投稿日:2025年9月19日

中小製造業との共同物流活用で輸送コストを削減する購買戦略

はじめに:共同物流の必要性と今後の製造業

近年、物流コストは製造業の利益率を大きく左右する重要な要素となっています。

特に原材料や部品の調達において多くの企業が悩まされているのが、輸送コストの上昇です。

ここ数年で燃料費や人件費が高騰し、2024年問題(物流ドライバーの残業規制等)も重なり、従来型の物流手法だけでは限界が見え始めてきました。

大手メーカーですら輸送費の見直しを急ピ進める中、中小製造業にとってはまさに死活問題となりつつあります。

物流網の最適化やデジタル化、そして共同物流という選択肢が、従来のアナログ的思考に頼ってきた昭和世代の製造業にも新たな風を吹き込もうとしています。

本記事では「中小製造業との共同物流活用で輸送コストを削減する購買戦略」と題し、現場目線ならではの実践的な内容と業界動向、そして新たな発想にもとづく、持続可能な調達購買のあり方を深掘りします。

共同物流とは?―共同輸送の仕組み

共同物流の基本的な仕組み

共同物流とは、複数の企業が物流機能や輸送手段を共有することで、一社単独では難しかった輸送効率化やコスト削減を目指す仕組みです。

荷主ごとに個別で行っていた貨物配送を、「同じ方面へ向かうトラックにまとめ乗せ」するイメージです。

運送業者目線では「積載率を高めて無駄な空走や待ち時間を削る」、発注側では「配送料をシェアできコスト圧縮につながる」等、双方にとってメリットが生まれやすい構造です。

昭和のアナログ文化と共同物流の壁

一方、長年アナログ的なやり方が残る中小製造業では「他社と協力するのは情報漏洩やトラブルが怖い」「納期や品質コントロールが難しいのでは」といった固定観念も根強く残っています。

昭和から続く「自社輸送体制へのこだわり」「特定の運送会社との癒着」「毎日決まった時間に決まった便・箱数で納入する安心感」など、共同物流が馴染みにくい現場事情も多いのです。

ただ、こうした従来の発想がもはや時代に合わなくなってきたのも事実です。

必要なのは、「損得やリスクときちんと向き合い、共通便の仕組みを自分たち向けに現実的にカスタマイズする」柔軟なラテラルシンキングです。

共同物流活用のメリット

1. 輸送コストの削減

最大の魅力は「複数社でコストをシェアできる」点にあります。

トラックの積載率が大きく向上し、1パレット・1箱あたりの輸送単価は大幅に圧縮できます。

「うちだけじゃ車両がいっぱいにならない」「毎日納入は不要だけど、週2回まとめても問題ない」など、自社の稼働状況と照らし合わせることでコストインパクトはさらに大きくなります。

