部品点数削減×デジタルものづくりの加速で、
・小型・高機能化
・サプライチェーンの強靭化
・脱炭素(省資源・省エネ)への寄与
といった新しい価値提案が可能になります。

「カスタマイズ可能なプラットフォーム化」への進化

欧米では「モジュラー・プラットフォーム」を起点としつつ、顧客ごとに特性変更できる「マスカスタマイゼーション」への動きが加速中です。
日本の製造業も落としどころは「共通化一辺倒」ではなく、「ベース共通、表層カスタム」が新常識になるでしょう。

まとめ:原価低減は「部品点数」×「プラットフォーム思考」で再定義を

従来の部品点数削減活動は「コストダウンのための部分最適」止まりでしたが、今必要なのは
「全体生産システム最適」そして「派生機種展開で原価を段階的に落とす」ための、戦略的なプラットフォーム化です。

バイヤーやサプライヤー、そして現場で働く全ての方へ。
今こそ部品点数削減を単なる省力活動から、事業競争力強化・新価値創造の起爆剤に変えましょう。
そこには必ず、次の世代のものづくりが広がっています。

「部品プラットフォーム化は、現場による現場のための進化」。
個別最適の壁を越え、共創によるイノベーションを実現しましょう。

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