投稿日:2025年8月20日

輸入側税関のHSコード差戻しで発生する停滞費を抑える事前教示活用

はじめに:グローバル調達と税関リスク

近年、製造業の現場では原材料や部品の調達先が国内外に広がり、グローバルなサプライチェーンの構築が急速に進んでいます。

このような中、輸入業務における税関手続きは、調達・購買部門にとって避けて通れない重要課題の一つです。

特に、HSコード(関税分類番号)の誤りや税関による差戻しは、製品納期の遅延や倉庫・港での停滞費といった大きなコストリスクを招きます。

今回は、現場目線で見落としがちなHSコード差戻しの実情と、近年注目されている「事前教示」の活用方法について、具体的な現場対応策を交えて解説します。

これからバイヤーを目指す方、サプライヤー側で調達担当者の気持ちを汲みたい方にも役立つ実践的な内容です。

なぜHSコード差戻しが起こるのか?現場での実態

HSコードとは何か?

HSコード(Harmonized System Code)は、世界共通の関税分類番号です。

原材料から完成品まで、すべての貨物は輸入時にこのコードによって税率や輸入規制が決まります。

しかし、似たような製品でも「解釈の余地」があり、用いるパーツの材質や機能、仕様違いによって区分が変わるため、現場ではどうしてもバイヤーやサプライヤー間で認識のずれが発生しがちです。

差戻しの典型パターン

昭和から続くアナログな業界風土では、過去の慣習や経験値で「前年と同じだから大丈夫」と思い込むケースや、サプライヤーから届いたインボイスの記載に頼りきりになっているケースが多くあります。

結果、実際の税関で
・「このHSコードは本当にこの品物に該当しますか?」
・「技術資料を添付してください」
など追加確認や書類提出を求められ、差戻しが発生します。

特に、中国や東アジア諸国からの調達では、技術発展や法改正が速いこともあり、直前まで気づけない分類変更が起きやすくなっています。

停滞費・デメリットのインパクト

こうした差戻しが起きると、通関手続きが数日から数週間遅れ、コンテナの港湾保管費、倉庫賃料、納期遅延による生産ライン停止リスクなど、多額の「見えにくいコスト」が発生します。

場合によっては、生産ラインの停止やクレーム対応でバイヤーもサプライヤーも現場が疲弊し、経営層からの信頼低下につながることもあるのです。

事前教示制度とは?現場で活かすポイント

事前教示のしくみ

「事前教示」とは、輸入手続き前に税関へ商品のサンプル・仕様等を提出し、該当するHSコードの答申を受けられる制度です。

これを活用することで「入港後に税関で止まってしまうかもしれない」といった不安を解消し、不透明だった輸入業務のリスクを大幅に減らすことが可能となります。

日本の税関だけでなく、各国に同様の制度があります。

事前教示のメリット

・税関によるHSコード確認を事前に済ませることで、輸入時の差戻しがほぼゼロになる
・港湾・倉庫での「ムダな停滞費」を大きく削減できる
・バイヤー・サプライヤー間の認識を統一でき、余計なトラブル予防につながる
・「税関公認」の分類根拠が残るため、監査や将来的なトラブル時の証拠にもなる

実際の現場活用方法

筆者が工場現場で実践した例を挙げます。

高機能材料や装置部品など、他品種少量調達が多い場面では「微妙なスペック違い商品」を税関担当と一緒にリストアップし、事前教示の申請チームを設けていました。

数ヶ月先の新規投入部品、過去に止められた苦い記憶のある特殊素材、規制緩和・法改正の直後に仕入れる製品などは、必ず事前教示を徹底。

これにより、突発的な物流トラブルが激減し、「今月の手戻りゼロ達成」にもつながりました。

サプライヤーも知っておきたい!バイヤーが気にしていること

バイヤーの本音:「安全な通関=安定生産」

サプライヤーの立ち位置で考えると、「輸出書類をきちんと作ればいいんじゃない?」と思う方も多いかもしれません。

ですが、実際には輸入側バイヤーの最大の関心は「安定した生産ラインの維持」なのです。

これを実現するには
・事前に正確なHSコード付与
・技術資料や成分証明の早期準備
・法改正情報の共有
など、ミスや遅れを一つ一つつぶす“細かい気遣い”が求められます。

サプライヤー主導の事前教示サポート

取引開始時、「現地ではこう分類されているが本当にOKか?」「ここ数年、HS分類のトラブルはなかったか?」など、積極的にバイヤーへ情報共有を図ることが重要です。

また、サプライヤー主導での事前教示申請サポート(情報提供・参考資料の作成など)は、現場力の高さをアピールする絶好のチャンスとなります。

差戻しトラブルが発生しやすい仕入先・商品リストをバイヤーに示すことで、「一段上のパートナー」として評価されるケースも少なくありません。

今後の業界動向:DXと標準化が求められる理由

事前教示×デジタル化の動き

最近ではデジタル化(DX)の波が顕著となり、通関書類やHSコード分類情報の電子化が進んでいます。

AIでのHS分類サジェストや、ERPシステムと事前教示記録を自動連携する企業も現れ始めました。

この流れに乗り遅れると、紙の資料や口頭伝達を巡る“昭和型トラブル”から脱出できません。

逆に、デジタル化の活用は現場の付加価値を高め、新しいビジネス機会を創出する武器にもなります。

HSコード情報のベースライン共有がカギ

輸入元・輸出元両者が同じデータベースにアクセスし、HS分類や事前教示情報をリアルタイムで参照できる体制づくりは、今後ますます重要です。

特に調達、品質管理、生産管理、物流など複数部門横断の連携が今以上に要求されます。

昭和の暗黙知や属人化を排し、
・どの製品に事前教示が必要だったのか
・変更時はどう対応し、どんなトラブルが過去にあったか
こうした業務知見を組織全体で標準化・データベース化しておくべきです。

まとめ:事前教示を活かして、停滞費ゼロの現場を実現しよう

輸入時のHSコード差戻しによる物流停滞は、製造業にとって“見えない大きなコスト”です。

事前教示の活用は、単なるリスク回避策ではなく、製造現場・サプライヤー・バイヤーすべてにとって「安定した生産・信頼の積み上げ」を実現するスマートな選択肢となります。

今、現場に求められるのは
・「慣例」や「前例踏襲」に頼らないラテラルな発想力
・調達・生産・品質の垣根を超えた総合的なリスク管理
・サプライヤー・バイヤー双方が顔の見える関係で知恵を出し合う“協創力”
です。

グローバル化とDXの流れをチャンスに変え、誰もが安心してモノづくりに集中できる現場環境を、共に築いていきましょう。

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