投稿日:2025年6月27日

安全装備着用を自動確認するスマートソリューション共同開発で労災リスクを削減

はじめに――安全装備の着用と現場の課題

製造業の現場では、ヘルメットや安全ベストなどの着用が法令や規則により義務づけられています。
しかし、現場では「分かっているけど面倒」「忙しいからつい省略」という心理が働きやすく、完全なる着用徹底は理想論になりがちです。

また、管理職や安全担当者の中には、昭和から続く“巡回確認”や“声かけ”といった人力管理に頼り続けている方も少なくありません。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が到来している一方で、「安全=アナログ」の固定観念が根強く残っている現状があります。

では、現場の負担を増やさず、確実に安全装備の着用状況を可視化し、ヒューマンエラーや抜け漏れをゼロに近づける方法はないのでしょうか。
今回は、私自身が現場管理者として経験したリアルな課題も織り交ぜながら、「安全装備着用を自動確認するスマートソリューション」の共同開発事例や今後の可能性を、ラテラルシンキングで深掘り解説します。

なぜ安全装備の徹底が難しいのか――現場目線の3大課題

1. ヒューマンエラーと“慣れ”の壁

安全管理の根幹は、「人の行動の管理」にあります。
現場は一日に何百・何千件と作業が連続し、同じ動作を繰り返すうちに“慣れ”や“面倒”が先行してしまいがちです。

管理者が朝礼でいくら注意喚起しても、業務が始まるといつしか注意が散漫になります。
本来あるべき姿と、実際の運用とのギャップが生まれやすいのが、現場の正直な実情です。

2. 巡回確認の限界と属人化

従来は安全担当者の「巡回」に頼る部分が大きくありました。
しかし、現代の人員削減・コスト削減の流れで、十分な人数を割けない現場も多いです。

また、熟練した管理者の“目利き”で成り立っていた部分が、その人の退職や異動とともに継承されず、ノウハウごと喪失するリスクも内在しています。
データ化が進まない現場特有の“属人化”=リスクの温床です。

3. “見ているだけ”の監視カメラに頼れない理由

最近は防犯・監視カメラの設置が進んでいますが、多くが“映像記録のみ”に留まっています。
リアルタイムに「誰が何の装備を着用していないか」を解析できる現場はまだ数少なく、結局は後追い確認の域を出られないのが現状です。

その結果、「労災事故が発生した後になって記録を遡って確認する」——昔ながらの受け身の安全管理にとどまってしまうのです。

スマートソリューションによる根本的アプローチの重要性

この数年、自動確認技術の進化によって、“未着用の見逃し”をゼロに近づける仕組み作りが現実味を帯びています。
単なる映像記録から一歩踏み出し、スマートカメラやAI画像認識、IoTタグ技術を駆使したリアルタイム自動解析です。
我々バイヤー・サプライヤーにこそ、時代を牽引するラテラルな発想が求められています。

AI画像認識×IoTで現場はどう変わるか

例えば、出入り口や作業エリアにAI搭載カメラを設置します。
就業者が通過する際、その映像からリアルタイムで「ヘルメット」「安全ベスト」「ゴーグル」等の着用有無を自動判定します。

もし未着用者がいれば、速やかに管理者や本人へ警告を発信し、事故発生を未然に防止。
ログデータとして履歴も残るため、傾向分析や教育指導に有効活用できます。

IoT技術と連携すれば、パーソナルのIDタグと装備品の連動確認も実現可能。
例えば「ユーザーIDタグ+装備品のRFIDタグ」で、“誰が何を着用しているか”が正確に紐付けでき、「装備未着用で危険エリアに入ると自動でロックする」など新たなオートメーションも夢ではありません。

人間の心理的負担を減らす仕組み設計

従業員にとって「着用確認を毎分チェックされる」ような監視型のシステムでは、心理的プレッシャーや反発が生じる恐れも否めません。
そこでポイントとなるのが“現場と一体となった共創開発”です。

開発段階から現場職員を巻き込み、「不快感のない通知」「着用忘れを防ぐ導線設計」など、ユーザーインの視点で課題解決にあたることで、システム受容性が飛躍的に高まります。

