投稿日:2025年8月13日

積層金型や焼結インサートの活用で立ち上げ短縮と初期費を同時に圧縮

はじめに:製造業の現場が抱える「立ち上げの壁」と「コスト」のリアル

製造業の現場では、新規部品や製品の生産立ち上げ時に、必ずと言っていいほど「納期の短縮」と「初期コストの抑制」という二大テーマが立ちはだかります。

とくに金型を必要とする部品製造の分野では、従来のプレス金型や樹脂成形金型の製作リードタイムとコストが、設計部門・生産部門・購買部門・そしてサプライヤーの全関係者の頭痛の種になっています。

「新製品をいち早く市場に投入したい」「でも初期投資は最小限に抑えたい」「変化対応やトライ&エラーのサイクルを速くしたい」

こうした課題に、これまで「昭和型の手作業&アナログ思考」が蔓延する日本の製造業界は、一気通貫の革新をなかなか起こせずにきました。

ですが、積層金型や焼結インサートといった新たな製造プロセス・金型製作のテクノロジーがここ数年で現場実装が進み、一部の先進現場が実際に生産立ち上げ短縮と初期費圧縮という二兎を同時に追いはじめています。

この記事では、約20年にわたり調達購買・生産管理・工場長職などを歴任してきた現場目線で、その「積層金型」「焼結インサート」の実践活用例と導入効果、そして導入時に留意すべきポイントを徹底解説します。

積層金型とは?――デジタル時代の“切り札”となる新しい金型製作手法

積層金型の概要と特徴

積層金型とは、金属板(主に薄板)をCAD/CAMで設計されたデータに基づいてレーザーカットなどで一層ずつ形状を打ち抜き、それを積み重ねて最終的に金型構造を作りあげる手法です。

従来型のマシニング加工や放電加工による「削り出し」とは一線を画し、短納期・低コストでの試作金型開発を可能にします。

また、一部は3Dプリンター(粉末積層金属造形)による形状複雑化・一体化も可能となり、線材積層などと併用して“柔軟”な金型設計が現場レベルで実現する時代になりつつあります。

なぜ今、積層金型なのか?

1. CAD設計データから直接製作できるため、図面完成から金型完成まで最短数日という圧倒的な短納期化が実現します。
2. 複数回のトライ&エラーが容易になり、設計変更やカイゼンを現物レベルですぐに適用できる柔軟性が生まれます。
3. 専用の金属積層技術・材料を使うことで、量産まで見据えた耐久性や加工精度も段階的に確保できるよう進化しています。

たとえば車載用コネクタや精密プレス部品、樹脂成形用インサート部品の試作金型や、初期ロットの多品種少量生産において、積層金型がすでに日常的に採用されている現場もあります。

初期費圧縮へのインパクト

積層金型の最大の恩恵は、治具費や金型投資額の大幅な圧縮です。

従来、削り出しでつくる金型は数百万~数千万円規模の初期費用、トライ&エラーごとに数週間の納期が必要でした。

積層金型なら一式数十万円、リードタイムは一週間程度も可能なケースも出ています。
その都度の微調整もカット&積層の簡易修整で済むため、結果的に費用対効果が大幅に向上します。

焼結インサート技術:難加工部位・高付加価値への確実なアプローチ

焼結インサートとは?

焼結インサートは、一般的には金型のコア部や摩耗しやすい箇所に焼結技術(粉末冶金で特殊合金などを成形・焼き固める)を用いたパーツを配置する技術です。

これにより、耐摩耗性に優れたコアや複雑な機能を持ったピン・スライド部品などを従来品とは比べものにならないほど低コストで短納期に調達できます。

また、焼結材ならではの特性(高硬度・耐食性・耐摩耗性・コスト優位性)が同時に得られるため、樹脂成形用金型やプレス金型など各種分野で急速に採用が進んでいます。

焼結インサートの現場効果

摩耗の激しい金型部には、従来は超硬合金や粉末ハイスなどの特注パーツが使われてきました。
これらは材料費・工数ともに高くつき、月単位の調達リードタイムも発生しがちでした。

焼結インサートを活用すると、設計自由度が一気に向上し、特注形状や空冷・通水冷却経路を内蔵した複雑コアも焼結技術により一発成形できるため、設計変更リスクや予備在庫のリスクを大きく減らせます。

