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予備品・補給品の分類見直しでMRO在庫のデッドを削減

目次
MRO在庫のデッドストック問題とは何か
MRO(Maintenance, Repair and Operations)とは、設備や生産現場を維持・補修・運用するために必要な資材や部品、消耗品などを指します。
典型的な例としては、機械のベアリング、ボルトやナット、潤滑油や洗浄剤などが挙げられます。
製造業の現場では「作る」ための資材調達と同様に、このMROも極めて重要な役割を持っています。
しかし多くの現場では「いざという時に必要になるかもしれない」という理由からMRO部品を過剰に在庫し、そのまま長期間使わずに放置しがちです。
この放置された在庫を「デッドストック」と呼び、資産圧迫・倉庫スペースのロス・現場混乱の要因となっています。
とりわけ昭和時代から続く現場文化では、「念のため取っておく」「昔からそう決めている」という理由で精緻な在庫コントロールがなされず、デッドストック問題が慢性化していることも少なくありません。
これを解決する一つの鍵が、「予備品・補給品」の分類見直しにあるのです。
予備品・補給品の違いと混同から生まれる課題
そもそも現場のストック品には2つの大きなカテゴリがあります。
それが「予備品」と「補給品」です。
予備品とは
予備品は設備部品など、重大な故障や異常発生時に即時交換できるようストックしておくものです。
例えば大型モーター、PLC(プログラマブルコントローラ)基板、圧縮機の重要部品などが挙げられます。
これらは納期が長かったり、調達が容易でないことが多いため、万一のため現場すぐ近くに保持することが多いです。
補給品とは
補給品は消耗によって日常的に交換・補充するものです。
ガスケットやパッキン、小型の潤滑油、Oリングや溶剤などが該当します。
比較的入手しやすく、使用頻度も高いため、定期的な管理と補充が求められます。
混同と現場リスク
この二つの分類が現場で明確になっていないと、様々な問題が発生します。
例えば、補給品にもかかわらず「念のため」と過剰に抱え込み、必要量以上の在庫が積み上がる。
また逆に、必要な予備品が「いつでも補充できるから」と油断していて、緊急時に手元にないといったリスクにつながります。
現場主導でアナログな管理が続いていると、「どちらか一方を優先」「基準が曖昧」という事態が起きがちです。
これが結果として、デッドストック(不動在庫)を膨張させているのです。
なぜMRO在庫はデッドになりやすいのか
なぜMRO在庫は、生産用とは異なり「使われずに眠る」デッド在庫化しやすいのでしょうか。
その主な要因を、現場目線で紐解いていきます。
1. 過去トラブルのトラウマによる「念のため心理」
過去に調達トラブルや納期遅延で痛い目に遭った経験がある現場責任者ほど、「念のためストックしておきたい」という心理が強く働きます。
機械が止まってしまった時の生産損失は莫大で、「在庫があってよかった」と胸をなでおろした思い出ほど強烈に記憶されます。
現場の不安が強いほど、どうしても過大な予備品・補給品の抱え込みへとつながります。
2. 管理基準の属人化・口伝化
「去年もこれだけ入れてたから今年も同じだけ仕入れておこう」
「資料はないけど、ベテランがそう言っていたからそうしている」
こうした属人管理・経験則管理が定着している場合、適正在庫の見極めがなされず、用途不明・型番不明のまま棚に放置された品も増えていきます。
在庫台帳やシステムが更新されておらず、交換時期も調達責任者の「頭の中」だけ、といった状況が珍しくありません。
3. サプライヤー側からの押しつけ在庫提案
取引サプライヤーや商社担当者が「今月、これ入れておかないと値上げされます」「まとめて買えば割引です」などと提案し、現場了承のもと一括大量調達するケース。
実際には、消費ペースが読みきれず余剰在庫化することも多いのです。
4. 部品の陳腐化・仕様変更リスク
電装品や機密部品などは、メーカー側の都合で仕様変更・型式廃止が突然発生することがあります。
そのため「今のうちに買いだめしておこう」と保有数を増やす一方で、現行機種には合わなくなり、いつの間にか「使えない予備品」として残ってしまいます。
在庫デッド問題の社会的インパクトと業界動向
経営的観点から見ても、MRO在庫のデッドストック問題は深刻です。
倉庫の維持コスト・資産価値の目減り・現場スペースの圧迫・BCP(事業継続計画)の観点でも無視できません。
