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EPA改正や累積原産地の活用でサプライチェーン全体の関税率を引き下げる方法

目次
はじめに
製造業を取り巻く国際的な環境は、年々複雑化しています。
その中でも「コスト削減」は現場で働く全ての方にとって、避けては通れない重要なテーマです。
特に調達・購買部門やサプライヤー、バイヤーにとって関税コストの削減は企業全体の競争力に直結します。
近年、EPA(経済連携協定)の改正や「累積原産地規則」の活用が注目を集めており、これを賢く使いこなせば、従来では実現できなかった大きな関税削減効果が期待できます。
本記事では、筆者の現場経験を踏まえつつ、昭和から続くアナログな商習慣の壁や、日本特有の業界動向も織り交ぜながら、EPA改正と累積原産地規則を活用したサプライチェーン全体の関税率引き下げについて具体的に解説していきます。
EPA(経済連携協定)改正と製造業への影響
EPAとは何か
EPA(Economic Partnership Agreement、経済連携協定)は、二国間または多国間で結ばれる貿易協定です。
関税の削減や撤廃だけでなく、サービス貿易、投資、政府調達、知的財産権など、幅広い経済活動の自由化・円滑化を推進します。
製造業が海外調達や海外生産を行う上で、EPAの有無や内容はコストに直接影響します。
EPA改正の潮流
日本はこれまでTPP(環太平洋パートナーシップ協定)、日EU・EPA、RCEP(地域的な包括的経済連携協定)など多くのEPAを締結してきました。
2020年代に入って各協定の内容も更新されており、対象品目や原産品認定の基準が拡大・緩和されるなど、企業活動の選択肢が広がっています。
とくに注目すべきトピックは「累積原産地規則」の導入です。
これにより、サプライチェーン全体の再構築や最適化が現実的かつ具体的なものとなっています。
現場目線からみるEPA活用の課題
従来の製造業の現場では、「EPAなんて海外と大企業しか関係ない、自分たちは関係ない」といった空気が根強くありました。
多層下請け構造が色濃く残る中小サプライヤーでは、EPA申請のための書類作成や、原産地証明の体制構築へのハードルは高いままでした。
しかし、半導体や電子部品の価格高騰、原材料調達のグローバル化などにより、今やどの規模の現場でもEPAの影響は「無視できないコスト差」となっています。
これを自らの武器とするためには、業種・事業規模を問わず「仕組みを理解し、部分的でも試してみる」姿勢が重要です。
累積原産地規則とは何か
累積原産地規則の基本
累積原産地規則(Cumulative Rules of Origin)は、複数のEPA加盟国で製品の生産・加工を行った場合でも、各国で付加された原産性が「合算(累積)」でき、その結果としてEPA特恵適用の原産品とみなすというルールです。
例えば、日本、タイ、ベトナムが参加するEPAにおいて、日本で作られた部品をタイで組み立て、最終的にベトナムで完成させるといったサプライチェーンでも、「域内で十分な付加価値が生まれていれば」関税ゼロで輸出できる可能性があるのです。
従来の原産地規則との違い
従来は最終加工国のみが原産地となり、部品ごとに原産地証明書を取り寄せ、国ごとに個別の対応を求められていました。
累積原産地規則の導入により、「域内協業」型のバリューチェーンが以前より容易に構築可能となり、各国の設備やメーカーの得意領域を活かして製品コストも競争力も高められます。
これは単なる「書類仕事の簡便化」ではなく、ものづくり全体の設計思想を問う革新的な変更なのです。
累積原産地規則を知るメリット
・複数国での生産活動がEPAメリットを最大限享受しやすくなる
・最適地生産や適材適所調達の幅が拡大する
・これまで“非関税障壁”となっていた煩雑な書類作業負担が減少
特に現場レベルでは、これまで経験のなかった海外協業が一気に現実的となった、あるいは、既存構成部品を「どこで作れば最も付加価値・証明性の高いサプライチェーンになるか」という新たな視点で調達先・生産先の再検討が迫られるでしょう。
サプライチェーン全体で実現する関税率引き下げ
バイヤー・調達担当者の現場での実践例
例えば「最終製品A」を自社が日本で輸出するとします。
