投稿日:2025年8月14日

トヨタ式三定の徹底でムダな動作と仕掛在庫を排除し原価を下げる現場改善

はじめに ― トヨタ式三定がもたらす真の価値

トヨタ生産方式といえば、今や世界中の製造業に浸透している「現場改善(カイゼン)」の代名詞です。

その中でも、三定(さんてい)と呼ばれる「定位置・定品・定量」は、現場を徹底的に合理化し、ムダな動作・不良品・仕掛在庫を排除する極めて実践的なメソッドとして知られています。

しかし、あまりにも当たり前に語られるがゆえに、実際には「形だけの三定」や「昭和から変われないアナログ現場」も数多く存在します。

本記事では、20年以上製造現場で指導と改善を続けてきた立場から、“三定徹底”の本質、仕掛在庫や原価削減へのインパクト、三定浸透のための現場目線の実践ノウハウをお伝えします。

バイヤー、購買担当者、部品メーカーなどサプライヤーの方にも必ず役立つ視点を交えて解説します。

トヨタ式三定とは?現場改善の出発点

三定の定義 ―「場所」「物」「量」を徹底管理

三定とは、「定位置」「定品」「定量」の3つの「定(さだめる)」の原則です。

– 定位置(物の置き場所を決める)
– 定品(置くべき物そのもの=品種を決める)
– 定量(そこに置く物の数量を決める)

たとえば、ある作業者の手元箱に「+ドライバーはここ、2本」「ネジはこのカップに100個」と明確に設定し、それが常に守られている状態が三定です。

この単純明快なルールが生産ラインの流れをスムーズにし、探す・持ち替える・取り違える・余剰ストック等々あらゆるムダを消し去ります。

現場でよくある“あるある三定崩壊”

実際の工場現場では、「三定をやっている」と言いながら、次のような状態をよく目にします。

– 使い終わった工具があちこちに置かれ、片付ける人次第で場所が変わる
– 補充のたびに部品の箱が変わり、中身もバラバラ
– 必要数量よりだいぶ多め・少なめに供給される
– 「アレはどこに?」が頻発し、探す時間が増加

形を模倣しただけの三定では仕掛在庫や動作のムダは減りません。

トヨタ式三定を生かしきるには、“現場の生の動線・仕事のクセ”に合わせて、徹底的に現場目線で設計し直す必要があります。

なぜ三定で仕掛在庫・ムダな動作が消えるのか

仕掛在庫が膨らむメカニズム ― 管理の曖昧さがトリガー

「とりあえず多めに」「どこに置いてもいい」が横行すると、在庫の山ができ、鮮度の落ちた中間品があふれます。

三定の最大の効力は、「いま・ここで・必要なだけ」以外は仕入れず、供給せず、置かない、という徹底した絞り込みです。

定位置よりあふれる分は持ち込まない、定量ぴったりまでしか補給しない。これを全員が守るからこそ「何が・いつ・いくつ足りないか」が即座に可視化され、必要以上の仕掛が生まれません。

動作のムダ ― 探す・運ぶ・考える、すべてがロス

製造現場で1日に作業員が「物を探すのに使う時間」が10分あるとします。

100人いれば1日で約17時間、月でおよそ400時間分もの人件費が“ムダ”として消えます。

三定が徹底されている現場では「まず迷わず手が伸びる」「どこになにがあるか一目瞭然」「ストック切れも即座にわかる」ため、動作のムダがほぼゼロに近づきます。

三定徹底が“原価”を真に下げる理由

表面だけのコスト削減では生き残れない

昭和から続くメーカー現場では「一円五厘の原価低減を毎年目標に」といった掛け声が根強く残っています。

しかし、部品単価や人件費を単純に削減するのには限界があります。

三定を通じて現場のムダと仕掛在庫を根こそぎ減らすことこそ、原価競争時代の真の生存戦略なのです。

三定から生まれる“隠れた利益”

– 在庫スペースの圧縮 → 倉庫・保管費用の削減
– 仕掛在庫の減少 → キャッシュフローが改善
– 不良品の早期発見 → 廃棄ロスを削減
– 作業効率UP → 残業・人員の適正化が可能
– 事故・労災リスクの低減 → ムダな訴訟・保険コスト回避