2020年代以降、原材料高騰や国際物流不安などで製造業各社は「カンバン方式一辺倒」から、「ある程度の緊急在庫確保」へと舵を切る場面も増えました。
一方で過剰在庫=キャッシュフローの圧迫という側面もあり、今後は保守予備品の在庫最適化、そのための仕組みづくりがますます重要になります。
最近では、小ロット即納体制の強化・3Dプリンティングによる現地現物即時調達・AIによる使用予測など、業界全体で「適正在庫化」への取組みが始まっています。
しかし一朝一夕では昭和から続く「在庫は正義」文化から脱却しきれないのが実状です。
予備品・補給品の在庫分類見直しの実務手順
どうすればMRO在庫のデッドストックを減らし、最適化につなげられるのか。
ここでは、実際の現場で有効だった運用プロセスを紹介します。
1. 現状の在庫仕分け・可視化
まずは在庫台帳を最新化し、現物とデータを100%一致させる「棚卸し・現物照合」から着手します。
そのうえで、各部品・資材ごとに
「緊急予備品」
「計画補給品」
「使用不明・用途未特定」
にシールやタグでカラー管理します。
現場全員で実態を目で見て理解できるようにすることが肝要です。
2. 仕様・用途・ライフサイクルごとの分類
品目ごとに「なぜ必要なのか」「何年使うのか」「次回調達までどの程度納期かかるのか」を分析。
とりわけ大型設備更新時期や廃止予定案件に紐づけ、持つべき予備品と不要在庫を洗い出します。
このプロセスには、現場オペレーター・保全・調達・サプライヤー、全員の知識を持ち寄ることを推奨します。
3. 使用頻度・調達リードタイムを加味した最適在庫設定
過去の実績や必要頻度、発注納期のデータから「これだけあれば安心」「これ以上はただの負債」というラインを明確に定めます。
ABC分析やアナログなエクセル管理でも構いません。
多少保守的でも構わないので、まずは「持つ」「持たない」の基準を決め、継続的に見直していく運用が重要です。
4. 期限・状態管理とリスト化で棚卸し文化の定着
次に、特定部品や消耗品に期限表示・状態確認のルールを設けます。
例えば「購入後3年以上経過の端子台は年1度再確認し、不要なら廃棄・リサイクルへ」など、明確な棚卸し周期表を設定します。
リスト化して抜け漏れを防ぎ、現場の“暗黙知”を“形式知”に変換することがデッドストック抑制の要です。
バイヤー視点で考える在庫分類見直しの発展的アプローチ
調達・購買担当者=バイヤーの視点でも、在庫分類の見直しは大きな意味があります。
バイヤーの立場では、コスト削減やサプライヤー管理の効率化はもちろん、「現場の不安」をどう解決するかも使命です。
現場ヒアリングによる実情把握
現場担当やオペレーター、保全スタッフから定期的にヒアリングを行い、「なぜこの部品がここに必要なのか」「リードタイムは本当にそんなにかかるのか」と実情を掘り下げます。
サプライヤーにも直接問い合わせを行い、実際の納期・供給状況も随時アップデートします。
サプライヤーとのパートナリング強化
在庫を自社倉庫だけでなく、サプライヤーや商社側のストック機能もフル活用します。
いわゆる「ベンダー管理在庫」(VMI)や「共同保管」(Consignment Stock)といった先進的手法も選択肢です。
サプライヤーと信頼関係を築くことで、「本当に必要な時にだけ必要分」が届く仕組みづくりが将来の姿となります。
リスクベースの在庫管理とIoT活用
AIやIoTセンサーなどを導入する企業も増えています。
「どの設備が近々壊れそうか」「どの部品が次に補充が必要か」といった状況をデータと現場の目で両輪管理することで、緊急時のリスクマネジメントとデッド削減を両立できます。
まとめ:在庫分類見直しで製造現場を強くする
昭和から受け継いだ「安全第一」「念のため在庫」は、確かに過去の生産を支えてきました。
しかし、事業環境が激変する今、「在庫はコストでありリスク」でもあると捉え直さなければなりません。
予備品・補給品の分類見直しと管理ルールの刷新こそ、製造現場の進化の第一歩です。
属人的な管理から、全員参加で見える化・標準化へ。
アナログ的知恵とデジタルの力、バイヤーとサプライヤーの共創を武器に、デッドストックを減らし、しなやかで強い調達へ。
これが新しい時代のMRO在庫マネジメントです。
今こそ現場も管理職も一丸となって、明日に向かうための「在庫改革」を実行しましょう。
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