また、摩耗部だけを最小限で補修交換できるため、金型全体のライフサイクルコスト(LCC)も圧縮につながります。

調達購買観点での革命的メリット

バイヤーとして調達先サプライヤーを評価する際、「開発初期コスト」「リードタイム」「設計柔軟性」「メンテナンス性」は重要ファクターです。

焼結インサートを上手に織り込んだサプライヤーを活用すれば、金型部品調達の流れが劇的に効率化するだけでなく、「トータル最適」を安定して提案できるようになります。

特に日本の大手自動車メーカーや家電メーカーでは、サプライヤー間で“価格以外の価値(納期対応・提案力)”を重視する傾向も強まっており、焼結インサートを採用することで一歩先を行くバイヤー/サプライヤー連携も可能です。

積層金型・焼結インサート活用の現場実践例

ケース①:樹脂金型の立ち上げ短縮とコスト低減

たとえば医療機器部品メーカーでは、新製品部品の小ロット初期生産時に積層金型+焼結インサートを組み合わせて導入した事例があります。

・金型設計から初期トライまでは従来2か月要していましたが、積層金型なら10日程度で現物製作→初回成形試作が可能
・摩耗箇所は焼結インサートを導入し、金型の局所部分のみを交換可能に
・全体初期費は従来比で約60%ダウン、生産初期でのカイゼンPDCAも加速

このケースでは、現場リーダー~設計部門・調達部門・サプライヤーが一体となり、「導入効果」を事前に試算し、既存ルール(承認・管理基準)の見直しもスムーズに進めています。

ケース②:自動車部品の試作・量産スムーズ化

自動車業界では、開発スピードとQCD(品質・コスト・納期)の維持が最大のテーマです。

ある先進サプライヤーでは、積層金型を積極導入してプロトタイプ⇒量産切り替えまでのリードタイム短縮に成功し、さらに焼結インサート部材でトライアウト工数と在庫リスクの削減も実現しています。

この現場では、設計部門が「積層&焼結技術ならではのメリット」を事前に認識し、金型設計段階から「修正しやすさ」「摩耗部の交換容易性」「工程シミュレーション」の3点を重視して設計・調達プロセスを再設計しました。

結果、新モデル乗せ替え時のトライ&エラーサイクルが半減し、初期コストは従来比70%まで下げることができました。

昭和型現場のアナログ思考から抜け出すには?

積層金型や焼結インサートといったデジタル・DX型金型技術は、これまで「日本の現場の暗黙知」や「手作業信仰」「経験重視の職人気質」が深く根付く現場ではなかなか導入が進んでいませんでした。

ですが、働き方改革による人手不足・生産性向上プレッシャー、そしてコロナ禍以降のサプライチェーンの分断リスク増などを背景に、現場側も「今ある技術に柔軟に挑戦する」「既存ルールをアップデートする」姿勢が強まっています。

現場リーダー・調達購買担当者・設計者が「失敗を前提に回すカイゼンサイクル」と「トータル最適で再定義された初期費用評価基準」を持ち込めるかどうかが、改革を進めるうえで最大のカギとなるでしょう。

活用を検討する際に押さえておきたいポイント

・全ての型・部品で即座に適用可能なわけではありません。高精度・極小部品や超寿命金型など、事前に技術的適合性の確認が必須です。
・サプライヤーへの技術教育・評価・継続的なコミュニケーションが成功の鍵。事前試作やベンチマーク、提案力を重視しましょう。
・従来型購買ルールの見直し(コスト算定基準、試作段階でのROI評価など)を行い、全社最適な導入体制を作ることが不可欠です。

まとめ:積層金型と焼結インサートで製造業の未来を切り拓く

積層金型や焼結インサートは、生産立ち上げ短縮と初期費の圧縮――つまり“Time to Market”と“初期投資パフォーマンス”の両立が、現場レベルで現実的に狙えるテクノロジーです。

昭和型アナログ思考が根強く残る日本の工場においても、調達・購買担当が「業界トレンド」「技術革新」「現場マネジメント」を横断的に理解しながら導入をリードしていくことで、中長期の企業競争力は必ず向上します。

これから製造業に携わる方、バイヤーやサプライヤーの立場を問わず、積層金型や焼結インサートという新たな“現場発イノベーション”を自社の「当たり前」に進化させていくことが、これからのものづくりの未来を切り拓いていく第一歩です。

最初は小さな導入からでも、ぜひ現場とともにチャレンジを始めてみてください。

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