投稿日:2025年9月9日

ピックアンドプレースの配置改善で無駄な手伸ばしを削り組立時間を短縮

はじめに:現場の「手伸ばし」がもたらす無駄とは

製造業に従事する多くの方々が経験するのが、組立作業時の「無駄な手伸ばし」です。
部品を取り、置き場に移動させる――。
この一連の動作に潜むムダは、たとえ一人1秒のロスでも、全体工数に換算すればあっという間に膨大な時間となります。

昨今、ピックアンドプレース(Pick and Place)自動化が進む工場もあれば、昭和から続く配置のまま改善されていない現場も多数存在します。
本記事では、長年現場で培った観点と最新の業界動向を交え、無駄な手伸ばしを徹底的に削減し、工程短縮と生産性向上を実現するための配置改善のポイントを解説します。

ピックアンドプレースとは何か?

基本的な定義と現場における重要性

ピックアンドプレースとは、部品や製品をピック(つかむ・取る)、そして所定の位置へプレース(置く)する作業や機構を指します。
組立工程、検査工程、出荷工程など、様々な生産現場で見られる極めて基礎的かつ頻度の高い動作です。

この一連の動作で、以下のような「ムダ」が発生しやすいのが現実です。

– 取りづらい部品配置による手探り
– 作業者同士の動線干渉
– 重複した動作や位置の無駄移動
– 置き場所が不明瞭で生じる探し時間

結果として、タクトタイムの増大、生産能力の低下、ひいては現場の士気低下にも繋がります。

アナログ現場にもこびりつく“昭和的レイアウト”

私の経験では、数十年前のままの棚や作業台の配置、ベテラン作業者任せの「勘とコツ」だけでやりくりしている現場を多く見てきました。
本質的な配置改善が行われない理由は、現場特有の「これで上手くいっている」という思い込みが根強いためです。

昭和の高度成長期に最適化された作業手順や物の配置も、現在の部品点数増加や少量多品種化の流れにはもはや追いつけません。
まずは現場に潜む無駄な手伸ばしがどこに根付いているのか、根本原因を洗い出す視点が必要です。

なぜ“手伸ばし”が組立時間を圧迫するのか

「1秒」の積み重ねが大きなロスにつながる

たとえば基板組立の現場を例に挙げましょう。
A部品のピック位置が作業者の体の左斜め前、B部品の配置が右奥にある場合。
A部品をピックするたびに体をひねる、B部品を取るために一歩前に出る――そんな無意識のムダな動作が、日々の膨大な組立ロスの根源となります。

仮に一つの工程で1秒の余計な手伸ばしがあり、1日300個の組立があるとします。
1人1日5分のロス。
全5ライン20人の生産現場では1日100分(=1.6時間)、年間では360時間もの損失となるのです。

動作分析で明らかになる「無駄の連鎖」

ここで重要なのが、「なぜその場所に部品があるのか」「なぜ作業が流れに沿っていないのか」をロジカルに分析することです。
私の現場経験では、無駄な手伸ばしの背景に、次のような根本原因が見られました。

– 部品補充者の補充のしやすさ重視で作業者の動線軽視
– レイアウト変更の度に、場当たり的に棚や箱が配置されてきた
– 定位置管理が徹底されておらず、各自やりやすい場所に置き直してしまう
– 生産変動や品種切替時に応じて適切な再配置が行われていない

この「ちょっとの不便」の無意識な積み重ねが大きな損失に繋がるのです。

ピックアンドプレース配置改善の現場的アプローチ

作業観察とムダ取りのプロセス

配置改善の基本は「現場・現物・現実」です。
まずは実際に作業者の手元と、その動線をじっくり観察することから始めます。

– 動作観察(VTR分析やライブ観察)
– 作業者へのヒアリング(どこに困っているか、その理由)
– 動線シミュレーション(人間工学/IE手法の活用)
– ポカヨケ(取り間違い防止)視点での配置検討

動作ごとに「この部分にはなぜ動作が発生するのか」「本当にここに部品箱がある必要があるか」を問い直します。

ヒントとなるのは、IE(インダストリアル・エンジニアリング)の「動作経済の原則」です。
物をとるなら体から20cm以内、取って置く作業は左右対称に、ムリな姿勢は避ける――など明確なガイドラインがあります。

現場改善の鉄則「最小限の動きで最大効率」

改善の肝は「体の移動ゼロ、腕と手先の最短移動」に極力近づけることです。

たとえば、
– 主要部品は作業者の利き手側に集中
– 消耗品は引き出し式や回転棚も活用
– ピッキングリストや作業指示書も見やすい位置(視線移動の最小化)