業界を変革する共同開発の舞台裏

バイヤー・サプライヤーがタッグを組む意味

最先端技術の導入にあたって、購買部門(バイヤー)は調達コスト・導入効果・運用現場からの実効性という3つの壁にぶつかりがちです。
一方、サプライヤー側は現実を知らずに机上の空論で開発を進めてしまい、現場にフィットしないシステムを押し付けがちです。

本当に現場で機能するスマートソリューションは、現場経験に裏打ちされたバイヤー(=現場の課題を熟知)と、最新技術を有するサプライヤー(=解決策を形にする技術力)が“対等にタッグを組み”、共通ゴールを描くことで初めて生まれます。

失敗しないための共同開発プロセス

成功するプロジェクトには、次の3つの要素が重要です。

1.現場の“困りごと”の徹底ヒアリング
 現場メンバーとのワークショップやヒアリングを十分に行い、どんな場面で着用抜けが起こりやすいのか、どんな通知・管理方法が有効なのか、ありありと現場の実情を洗い出します。

2.アジャイルな試行錯誤
 設計・検証・改善のサイクルを頻繁に回し、“絵に描いた餅”にならないよう、小さな成功例を積み重ねます。
 また“失敗してもすぐに改善する”アジャイル的発想が、現場導入のカギを握ります。

3.運用フェーズでのフォローアップ
 導入後も定期的に現場に足を運び、データ分析や、見逃し事例の吸い上げ、新たな課題のフィードバックを行うことで、運用定着を盤石にします。

導入事例のリアルな成果(某自動車工場のケース)

実際にスマートソリューションを導入した某大手自動車工場では、以下のような成果が現れました。

– 安全装備の着用率が95%→99.9%に向上
– 「装備未着用」によるヒヤリ・ハット報告件数が導入半年で90%減
– 巡回確認工数が大幅削減され、現場パトロールの“質”向上へ転化

さらに、AIデータから「特定作業や時間帯で着用忘れが多い」などの分析が可能になり、注意喚起や工程改善にも役立っています。
現場からも「安全管理に対する意識が向上した」「声かけの心理的負担が減った」というポジティブな声が増えました。

アナログ脱却&業界進化のラテラルシンキング

昭和の手法に固執すれば、業界はその成長を止めてしまいます。
とはいえ、現場のリアリティや“今あるものを否定しすぎない折衷策”も欠かせません。

例えば、アナログチェックリストとスマートソリューションのハイブリッド運用。
「システムによる日常確認+週1回の人の目による現場巡回」を組み合わせ、双方の良さを活かした安全管理体制を築けます。

また、“着用忘れ”をゼロにするだけでなく、「なぜ忘れてしまうのか」の傾向を掘り下げ、工程設計や更衣室配置など現場設備そのものを改善するキッカケにもなっています。
これぞ水平思考による“新たな地平線”の開拓です。

今後の展望とバイヤー・サプライヤーへのメッセージ

安全装備の自動確認ソリューションは、まだ発展途上です。
将来的には、データとAIの活用により「事故発生の予兆検知」や「適材適所の配置最適化」など、より高次元の安全・効率管理へ進化するでしょう。

現場の実情に寄り添い、アナログの良さも取り入れながら、サプライヤーとバイヤーが力を合わせ「現場から生まれるイノベーション」を育てていくこと。
それが21世紀のものづくり=“人の命と未来を守る礎”だと私は強く感じています。

製造業で働く皆さん、新たな安全文化を共に創っていきましょう。
バイヤーを目指す方、現場と向き合うことで価値ある提案が生まれます。
そして、サプライヤーの皆さん、「本当に現場で使える」スマートソリューション開発に、ぜひ“現場目線”を持ち込んでみてください。

最後に。
「安全は人の手で守るもの」という伝統的価値観と、「AIやIoTで守れる未来」というラテラル発想。
2つの知恵が手を取り合ったとき、製造業の現場はかつてないほど輝きを増すと、私は信じています。

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