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MSAゲージR&Rの再設計で検査過多を減らし品質コストを圧縮する方法

MSAゲージR&Rの再設計で検査過多を減らし品質コストを圧縮する方法
はじめに:なぜマスプロダクションの現場は「検査過多」に陥るのか
製造現場では「検査が多ければ良い」という誤解が根強く残っています。
昭和時代の“全数検査で品質保証”という考え方は、今なお多くの生産現場で続いています。
しかし、これらの検査過多は、実は品質維持にもコストダウンにも貢献しません。
むしろ不要な検査工程を増やし、マンパワーと工数、機器投資の無駄遣いを生んでいます。
グローバル競争が激化し、省人化やDX推進が叫ばれる現在、これまでのやり方を根本から見直すことが急務です。
特にMSA(Measurement System Analysis:測定システム解析)の「ゲージR&R(Repeatability & Reproducibility)」は、見逃されがちな無駄と品質リスクの温床になりやすい領域です。
本稿では、20年以上の現場経験で養った知見と、ラテラルシンキングによる新たな視点を交え、MSAゲージR&Rの再設計によって検査過多を削減し、品質コストを圧縮する方法を詳しく解説します。
MSAとゲージR&Rとは何か?現場視点での基礎知識
まず、MSAは製造現場の品質保証基盤を支える「測定システム分析」のことです。
この中でも、ゲージR&Rは“検査機器の信頼性”を評価する重要なプロセスです。
ここが不十分だと、不良品が見逃されたり、逆に良品までNG判定されるなどの問題を起こします。
ゲージR&Rは「Repeatability(繰り返し精度)」と「Reproducibility(再現性)」を測定します。
一つの製品を同じ検査員が同じ条件で何度計測しても結果が安定するか?
異なる検査員、異なるシフト・タイミングで測っても同じ値になるか?
これが十分にコントロールされているかを数値的に解析します。
現実の現場では「わかっているけど忙しい」「機器のクセがある」「人が変わると値がズレる」など、理屈通りにいかない場面が少なくありません。
この現場ギャップをどう乗り越え、検査のムダをそぎ落としていくか。
MSAの深掘りが不可欠です。
検査過多の本質的な問題点とは
検査過多がもたらす最大の悪影響は「現場リソースの圧迫」と「真因不明の品質問題が増える」ことです。
現場でよくあるケースが「不良流出リスクを恐れ、現場リーダーが自発的に検査数を増やす」というものです。
または「過去トラブルの再発防止で上層部が検査強化を指示する」場合もあります。
一時的な安心感は得られますが、根本解決になっていない上に、慢性的な検査マンパワー不足を招きます。
加えて、検査過多の現場では“検査そのものの信頼性”がチェックされていないことが多いものです。
複数の測定器や検査員によるバラツキ・測定誤差が見逃され、実際には「信頼できない測定値」によって工程判定・出荷判定がなされています。
これでは検査の存在意義そのものが失われます。
MSAゲージR&Rの見直しがなぜ重要なのか
ゲージR&Rの見直しは「真に必要な検査を明確化し、無駄な検査工数やコストを圧縮するスタートライン」です。
具体的には、下記のポイントが重要です。
1. 測定機器・治具の適正チェック
古い・不安定な測定機器や、誤解差の大きい治具を継続使用していませんか?