また、部品ボックスは取り出しやすい傾斜棚にし、「手前にピック→奥にプレース」といった動きの一方向化も有効です。

私が実践した現場では、大型部品の箱を“腰の高さ”に配置し、小物部品は“目の高さ”に専用棚を設けました。
部品毎に色分けラベルや形状違いの仕切り板も用意し、「探す」作業自体をゼロにすることにこだわりました。

デジタル×アナログ混在現場での改善ポイント

自動化ロボットの活用と人手作業の融合

ピックアンドプレース工程はロボット化されつつありますが、完全な自動化が困難な現場はまだまだ多いのが実情です。
特に少量多品種対応や、組立に微妙な力加減・位置調整が必要な工程では、人の手が不可欠です。

このような現場では、ロボットやAGVと人手作業の最適融合が求められます。
– 大量・反復工程は自動化ラインへ
– 多様で変則的な組立は人手+ガイド治具の併用

さらに、IoTによる部品消費量の可視化、ピック…プレース工程のタイムスタディ自動記録など、デジタルデータを現場改善に活かす事例も増えてきました。

アナログ現場でも活かせるデジタル起点の発想

私が昭和型工場で実践した簡易デジタル改善例としては、以下の工夫が有効でした。

– 作業ごとのピック数・時間集計を安価なカウンターやタイマーで測定
– 部品ピック位置をスマホやタブレットで写真撮影し、現場全体で「ベストな配置」を共有
– ライン長が毎日の工程終了前に“改善写真”を撮り、配置崩れを巡回して是正指示

これらは高価なIoT機器がなくてもできる「デジタル+アナログ」の現場改善です。
現状のままにせず、一歩踏み込んだ工夫が大きな効果を生んだ実例です。

組立時間短縮で得られる具体的メリット

現場の生産性向上・多能工化促進

配置改善による組立時間短縮は、ただ速くなるだけではありません。
作業者一人ひとりの負荷が下がり、誰がやっても同じ工程が容易に再現できるようになります。
これは標準作業の徹底・多能工化の促進にも直結します。

– 学習時間が短くなり、新人もベテランに近いスピードで独り立ちできる
– 不調や怪我による一時的な人員交代にも柔軟対応可能
– 作業品質の安定にも繋がる(工程保証)

工程内在庫の圧縮とリードタイム短縮

ピックアンドプレースの配置改善は、工程間の仕掛品・在庫量削減にも貢献します。
速く正確に組立できることで、上位工程から下位工程への引き渡し回転が向上。
全体リードタイム短縮へ大きく寄与します。

特に調達購買や生産管理の立場から見れば、「少量多品種」「短納期」時代でも在庫負担を増やさない大きな武器となります。

サプライヤー・バイヤーが知るべき現場変革の発想

バイヤーの視点:何を観て、サプライヤーに何を求めるか

購買バイヤーは、サプライヤーの現場を訪問することがあります。
この時、単なるコスト比較ではなく「効率的な現場運用が徹底されているか」を重要な評価軸としましょう。

– ピックアンドプレースの動線、配置は最適化されているか
– 無駄な手伸ばしや動作が目立たないか
– 各作業の標準化、その遵守レベルはどうか

こうした点をチェックし、「透明性ある現場改善」にサプライヤー自らが取り組んでいるかは、調達先の継続的な競争力のバロメータになります。

サプライヤーへ:自ら現場を“見せる”姿勢を

逆にサプライヤー側も、「うちの現場はこうして効率化しています」「この配置改善で●%の短縮に成功しました」と、可視化・数値化して訴求することが重要です。

一見地味な取り組みでも、「コストダウン提案」「リードタイム短縮能力」「安定供給体制」といった付加価値が評価に繋がります。
また、現場発の改善提案は新たな受注チャンスを生むきっかけにもなります。

まとめ:昭和的現場からの進化と成果の作り方

ピックアンドプレースの配置改善とは、単なる現場の小手先改革ではありません。
現場で地道に根付いた「無駄な手伸ばし」の本質――それは過去の思い込みや、場当たり的な運用の積み重ねにあります。
現場力とは、一人ひとりが声を上げ、動作一つ一つに気を配り、数字で成果を見える化できる文化を作ることです。

アナログ時代の常識を問い直し、デジタル技術と融合させることで、新たな地平線(効率化・競争力強化)が見えてくるはずです。
今日から「ムダな手伸ばし撲滅」への一歩を踏み出して、現場の未来を自ら切り拓いていきましょう。

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