投稿日:2025年8月17日

補給品と予備品の分類でMRO在庫のデッドを削る

はじめに:MROとは何か、なぜ今見直しが必要なのか

製造業において、MROとは「Maintenance, Repair and Operations」の略称であり、保全用品、補修用品、運用関連の補給品や予備品のことを指します。

生産設備の維持管理に欠かせないボルトやベアリング、工具、保護具、清掃用品から、ちょっとした消耗品である手袋やオイルに至るまで、その範囲は非常に広大です。

MRO在庫の管理は、古くから現場主導の“とりあえず在庫多め”文化が根強く残る領域です。

この体質は、ひとたび設備が停止した場合の損失や、生産スケジュールへの影響を恐れるあまり、過剰な予備品・補給品を抱える体質につながってきました。

現在、人口減少による人材不足、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、原材料価格の高騰といった波が押し寄せる中、MRO在庫の見直しは、コストダウンのだけでなく、サステナビリティや組織力強化の観点からも避けて通れない課題です。

なぜなら、MRO在庫の多くは適切な分類・運用がなされず、いわゆる「デッドストック(死蔵在庫)」を大量に生み出し、工場のスペースやキャッシュフロー、生産性に悪影響を与えがちだからです。

この記事では、補給品と予備品の分類の観点から、MRO在庫のデッドをどう削減すべきか、現場目線で実践的に解説します。

MRO在庫の現場事情:なぜデッドが生まれやすいのか?

長年染みついた“とりあえずキープ”という思考

昭和~平成時代、大手メーカーにおいては「万が一に備えて在庫は多めに…」という暗黙の了解がありました。

設備のメンテ担当者としては、万が一トラブルが発生し予備品が無ければ、緊急調達に奔走するか、最悪の場合はライン停止の責任を負わされます。

リカバリの早さこそ現場力という価値観が根強く残り、現場には属人的な「経験則」に基づく在庫判断が多かったのです。

補給品と予備品:実は分けて管理されていない現実

多くの現場では、補給品(日常運用で頻繁に消費するもの)と予備品(設備の突発的トラブル時のための備蓄部品)を明確に分けていません。

使う頻度・必要数・調達リードタイム・重要性の違いを整理せず、一箇所にまとめて管理してしまっています。

その結果、使い切らず朽ちてしまう部品、いつしか設備廃止で不要になったパーツ、どこの機械の物か不明な在庫まで温存され、棚奥に何年何十年も放置されるケースが珍しくありません。