主な構成部品Bは日本で製造していましたが、コストや技術面から東南アジアでの調達を検討。
その際、RCEP協定に基づき、現地のサプライヤーで加工・組立の一部を担当した場合でも、累積原産地規則を活用すれば「全体で付加価値基準をクリアしていればEPAの原産地要件を満たす」ことができます。
結果、最終製品Aの関税がRCEP協定国向けに実質ゼロ、もしくは大幅削減され、コスト競争力が飛躍的に高まります。
サプライヤーの立場から得られるメリット
累積原産地ルールについての理解を深め、自社のサプライチェーンの中で「域内生産の価値」を明確に打ち出すことで、「EPA対応可能な高付加価値サプライヤー」として国内外バイヤーから選ばれる可能性が上がります。
実際に、近年の調達現場では「EPA原産地証明対応サプライヤー」と「非対応サプライヤー」では見積もり依頼や新製品採用の率が大きく異なっています。
逆に、書類作成や証明フローに消極的だと、いくら製品力が高くても「グローバルサプライチェーンから外れる」リスクが高くなります。
昭和型アナログ慣行からどのように脱却するか
多くの老舗工場や中小企業では、「うちの会社にはEPAは関係ない」「証明のために役所や大手商社を何度も回るのが面倒」といった昭和的なアナログな思考が根強く、これが国際競争力低下の一因にもなっています。
しかし今や、大手バイヤー・グローバル企業では「EPA・累積原産地ルールへの対応力」が基本条件になりつつあります。
自社だけでの対応が難しければ、外部専門家やコンサルを巻き込み、例えば雛形文書や一括証明・外部委託体制を構築するなど、部分的でも先進事例を積み重ねていくことが重要です。
こうした地道なアップデートが、結果として次世代サプライチェーンの「選ばれる側」へと成長する近道です。
累積原産地規則活用の具体的ステップ
1:EPA協定・対象国の最新情報を把握する
まず自社製品の対象市場、または主要部材の供給元となる国がどのEPAに参加しており、最新の累積原産地規則・付加価値基準がどうなっているか常にアンテナを張る必要があります。
ジェトロや経済産業省HP、国別商工会議所などの情報が役立ちます。
2:自社製品の原産地判定シミュレーション
原産地規則は、製品ごと・協定ごとにルール(CTC変化、付加価値率、安全港基準など)が異なります。
自社の部材構成を洗い出し、どの工程をどの国で担えばEPAの原産地要件を満たせるか事前にシミュレーションすることが大切です。
3:サプライヤー・バイヤー間で原産地証明の擦り合わせ
累積原産地規則活用のためには、サプライヤー・バイヤー間で域内原産部材の「証明書類(自己証明・フォーマット宣誓書など)」を確実にやりとりする必要があります。
部分的にはERPやEDI、クラウドサービス活用も一案です。
製品認定までの作業分担は、最初にきちんと枠組みづくりをした方が、長期的に生産性が高まります。
4:コスト効果・リスク分析のフィードバック
関税率の削減が実際にどのくらいのコスト効果をもたらすか、証明作業・情報共有にどのくらいの手間(マンパワー)が必要かを現場で半年~1年運用して検証しましょう。
狙ったEPA特恵を得られないリスクや、制度改正による急な要件変更にも備えて、「柔軟な見直し」と「常時アップデート」のクセをつけることも大切です。
まとめ:「作って終わり」から「戦略的チェーン活用」へ
昭和的な「作って終わり」の現場発想から一歩踏み出し、サプライチェーン全体を戦略的に設計し直す時代が到来しています。
EPA改正と累積原産地規則の活用は、「やる気さえあればどんな企業でも挑戦できるコスト削減手法」です。
バイヤーもサプライヤーも、互いの立場を理解しつつ、最新の知見と実践例、ときには外部リソースも取り入れながら、グローバルで戦える日本型ものづくりの新しい地平線を切り拓いていきましょう。
関税削減を武器に、サプライチェーン全体の最適化ができれば、見積依頼の数は倍増し、新規案件獲得・生産規模拡大の好循環にもつながります。
現場で日々奔走されている製造業従事者、これからバイヤーを志す方、そしてサプライヤーとして時代に適応したい皆様に、ぜひ一歩踏み出して「累積原産地の活用」を進めてほしいと願います。
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