これらは表面に出づらい“隠れコスト”ですが、三定徹底によって現実に利益となって表れる部分です。

アナログ企業に根付く“昭和流”と三定のすれ違い

現場に根強い“自己流アレンジ”の落とし穴

製造業ではノウハウ継承の名のもとに、「うちのやり方」を重視し、三定マニュアルを自己流にアレンジする現場が少なくありません。

例えば、

– 作業工程ごとに微妙に呼び方が違う
– ベテラン職人ごとに工具棚の配置が異なる
– 管理帳票だけが立派だが現場はカオス

こうした“昭和的職人気質”は現場のモチベーション維持には一利ある一方、全体最適や標準化を目指す三定とは実は相容れにくい部分です。

「変える怖さ」と「現場の納得」が最大の壁

三定改革は「誰かの仕事のやり方を変える」ため、現場では強い抵抗や不安も生まれます。

特にアナログな現場ほど、「今までこれでやってきた」という心理的な壁が高いです。

– 「外部コンサルに口出しされたくない」
– 「急なルール変更で混乱しそう」
– 「本当に良くなるのか?」

改革を成功させるには、現場のベテラン・中堅・新人すべてが納得し、「自分にこんなメリットがある」と実感できる仕掛けが不可欠です。

現場目線で実践する三定徹底のコツ

1. まず“ムダの見える化”から始める

いきなり三定ルールを押し付けるより、現場で実際に「物を探す・取り違える・余計に歩く」瞬間をムービーやドラッグで“見える化”することから始めましょう。

現場の誰もが「ここが損してる」「ムダだった」と実感することが改革意識の第一歩になります。

2. 定点観測で微調整し続ける

三定は一度決めて終わりではありません。

生産品種や作業者メンバーが変われば最適な三定も変化します。

1週間に1回は現場リーダーと「今の三定、この場所、本当にベストか?」を定点観測しましょう。

必要に応じて棚や箱のサイズ・配置・POP表示も変更します。

3. 全員が納得& “三定の理由”を現場に落とし込む

「なぜ、ここに100個?」「なぜ、箱の色を変えた?」といった現場の疑問を“現場リーダー会議”などで徹底的に議論します。

トップダウンで進めるだけでなく、「どうしたら自分たちの作業が楽になるか」「困りごとが減るか」を全員で考え、現場発信のルール作りに巻き込みましょう。

4. ポカヨケを組み合わせてヒューマンエラーをゼロに

例えば

– 棚の形状を部品ぴったりサイズにし、違う物はそもそも入らないようにする
– 工具・治具の色分けで「混入」「持ち間違い」を物理的に排除

こうした“ポカヨケ”と三定を組み合わせることで、ヒューマンエラーは劇的に減ります。

5. デジタル活用も組み合わせて「アナログ三定」を進化させる

たとえば現場で

– タブレットで部品供給・在庫数を即時記録
– QR・RFIDで定量チェッカーを自動化
– IoT棚で「定位置」「定量」からズレたら警告表示

といったデジタルツールを併用することで、三定の守りやすさ・見える化が格段に上がります。

アナログ現場ならではの「見やすい現物表示」とIoTを組み合わせると効果的です。

“バイヤー・調達”“サプライヤー”視点での三定活用術

バイヤー・調達担当は三定の実態を見抜くのが最重要

仕入先の現場を視察する際、「三定の原則が本当に徹底されているか」を細かく観察しましょう。

– 異種部品が混入しない導線になっているか
– どの在庫が何個あるか、作業員が即答できるか
– 現場の整理整頓が維持されているか

三定の完成度が高いほど部品納期遅れや品質不良のリスクは激減し、「信頼性の高い供給先」を見極める目安になります。

サプライヤー側は“三定自慢”が強力な営業武器になる

「ウチの現場、三定徹底で仕掛在庫〇割減」「全工程でヒューマンエラーゼロ」といった実績データを定量的に開示しましょう。

これが「きめ細かい生産対応」「不良・遅延発生リスクが極小」に直結し、取引先のバイヤーに“安心材料”“提案力”をアピールできます。

まとめ ― 三定徹底が製造業の未来を切り拓く

三定は、単なる「5S」「整理整頓」の延長ではありません。

徹底した三定こそが、現場の仕掛在庫・ムダを劇的に減らし、原価を大幅に下げ、現場の安全と品質を底上げする「真の競争力」につながります。

昭和的やり方が根強い現場でも、現場目線で徹底的に“納得”を積み上げ、定量的エビデンスとデジタルの力も借りて三定を進化させることが、これからの時代の最良の現場改善手法です。

現場で毎日働く皆さん、調達・購買を目指す方、バイヤーの視点を知りたいサプライヤーの方。

“三定徹底”で、ぜひ現場改革・原価低減・新しい価値の創造に挑戦してみてください。

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