最新機器への更新・校正サイクル見直しで、劇的に再現性が上がることも珍しくありません。
2. 人依存の排除
ベテラン検査員の「カンコツ」や「経験値」に頼る検査体制から、明確なマニュアル化・手順化へのシフトが必須です。
AIや画像処理装置による自動認識、作業指示のデジタル化も強力な武器となります。
3. 過去データの活用
「いつ、誰が、どの機器で、どんなバラつきがあったのか」過去トラブル履歴や、設備・人員ごとのR&R分析結果をもとに現状を客観視しましょう。
属人的な「なんとなく安全・なんとなく不安」の空気感から脱却できます。
4. 検査工程自体の再設計
ムダな中間検査やワークインプロセス(WIP)で多重管理されていないか見直します。
「この検査は今も必要か?」「本当に測定精度は担保されているか?」ひとつひとつが再設計のポイントとなります。
現場主導で実践するMSAゲージR&R再設計のプロセス
実際にMSAゲージR&Rを再設計していくプロセスを、現場ヒアリングから展開していきましょう。
1. 検査の全体フローと目的の見える化
まず「なぜ今この検査が必要なのか」「そのデータで何を判断するのか」を現場作業者・管理者・QA担当が同席してブレストします。
ここは「昭和の空気」に引きずられず、ゼロベース思考とファシリテーションが重要です。
2. 測定システム(人・機械・治具)の現状調査
実際の検査記録、機器性能表、作業動画等をもとに現状課題(バラツキ源、ムダな繰り返し測定、指示ミス等)を洗い出します。
3. R&R評価の実施と数値化
代表サンプルを使って、複数の検査者・機器・時間帯で繰り返し測定。
その揺らぎ(測定差、再現性)を数値化。
AI判定や自動検査へ移行できる部分がないかも同時検討します。
4. 改善策の提案とテスト
例えば「手作業工程を画像検査ラインへ置き換える」「マスターワークの管理方法を見直す」「機器更新を提案する」など。
現場テストで実効性・省人効果・コストインパクトも試算します。
5. 新しい検査体制の運用と教育
改訂版手順書・訓練プログラムの整備。
旧来型リーダーやベテラン技能者の巻き込みも工夫が必要です。
現場の不安や疑問にもきちんと向き合い、なぜ再設計が必要なのかを伝えていきましょう。
実践事例:現場力×MSA再設計で大きな効果を生んだケース
実際に私が体験した製造現場の事例をご紹介します。
ある精密部品工場では、全数複数回の寸法検査が常態化していました。
検査員一人ひとりによる判定バラツキが大きく、ベテラン頼みの運用に限界を感じていました。
ここにMSAのゲージR&R分析手法を導入し、装置ごと・人ごと・治具ごとに繰り返し測定データを取得。
結果、従来のノギス検査は「繰り返し精度」が極めて低く、最新の接触式ゲージへの切り替えで人依存のバラツキが激減することが判明しました。
この改善で、工程検査員は2割省人化、平均測定時間も半減。
さらに不要になった中間工程検査を一本化したことで、年間で数百万のコスト削減に成功しました。
現場ヒアリングによる「なんとなく守っているルール」や「暗黙の検査作業」を大胆に洗い出し、MSAの科学的アプローチと現場力の融合が大きな成果につながりました。
バイヤー・サプライヤー目線でのMSA推進のポイント
購買担当やサプライヤーの方にとってもMSAの理解と主導は大きな武器となります。
・サプライヤー管理においては「MSA透明性・R&R指標の明示」で相互の信頼感が増します。
・サプライヤーが「単なる追加検査」で対応しがちな不良再発防止策も、MSA起点から「原因特定・工程改善」までレポートを巻き戻して提案すれば、バイヤーからの評価は格段に上がります。
・QCD(品質・コスト・納期)バランスの交渉にも「不要な検査工数分のコスト削減余地」や「検査省略による納期短縮」などで建設的な提案ができます。
バイヤー転向者、サプライヤー営業・品質担当者も、ぜひ科学的なMSAアプローチのスキルを磨いてみてください。
アナログ現場を止めない!MSA再設計×DXのすすめ
いまだアナログ色濃い現場でも、ちょっとした一歩が品質・コストの劇的な改善を生み出します。
MSA解析結果に基づき、画像判定AIやIoTセンシング、クラウド型検査記録システムの導入を順次進めてみましょう。
「まず一工程だけ」「マスターワークだけ」「課題が多い工程から」などスモールスタートがおすすめです。
現場とDX推進部門が連携し、検査工数データや省力化効果も定量化すれば、経営陣・スタッフの納得度も上がります。
まとめ:昭和的「安心感」から科学的「品質管理」へ
MSAゲージR&Rの再設計は単なる検査工程の見直しを超え、現場力と品質の本質を磨き直すための強力な手法です。
「全数検査・念のため検査」から脱却し、
「本当に必要で効果的な検査」へのパラダイムシフト。
この地道な積み重ねが、グローバル競争力と利益体質を築く基礎となります。
現場、技術、経営のすべてを巻き込み、
「なぜ、それを測るのか」「何のために検査するのか」
この問いかけを忘れず、次世代の製造現場を共につくっていきましょう。
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