業界独特の“アナログ管理”とDX化の遅れ

日本の製造業、とくに中堅中小企業や古参工場ではエクセルや手書き帳票管理が多数派です。

在庫の動態を可視化できず「いま、この部品はどこに、いくつあるのか?」という情報が把握できないため、重複発注や使い忘れ、廃棄ロスが発生しやすくなっています。

これらのアナログ管理こそが、“デッド(死蔵在庫)温床”の大きな要因です。

補給品と予備品の違いを現場目線で再定義する

補給品とは:日常に欠かせない「消耗品」

補給品は、定期的もしくは高頻度で必ず消費・交換される品目です。

たとえば
– 手袋、オイル、フィルター、ベアリング、各種工具、ビット類
– 清掃用品、保安用品
– 設備の定期メンテンスで使用する注油剤や潤滑剤

これらは使用推移を分析すれば、かなり正確な「年間消費量」が算出可能です。

したがって、“使った分だけ都度補充”という流れを作れば、過剰在庫も枯渇も防ぎやすくなります。

予備品とは:不定期なトラブルに備える「保険」

一方で予備品は、いつ必要になるかわからないが設備トラブル時に“絶対に無いと困る”部品です。

たとえば
– メイン基板、制御盤部品、モーター、ギア、センサー
– 供給リードタイムが長い海外部品
– メーカー廃番リスクがある特殊パーツ

これらは「使わない期間」の方が圧倒的に長く、不用意に大量ストックすればデッド率が急上昇します。

予備品は、必要最小限だけを「根拠ある理由とともに」持つのが鉄則です。

デッド在庫を削るMRO分類・運用の実践術

1. 使う・使わないの仕訳:現物棚卸を徹底する

まずは現場全体で実際の現物棚卸を実施し、「いま使っている・今後も使う」ものと、「当面使われる可能性ゼロの死蔵品」を仕訳します。

さらに各部門(生産技術/保全/生産管理/調達)に散在している引出し・キャビネット・倉庫を徹底的に“あぶり出す”ことが肝心です。

これだけでも予想以上の“お宝(死蔵品)”が出てきます。

2. ABC分析による優先度付け

仕訳した在庫品を、「使用頻度」や「重要度」「金額」の観点でABCクラス分けすると、優先的に在庫最適化すべきターゲットが見えてきます。

A:頻繁に利用し、絶対に切らせてはいけない(補給品に多い)
B:定期的には使うが、リスク過大にはなりにくい
C:極めて低頻度。そもそも1~2個で十分。老朽化リスクが高い(予備品)

このクラス分けは、在庫削減活動の際「現場の心理的抵抗」を和らげる意味でも有効です。

3. 未来を見据えた“廃止&入替”の合意形成

工場配置替えやライン統廃合、設備の老朽化・代替導入の予定を踏まえ、「10年後も必要か?」の問いを織り交ぜて、保有判断をします。

メーカー廃番品や、将来的に調達不可となるリスク品は、代替品開発も含めた“計画的なゼロリスク管理”がカギとなります。

4. デジタル化による在庫管理の可視化・自動化

現場感覚と経験則だけでは最適化に限界があります。

最近では低コストのクラウド型在庫管理システムやRFID・バーコード活用による実地棚卸・リアルタイム追跡も容易になりつつあり、これを活用することで“見える化によるムダ削減”が一段加速します。

なお、アナログ現場でも「簡易カード運用(カンバン方式)」や「二段ボックス補充方式」だけでも大きな効果が得られます。

サプライヤー・バイヤーが知るべき、在庫最適化で得られる本当のメリット

キャッシュフローと競争力強化への直結

MRO在庫のデッド削減は、単なるコストカットに留まりません。

在庫価値の圧縮=キャッシュフローの改善は、経営体力の強化そのものです。

また、スペースの有効活用により“省人化・自動化領域”の増大、工場全体のクリーンさ向上にも寄与します。

軽視されがちですが、「調達から保全までの現場効率UP=競争力強化」なのです。

サプライヤーもバイヤーも“ウィンウィン“へ

バイヤー側(調達購買)は、こうした在庫見直し活動を通して「サプライヤーへの発注精度」を高めます。

定量的な根拠=データに基づいた発注サイクルや品目仕様の見直し交渉は、適正プライス・納期管理のバージョンアップにもつながります。

サプライヤー側も、デッドになりがちな旧式部品を“積極的にリユース・リビルド“などの提案型営業に生かすことが可能です。

新たなサービスモデル(JIT納品、VMI、サブスクリプション型MRO提供など)も模索できます。

まとめ:MRO在庫最適化は“現場の未来”を作る

補給品と予備品をしっかりと現場目線で分類し、MRO在庫の整理と見直しを進めることは、単なるコストダウンにとどまりません。

“本当に必要なものを、必要なだけ、いつでも使える”現場をつくる——それは、働く環境を変え、未来の工場力を底上げします。

アナログ慣習、属人的な暗黙知にとらわれず、デジタルと現場知を融合させ、デッドを恐れず“攻めのMRO改革”に舵を切ることが、これからの製造プロフェッショナルに求められているのです。

まだまだ昭和が色濃く残るこの領域こそ、新時代の競争力を決定づけるフロンティアです。

一歩踏み出す勇気が、きっと明日のものづくりを変えていきます。

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