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製造業の物流における環境負荷削減とSDGsへの取り組み

目次
はじめに:製造業の物流とSDGsの密接な関係
製造業において、「ものづくり」の川上から川下まで、あらゆる工程と不可分なのが物流です。
長い間、製造現場で重視されてきたのはコスト削減や納期短縮でした。
しかし、昨今のSDGs(持続可能な開発目標)への社会的関心の高まりや、脱炭素社会への移行が迫られる中、物流現場にも環境負荷低減やサステナブルな経営が求められるようになってきました。
昭和時代のアナログな手法が色濃く残る現場では、「環境対策はコスト増にしかならない」と懐疑的な声が根強いのも事実です。
しかし、現場目線で突き詰めると、環境負荷削減は単なる義務やコストではなく、長期的には競争力に直結する投資であり、むしろ生き残りの条件であることが見えてきます。
この記事では、物流工程における環境負荷削減の必要性と、その実務的な取り組み、そしてSDGsを物流改善に活かすためのヒントを20年以上の製造現場経験と管理の視点から解説します。
なぜ製造業の物流が環境負荷削減を迫られるのか
サプライチェーン全体のCO₂排出量と企業責任
製造業は多様で広範なサプライチェーンを構築しています。
原材料の調達から製品の納品に至るまで、物資が移動する過程の全てでエネルギー消費とCO₂排出が避けられません。
サプライチェーン全体のCO₂排出量「スコープ3」に対する開示義務が、欧米を中心に求められるようになったことで、日本の製造業でも取引先から環境負荷情報の提出が求められるケースが増加しています。
バイヤー(調達担当者)は、価格や納期に加えて、サプライヤーがどれだけ環境配慮した物流を行っているかを重視するようになっています。
これはSDGsの「目標12.つくる責任 つかう責任」とも直結しています。
環境配慮型調達基準(グリーン調達)の定着
グローバル企業は、購買基準(グリーン調達)にサステナビリティへの取り組み状況を明記するケースが増えています。
サプライヤーが環境負荷の高い物流方法を取っている場合、最悪は取引停止という事例も顕在化しています。
サプライヤー視点からすれば、「バイヤーが物流過程の環境負荷まで見ている」ことはもはや常識です。
これからの調達や営業では、環境負荷低減に資する自社の物流戦略を訴求することが商談成立・継続の分かれ道にもなりえます。
物流2024年問題とサステナビリティ要件の融合
近年話題となっている物流2024年問題、トラックドライバーの時間外労働上限規制など、物流運用そのものも大きな転換点を迎えています。
輸送効率化やトラック台数削減など、働き方改革と環境配慮が連動した取り組みが不可避となっていきます。
物流における環境負荷低減の具体的な切り口
積載効率の最大化:物流改善の第一歩
トラックやコンテナを空気ごと運ぶのは昔から「物流のムダ」の象徴でした。
ですが、昭和時代の「なんとなくみんな並べて積む」感覚から抜け出せず、パレット単位やバラ積みでスペースにまだまだムダが潜んでいる現場も多いのが実情です。
IoTや荷物の3Dスキャン技術で容積計算を自動化し、「1台あたり最大何%積めるのか」をデータで明確化する取り組みは、CO₂排出量の削減=環境負荷低減に直結します。
積載効率が1割向上するだけでも、トラック便数・燃料・排出ガスの3点が同時に削減され、コストダウンと環境負荷低減が両立できるのです。
幹線輸送のモーダルシフトと共同配送
CO₂削減の本命とされているのが「モーダルシフト」です。
長距離輸送を、トラックから鉄道や船へ切り替えることで、同じ距離あたりのエネルギー消費を大幅に減らせます。
特に日本では、鉄道貨物の利用が大企業中心に拡大しつつあります。
さらに、同業他社や取引先と共同で配送・幹線輸送を行う取り組みも注目されています。
メーカー同士で物流情報をオープンにし、同じエリアの荷物をまとめて運ぶことで、トラックの空車率が減り、輸送効率が劇的にアップします。
協業によるCO₂削減は、SDGsの「目標17.パートナーシップで目標を達成しよう」とも強く結びついています。
梱包・包装の見直しと再資源化
段ボールやパレットなど、梱包材にも環境配慮が欠かせません。