2. 融通が利く納入体制の確立

「必ずしも“毎日朝一納入”が正義とは限らない」という気付きも大きなポイントです。

安全在庫、工程見直し、納入サイクルの再設計といった柔軟な思考で “まとめ納入”に舵を切れば、共同配送の頻度を自社都合で調整できるようになります。

結果として「納入の多頻度・小ロット」に頼らずとも、品質や生産性を維持できる現場づくりが可能となります。

3. 環境負荷の低減

無駄なトラック便やアイドリングストップが減り、カーボンニュートラルにも貢献できます。

ESG経営やSDGsを求められる現代では、サステナビリティ面での取り組み強化も非常に大きな評価ポイントとなります。

4. 社内外ネットワークの拡大

共同物流のパートナーシップを通じて、他社調達・購買担当者やサプライヤー間での横断的な情報連携が活発化します。

新たなアイデアや相互支援の輪をつくるきっかけにもなります。

輸送網が「情報網」へと進化するのも、昭和世代が想像しなかった大きなメリットです。

実践的!現場視点から見る共同物流導入の勘所

1. 現状分析と物流データの「見える化」

まずは、自社の現行物流(発注頻度とロット、配送ルート、積載率等)を徹底的に「見える化」すること。

Excelや紙台帳頼み…から脱却し、簡易的な物流管理システムやクラウドサービスを導入するだけでも大きな一歩です。

これにより現場が本当に困っている点、共同物流で解決できそうなボトルネックが明確化します。

2. 取引先・近隣工場への声掛け・共同行動

共通の納入先がある取引先(例えば同一のTier1、同じ工業団地内の部品メーカー)は、もっとも共同物流のハードルが低い相手です。

既存サプライチェーン上の「仲間」として声掛けし、合同のカイゼン活動や定期的なミーティングを設定しましょう。

関西や北関東を中心とした工業団地や、特定地域の中小企業グループでは既にこうした動きが活発化しつつあります。

3. 物流業者との折衝スキル

「運賃値下げ」に頼った交渉はもはや御法度です。

各企業の共同配車による“効率的な便運用”を提案することで、運送会社側もドライバーの働き方改革・積載率向上が実現でき、Win-Winの関係になりやすくなります。

「ダイヤ編成」や「物流コンサル」にも精通した業者は、共同物流実現のためのノウハウも豊富です。

積極的なパートナーシップがカギを握ります。

4. セキュリティ・情報漏洩への配慮

「他社と同じ便にする」際には、荷物の管理(ラベリングや積み付け)、配送ルートのRSA(責任分担)明確化が不可欠です。

現場レベルで細かな管理手順・マニュアルを共通化しておくことで、トラブルリスクは大幅に低減できます。

近年はトレーサビリティ用の簡易ITツール(例:QRコード・IoT荷札)も普及しており、アナログ派現場にも抵抗感なく導入できる環境が整いつつあります。

5. カスタマイズ可能な納入スケジュールづくり

自社工程に柔軟性を持たせることで、共同配送のサイクルやスケジュールを独自に設計できます。

「曜日ごと・時間帯ごとに仕分ける」「段階的に共同輸送範囲を拡大する」といったステップアップ導入もおすすめです。

いきなり全社導入ではなく、まずは一部ライン・一部製品から小規模導入し、段階的に横展開するのが現実的です。

バイヤー目線で考える―サプライヤーに求める共同物流の姿勢

発注者側(バイヤー)の立場としては、サプライヤーとの連携を通じて、安定的かつ効率的な納入体制を整えるのが最大の使命です。

共同物流導入にあたっては下記の点が重要となります。

1. コミュニケーションの密度

納期の柔軟性や出荷タイミングをすり合わせる場面は日々発生します。

「現場を見学したい」「お互いの物流管理体制を理解する」などのオープンコミュニケーションこそ、現代の“良いサプライヤー”への条件です。

2. データ開示による透明性

トラック稼働や積載率、物流KPIなど、数字を共有できる関係性が、無駄のない仕組みづくりには欠かせません。

数値で語れば、不公平感や疑心暗鬼も解消できます。

3. 新規提案型のサプライヤー育成

むしろ「うちは○○社と▲▲便を共同化しているが、御社も一緒にどうか」と逆提案できるサプライヤーが今後は重宝されます。

工場間で情報ネットワーク作りができれば、サプライヤー同士の相互発展にもつながります。

失敗例から学ぶ―導入時の落とし穴と対策

共同物流のポテンシャルは高いものの、決して手放しで成功するわけではありません。

「うまくいかなかった事例」から得られる教訓も押さえましょう。

1. 利益配分・費用負担の不透明さ

共同便の費用負担ルールを曖昧なまま運用すると「うちは得してる?損してる?」と不信感が生まれがちです。

初期段階でキチンと合意形成し、積載量や荷物サイズ等の客観指標を基準に分配ルールを明文化しておくことが重要です。

2. ルーズな納期管理

共同配車に気を取られ、本来守るべき納期が曖昧になれば、本末転倒です。

「共同化しても絶対譲れない基準」と「妥協できる柔軟ライン」をあらかじめ設定し、関係者全員で共有しておくべきです。

3. 一時的なコストダウンのみで満足しない

一過性の値下げで終わらせず、生産性や品質、納入リードタイムの改善まで含めた総合的な指標で共同物流の効果を測る視点が欠かせません。

「毎月の物流レビュー」や「現場レベルで気軽な意見交換会」を実施し、PDCAサイクルを回す現場文化を育てましょう。

今後の展望:昭和アナログからデジタル融合へ

共同物流のノウハウは一朝一夕に身に付くものではありません。

しかし、日本型製造業の強みである「現場改善力」と「横のつながり」を最大限活用すれば、貴社らしい“地に足の着いた”共同物流モデルもきっと実現できます。

一方で、従来の感覚やアナログ志向に固執し続けては、時代の波に遅れてしまうリスクも増大します。

「物流×デジタル」「現場主導×オープンマインド」を合言葉に、今こそ発想の転換が求められています。

まとめ

中小製造業の現場力と粘り強さは、共同物流活用によって今後ますます価値を増していきます。

バイヤー、工場長、購買担当、サプライヤー、それぞれの立場で“つながる”こと、柔軟に情報・リソースを共有すること。

それが、輸送コスト最適化だけでなく、業界全体の持続的成長とイノベーションの礎となるはずです。

昭和のやり方に縛られず、令和らしい協働の知恵で新たな調達購買戦略を描き出していきましょう。

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