一回限りで捨ててしまう梱包材から、リターナブル(再利用可能)梱包やリサイクル材への切替は、廃棄物の削減=環境負荷低減につながります。
また、出荷時の紐やラップなどを減らすことは、現場作業の省力化にも一石二鳥です。
バイヤーの多くは、「梱包も環境配慮型ですか」と必ずチェックしています。
梱包に手を抜くと、小さな違和感が大きな信頼低下につながることもあるため、物流工程の中でも重要なポイントです。
SDGs達成のための現場目線の実践例
アナログ作業のデジタル化でミス・ロス削減
昭和から続く紙伝票、手書きの荷札、電話やFAXによる出荷指示…まだまだ日本の現場では見かけます。
これらのアナログ業務はミスややり直しの温床であり、そのたびに余計な配送・資材使用という環境負荷も発生しています。
最新の倉庫管理システム(WMS)や搬送ロボット、バーコード・RFID活用によって、誤出荷や再配送のリスクを減らし、資材ロスや不要な輸送の発生を食い止めることができます。
これもSDGsの「目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう」に直結する活動です。
ホワイト物流宣言への加盟と社内意識改革
国も主導する「ホワイト物流」運動は、単なる働き方改革だけでなく、効率&環境に優しい物流の定着を目指すものです。
具体的には、荷待ち時間の削減、パレットの標準化、納品リードタイムの見直しといった、現場負荷と無駄を同時に減らす施策が奨励されています。
運送会社まかせにせず、メーカー自ら荷主側として物流改善に動くことで、バイヤーからも「サプライチェーン全体に責任を持つ企業」と高く評価されます。
従来の「物流=コストセンター」という発想から、「物流=バリュー&環境価値創出の場」という意識変革が重要です。
納入先との協働による「究極のジャストイントタイム」
SDGsは「社会全体最適」を目的とした目標です。
自社の納期やロットを工場事情で一方的に決めたり、「まとめて出した方がラク」と勝手に大量出荷したりすることは、相手側の在庫・待ち時間増加につながり、全体のムダ=環境負荷増を招きます。
あくまで納入先や運送会社と話し合い、「現場に最もムリ・ムダ・ムラの無い納品方法は何か」「どこを協力すれば効率的か」をラテラルに考え直すことで、ジャストイントタイムと環境配慮の両立が可能です。
現場の知恵が新たな物流ソリューションを生む原動力となります。
業界トレンド:物流DXとLCA(ライフサイクルアセスメント)の融合
物流のデジタル化(物流DX)が加速する一方、製品LCA(ライフサイクルアセスメント)の視点も事業・現場に急速に浸透しています。
「製品一つ一つのCO₂排出量はいくらか」「物流過程がCO₂排出量の何割を占めるか」といったデータに基づく可視化が、経営会議や営業活動で求められています。
サプライヤーにとっては、「うちの出荷ルートだとCO₂は〇kg/台ですよ」と説明できることが他社との差別化ポイントになりえます。
また倉庫や物流センターにおいても、再生可能エネルギーでの運用、EVフォークリフト・トラック導入、ソーラーパネル設置など、より本質的な脱炭素化が進み始めています。
バイヤーがSDGsを重視する今、物流現場の地道な改善とデジタルデータの蓄積は、サステナブル調達の選定基準そのものになる時代に入っています。
まとめ:物流改善は「現場力」と「共創力」が鍵
製造業物流における環境負荷削減・SDGs対応は、単なる社会貢献や企業イメージアップにとどまりません。
大手バイヤーや最終消費者の意識変化に伴う強力な営業・調達要件となり、サプライヤーの「淘汰」時代が静かに始まっています。
その一方で、現場発の小さな改善やサプライチェーン全体を巻き込んだ協業によって、「コストダウンと環境配慮の両立」がリアルに実現可能な時代でもあります。
昭和のやり方にこだわらず、データやテクノロジーを駆使し、「みんなで持続可能なものづくり」を共創することが、これからの物流現場・調達担当・サプライヤーの価値創造につながるのです。
今こそ、物流改善と環境負荷低減を自社競争力の源泉と位置づけ、現場からSDGs時代を切り拓いていきましょう。
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